いと
糸
今日も糸を辿っていく。
昨日と同じように朝8時に起きる。
いつもの通学路をいつものように全力で走る。
走らないと遅刻する。
いつもの教室に入っていつものように授業が始まる。
あぁ、なんてつまらないのだろう。
毎日の繰り返し。
このままでいいのだろうか。
このまま過ごして私は何を手に入れられるだろうか。
毎日同じように辿る糸は、時に私が「いつも」から逃げたくて走って逃げようとすれば体に絡みつき私の邪魔をする。
そうして、また私は諦める。
諦めるから、結局また「いつも」に戻される。
いつも通り、部活に行く。
部活はバスケ部だ。
中学の時から始めたバスケ。
中学のころ、バスケが大好きで毎日つらかったけど仲間と練習に励んだ。
あの頃は見る世界がキラキラしてた。
あの頃は糸なんて辿ってなかった。
高校でも中学の時みたいにバスケを頑張ろう
そうやって決めてた、胸がときめいていた。
しかし、現実はうまくいかない。
高校のバスケ部は中学の時のようにやる気のない人ばかりだった。
練習もやったとしてもダラダラしてて、部活の大半は体育館の隅に座り込んでガールズトークに花を咲かせるだけだった。
それでも頑張ろうと思ってた。
1人での練習は虚しかった。
……いつしか私も、バスケをやらず体育館の隅で固まるゴミのようになっていた。
結び目
女子バスケ部のメンバーは
主に3人主要人物がいる。
気が強く自分が1番じゃないと気に入らない美香。
天然で人気のある愛梨。ファッションセンスやスタイルがいい真理子。
その3人とほかの部員合わせて9人いる。
ほかの部員はその3人に逆らうことはできない。
スクールカーストだ。
私はその3人と仲良くやってる。
3人には呼び捨てで菜緒花と呼ばれている。
もし、今私がやる気を取り戻してバスケの練習をしたとしてもその3人がよく思うはずがない。
意図
いつものように練習をサボり部活を適当に終わらせて、みんなで帰る途中にリュックに付けていたお気に入りのキーホルダーがないことに気づいた。
「あ、ごめん!みんな先帰ってて!」
そういって、走って取りに行った。
もう、だいぶ暗くなってるし生徒もほとんど帰っている。
夜の学校は怖くて嫌いだ。誰かに付いてきてもらえばよかったと後悔しつつ体育館まで走る。
(あれ、まだ明かりついてる)
体育館のドアから光がもれている。
そっとその隙間から中を覗くと、
誰かが1人で練習をしていた。
……伊藤直也だ。
男子バスケ部のエースだ。
彼のことは中学の時から知ってる。
バスケをしている時の彼は思わず目が奪われるほど素敵なのだ。
シュートを次々に決めるその姿勢はとても綺麗でつい見とれてしまった。
「……おい、誰かいるのか?」
(やばっ、バレた!)
「ごめんなさい、体育館に忘れ物しちゃって……」
「お前、女バスの柴田だよな。ついでにシュートの本数で勝負しようぜ」
「え!」
「ほら、はやく。」
服を掴んで連れてかれる。
久しぶりに立ったゴール前。
ボールを渡されてしぶしぶ勝負することに。
スパッ
この音だ。久しぶりに聞く音は私に昔のバスケが楽しくて仕方なかった時のことを思い出させる。
「お前さ、ほんとはちゃんとバスケしたいんだろう?」
「え?」
「お前のことずっと見てたから知ってるよ。中学の時からバスケ好きなんだろう?」
「どうして知って……」
「中学のとき、試合でお前のこと見てからずっと好きだった。バスケしてる時キラキラしてて。けど高校入った途端ずっと顔が曇ってたから」
私のことをこんなに見てくれてる人がいるなんて。
「気持ちは嬉しいけど、私はもう……」
「できるよ、お前ならできるよ。」
力強い目。
いと
今日はいつもより早く起きた。
余裕を持って起きたから、今日は歩いて学校にいく。
そして今日、みんなにしっかり伝えるのだ。
自分の想いを。
もう糸は辿らない。絡まったとしても切ってやる。
私の糸は今から私が紡ぐのだ。
いと