オランジスタシュガー
読んでいただき有り難う御座います。
拙い文章ですがどうぞ、最後まで。
春
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オレンジの紅茶を口に含む。
空の青さと雲の隙間から、春風が吹く。
少し酸っぱいな。
僕はそう思って、白い角砂糖をカップにひとつ入れた。
銀色のスプーンでかき混ぜると、砂糖のザラザラという手応えを感じた。
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変な奴
それなりに上手くやってきた。
少し内気ではあったけど、別に友達がいないわけじゃない。
白いイヤホンから流れる音楽。
紅茶に入れる砂糖。
夜遅くまで働く母親。
週に3回立ち寄る図書室。
雨の日に使う紺色の傘。
毎日乗るバスの窓際の席。
僕のことをよくわかっている柊真。
そして、プール。
そのくらい揃っていれば、他に我儘は言わない僕だった。
ニュースで流れる政治や経済、スキャンダルや事件は、現実味がないからか興味が湧かない。
平凡な生活の1分1秒が僕を構築していて、それ以上でも以下でもない。
僕はつまらない人間だ。
自分が周りのことに興味がないから。
それが何よりの証拠だと思っている。
誰かと関わるのは嫌いじゃないけど、いつか嫌われるなら干渉したくないな。
まあでも、少なくとも今目の前で唐揚げを頬張っている由宇は大事にしようと思う。
ここで言っておくが、僕の恋愛対象はもちろん女子だ。誤解はしないでほしい。
こいつは僕をつまらないと笑い飛ばしてくれる。
つまらない奴になぜこんなにも関わってくれるのか、考える前に「そうかこれが友達か」と思ったのは中学の時だった。
「なあ椿、どうすんだよ?」
「何が?」
「やっぱり聞いてなかったな、お前。俺は優しいからもう一度言ってやるよ」
「ああ」
「プール掃除だよ。お前はプール好きだからいいだろうけど、さすがに2人じゃキツいぜ?大倉とかにも頼まないか?」
「あー…」
今日は木曜日。
僕と由宇は委員会の仕事で、たまにプール掃除をする事があった。
そして僕らは1週間前に、プール掃除の当番をサボったのだった。
「全く… 俺まで巻き込まれたよ」
そう言いながら由宇は外に視線を向ける。
なんでサボったんだっけ?
「俺、今日は1人でやるよ」
2つ目のメロンパンの袋を開けながら、僕は言う。
「いいよ、めんどいだろ」
視線を僕に戻した由宇が、少しぶっきらぼうに答えた。
言い方はテキトーだが、これは由宇が人に優しくする時のお決まりのパターンだった。
「めんどいから、やりたいんだよ」
「変な奴」
木曜日は、由宇が放課後にどこかへ通っている日だった。
隠しているわけではなさそうだが、問い詰めるつもりもない。
何か事情があるのだろう。
「じゃあ、任せるぜ」
いちごミルク。男子高校生も飲むんだなと僕は思った。
「真奈に物理の教科書借りてくる」
「おう」
真奈というのは、由宇の彼女だ。
しょっちゅう忘れ物をする由宇としっかり者( らしい )彼女は、お似合いなのではないだろうか。
オレンジのフレーバーの紅茶を口にしながら、僕は空に視線を移す。
5月の空は、目が痛くなるほど眩しかった。
「あ…」
僕も物理の教科書を忘れた。
口の中のオレンジが、少し酸っぱく感じた。
オランジスタシュガー
最後まで読んでいただき、本当に有り難う御座いました。
オレンジの紅茶を飲むたび、プールに足を踏み入れるたび、または別の時に、少しでも思い出して頂ければ幸いです。
次回作も是非読んでみてくださいね