ふたりの絆(35)
そろそろいいかな?(前半)
なにやら意味深な言葉である。
何かを期待していた方々には申し訳ないのだが、
これはアカリを母親に会わせてもいい頃かなと思うヒカルの気持ちである。
ある日のこと、ヒカルは母親に頼んだのだ。
「おふくろ、今度彼女を家に連れてくるから一度会ってもらえないかな。」
「何処の子なの?」
母親としては心配なのである。
「以前にショッピングセンターで懐かしい子に再会した話覚えてるかな。」
ヒカルは一応聞いてみた。
「覚えているわよ、なぜか涙目をしていたヒカルだったから。」
そのときに再開したのがアカリで、これまでのアカリとの経緯を母親に話す。
「ぼちぼち、いい子がいたら嫁に欲しい歳だね。ホタルのためにも、一度会わないといけないね。」
母親はそういって、ヒカルの頼みを承諾したのだった。後はアカリの都合だけである。
ヒカルはアカリにメールを入れた。
「電話して欲しい。」
その日の夜、アカリから電話がかかってきた。
「アカリ、今度おふくろに会って貰えないかな。」
ヒカルは単刀直入に話をしたのだ。
「うそ、本当に私でいいの。」
信じようとしないアカリだ。
「アカリだからいいんだよ。ホタルも待っているからね。」
ヒカルは優しく言葉を重ねたのだ。
アカリの仕事上、2週間後の日曜日に会う約束をした。
約束の日が来た。ヒカルはアカリを迎えに車で三重県へ向かった。
待ち合わせの喫茶店に着くと、あめかししたアカリがすでに待っていてくれた。
「どうしたの、いつものアカリと違うぞ。」
ひかるはわざとちゃかした。
「ヒカルの馬鹿。」
笑いながらアカリが言う。
そんなアカリを乗せて、ヒカルは母親の待つ岐阜の自宅に戻って行った。
お昼少し前に着いた2人。ヒカルはアカリを家の中に招いた。
玄関の下駄箱のうえに飾ってあるホタルの写真に、静かに手を合わせたアカリ。
その姿を、ヒカルと母親が見ていた。
「ありがとね。」
初対面の母親が先に口を開いたのだ。
「アカリといいます、いつもお世話になっています。」
緊張した様子で挨拶をするアカリに母親は優しい口調で言った。
「どうぞ、あがってゆっくりしてくださいな。」
ヒカルはアカリを居間に案内した。
「コーヒー煎れるから。」
「私も手伝いますね。」
なにやら楽しそうに会話をしている2人の姿をみていると、ほっこりするひかるであった。
「いいな、こんな日が早く来れば。」
3人でコーヒーを飲みながら、話を始めた。
「ホタルの生まれ変わりのアカリさんと会えるのを、楽しみにしていたのよ。」
ヒカルの母親も、ユーモアのある性格だ。
「どこかホタルに似ている気がして、親しみを感じるわ。」
母親にしては、精一杯の誉め言葉だろう。
「もしもここにホタルがいたら、アカリのところから離れないだろうな。」
ヒカルも母親を援護したのである。
「勝手にホタルちゃんの生まれ変わりと言ってごめんなさい。」
謝るアカリだった。
「アカリがそう言ってくれたから、こうしてここにいるんだろう。おふくろと2人で感謝しているくらいだよ。」
ヒカルは優しくアカリに言ったのである。
重荷がとれたのだろう、そこからのアカリはいつものアカリに戻っていた。
アカリの仕事のことやご両親のことを中心に、話しは弾んでいった。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「おふくろ、そろそろアカリを送って行くから。」
「ありがとうございました、楽しかったです。」
アカリはそう言って母親に頭を下げた。
「また、来てくださいね。」
母親もまた、アカリにお願いするのであった。
女同士、何か判りあえるものが在るのでしょう、きっと。
ヒカルはアカリを車に乗せると、三重のアパートに向けて走り出した。
「今日はありがとう、おふくろも喜んでいたよ。」
ヒカルはアカリに御礼を言った。
「私のほうこそ、楽しかったですよ。」
アカリも満足してくれた様子だ。
「そういえば、これアカリに。」
ヒカルは上着のポケットから小さい紙袋を取り出すと、アカリに渡したのである。
「何、これ。」
「僕も知らないけど、おふくろから預かってきたんだ。」
アカリは紙袋を開けた。
中から携帯用のストラップが出てきた。子犬が付いた物である。
「これ、きっとホタルだよね。」
アカリは、ヒカルの母親からのプレゼントに感激していた。
「おふくろも中々やるもんだな。」
ヒカルは心の中で感心していた。
「私の宝物にするから。」
女同士にしか判らない何かがあるのでしょう。
「家に帰ったら、アカリが喜んでいたことを報告しておくよ。」
ヒカルも嬉しかった。
→「そろそろいいかな?(後半)」をお楽しみに。
ホタル:ヒカルの母親とアカリは仲良くなりましたね。
これはもうヒカルにとったら最高でしょうね。
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ふたりの絆(35)