ふたりの絆(33)
運命の再会(Ⅱ)
ヒカルがアカリと別れてから半年が過ぎていた。
季節は秋になっていた。
(アカリは何をしているのかな?)
内心では忘れることが出来ない。
それは、ある日曜日の出来事だった。
母親を連れて、近くの大型ショッピングモールに買い物に行き、母とは店の中で別れ、ヒカルはひとりで歩いていた。
大勢の人だかりがあった。
(何かイベントをしているのかな。)
そう思ったヒカルは、人だかりの方に足をむけた。
子供向けのぬいぐるみショーのようだ。
親子連れの外のほうから覗いたヒカルである。
司会の若い女性の声が聞こえてきた。
「ん?何か聞き覚えのある声だな。」
ヒカルは、声のするほうを見た。
一瞬目を疑うヒカルだった。
「アカリだ、アカリがそこにいる。」
司会をしていたのは、紛れもないアカリであった。
少し髪の形は変わっているが、間違いなくアカリなのだ。
ヒカルの目がぼやけてきた・・・知らない内に涙が溢れていたのだった。
ヒカルはそのショーが終わるまで見ていた。
ショーが終わると、ヒカルはそっとその場を離れたのだ。
母親のところに戻ったヒカルだった。
赤い目をしたヒカルを見た母親が聞いてきた。
「どうかしたの?」
「いや、素敵な人に再会できたから。」
ヒカルの心は、嬉しさで一杯だった。
自宅に戻ったヒカルは、早々にアカリにメールを送った。
「アカリ見たよ、司会してるのを。」
数分後、アカリから返事が来た。
「見てくれたんだ!嬉しいな。」
変わらないアカリの言葉だった。
メールの字だとしても、懐かしさを感じる。
「アカリ、今どこに住んでいるの?」
聞かずにいられなかったヒカルであった。
「三重県に住んでるよ。」
このメールで、アカリの身の回りで何かが起こったことを察した。
「勝手なこと言うけど、一度会えないかな。三重まで行くから。」
ヒカルは気になったのである・・・許婚のことが。
「私も会いたい。」
アカリからの返事。
それから1週間後、ヒカルは三重県に行った。
1年前と同じコンビニの駐車場である。
「久しぶり。」
そう言ってアカリが現れた。
ヒカルのよく知るアカリだった。
「元気そうでよかったよ。」
ヒカルはそういうと、アカリを車に乗せて近くの喫茶店に入った。
何から話していいのか判らないヒカルだった。
アカリも迷っているみたいだ。
「イベントの司会の仕事が多いのかい?」
ヒカルは切り出し始めたのだ。
「仕事があるときだけ、連絡をもらうの・・・空いてるときはアルバイト。」
「声優のほうはどうしたんだい。」
「諦めたの、確立が低過ぎることが判ったから。」
ヒカルは何も言わなかった。
アカリが自分で決めたことなのだから。
「三重に住んでいるのかい?」
段々と核心に迫るヒカルである。
「津市内で女友達と2人でアパートを借りて生活してるの。」
アカリの気のせいか、そわそわしているようだ。
ヒカルは心を鬼にして聞いた。
「許婚の方はどうなっているんだい。」
一瞬、アカリの顔が曇った。
下を向いたまま黙っているアカリ。
「ごめんね、アカリ。」
謝るヒカルだった。
下を向いたアカリが小さくうなずいて、話してくれたのだ。
「許婚の人とは別れたの・・・他に別の女性がいて・・・。」
悟ったヒカルだった。
「もういいよ、ごめんね。」
あえて笑い顔で言ったヒカルであった。
ヒカルはすべてを飲み込んだうえでアカリに話し始めた。
「アカリ、君さえよければもう一度付き合ってくれないか?」
アカリは驚いていた。
ヒカルはアカリに対する想いを正直に伝えた。
今でもアカリのことが好きであると。
アカリは涙ぐんでいた。
「私と許婚の関係は知ってるんでしょ。私はその人と関係を持ったのよ。」
泣き出したアカリであった。
周りのお客さんも困惑していた。
ヒカルは泣きじゃくるアカリの頭を優しく撫でた。
「判ってるよ、そんなことは・・・それ以上に、アカリのことが大好きなんだよ。」
論すように優しく言葉をかけた。
「いいの?私で。」
「アカリだからいいんだよ。」
アカリの顔が少し笑顔に戻ってきた。
人間とは不思議なものだ。
感動の場面に出くわすと協調性が生まれるようである。
その場にいたお客さんから、いつしか拍手が沸いていた。
ヒカルは席を立ち、居合わせた人すべてに頭を下げたのだった。
「アカリは、僕のこと忘れられたのかい?」
ヒカルは意地悪く聞いてみた。
「忘れてなんかないよ、ヒカルのことが好きだったから。」
明るい顔に戻ったアカリが答えてくれた。
「よし、決まりだね。」
そういうと、ヒカルは右手をアカリに差し出した。
アカリも右手を出してきた。
再び繋がったふたりの絆であった。
天国のホタルも喜んでいるだろう・・・きっと。
→「2度目の墓参りと初キス」をお楽しみに。 1/30更新
ホタル:とても素敵な再会でしたね!
天国のホタルが結んだふたりの絆・・・感動してしまいました。
ヒカルとアカリに大きな拍手を送ります。
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ふたりの絆(33)