主婦の奇妙な夢3
彼に手を引かれ歩く先には大きなお城がそびえ立っていた。
中に入ると広いロビーに階段。
まるでホテルみたい…なんて考えていると
「セーラ!! 」
私を見て怒ったような心配したような、複雑な表情で小走りで走ってくる男性。
白い作業着に長いコック帽子。料理人かしら?
その迫力に一瞬、身をすくめてしまった。
「一体どこに? 」
私に問いかける。
「いつもの場所だから心配ないよ」
はっとして、私の変わりに答えた彼に向き直り、男性が頭を下げる。
「申し訳ありませんでした! 王子!! 」
「やめてよ。おじさん、いつもの事じゃない」
笑顔の彼に
「いいえ。あなた様はもうじき王位継承をし、正式に王になられるお方です!!
こんな一料理人の娘なんかに構っている立場ではないこと自覚していただかなければ困ります! 」
厳しい女性の声。
メガネに黒いドレスのいかにも厳格な先生のような女性が私を一瞥する。
「はいはい。わかりましたよ。」
彼はお手上げの格好で返事をして階段を登って行く。<br>その後ろ姿を見送る私と男性。
男性は私の顔を見て
「自分の部屋に戻っていなさい…」
疲れきった表情で行ってしまった。
でも、待って
辺りは出入り口だらけだし、広いし、階段を登って手近の入り口に入ってみたけど長い廊下が続いていて、その先にはドアだらけ。
そんな事言われたって自分の部屋なんて分かんないんですけどぉーー!!
私は心の中で声を大にして叫んだ。
誰にも聞こえはしないんだけどね!
「ちょっと! 」
「え? 」
誰かに呼びかけられて辺りを見回す。
だけど声の主と思われる人の姿はどこにもない。
あるのは見慣れないドアだけ。
その時
「ちょっと! 」
「え? 」
振り返る。でもやはり人の姿はない。
「こっちです! あなたの足元!! 」
言われた通り、足元を見るとそこにはネコ?白い毛並みの綺麗なネコがこちらを見上げている。
??
「やっと気付いてくれましたね」
ホッとしたような表情でそうつぶやくネコ。(実際は表情は分からないけどね)
そうネコがつぶやいた!?
「え?え?えぇーー!?」
思わず後ずさりをしてしまった。
「今、喋ったぁ? 」
マジマジと凝視する私にネコは
「はい。喋りました」
と普通に答える。
うん。喋っているわ。
「あのー」
あまりに見られすぎて居たたまれない雰囲気になってきたようで、ネコが口を開く。
「部屋まで案内しますわ」
私についてきて。というようにこちらに背を向け、歩き始めるネコ。
「あっ、ありがとうございます… 」
私は慌ててネコの後をついて行った。
階段を下りた所にあるひとつの入り口の先にあるドアの前で立ち止まるネコ。
「ここです。」
ネコはドアノブを見つめ
「この姿では開ける事が出来なかったんです。」自分の手を悔しそうに見てつぶやいた。
「ねぇ…もしかしてあなた…」
私がそう言いかけると、ネコは突然はっとし、そばの物影に隠れた。
「セーラ? 」
背後から先ほどの男性の声。
振り返るとひどく疲れた表情だ。
男手、ひとつでセーラを育てているのかしら?大変よね。
「まだ、戻っていなかったのか? 」
「はい。ちょっと迷っていて……」
「迷う? 」
怪訝な表情の男性。
「いえ。探し物をしていて、大丈夫です。もうみつかりましたから。」
これは私の声ではない。物影に目をやるとさっきのネコが私を見て
「合わせて! 」と合図している。
「そうか……」
男性は下を向き
「色々とすまない。ただお前の事が心配で… 」
「大丈夫です。お父さん。私分かっていますから。」
一生懸命、口パクする私。
バレないかとヒヤヒヤする心中なんか、気付いていないようだ。
「本当にすまない… 」
私の肩に手をかけ、肩を落とし行ってしまった。彼が見えなくなって行ってしまったのを確認して、物影に隠れていたネコも姿を見せる。
「どういう事? あなたもしかして」
「話は中でします」
真っ直ぐに私の事を見据えるネコ。
もしかして…この子……
主婦の奇妙な夢3