ふたりの絆⑮
お墓参りとアカリの気持ち(前半)
2014年9月、残暑が残るある日のことだ。
ヒカルはアカリに電話をした。
「アカリ、頼みがあるんだけどさ。」
「何、頼みって?」
この時、アカリは三重県内でバイトをしながら生活していた。
「都合がついたらでいいんだけど、ホタルのお墓参りに一緒に行かないか?」
ヒカルは熱く語った。
「アカリと一緒に行きたいんだ。」
もちろん、一泊になることも説明した。
しばらく、アカリは何も答えなかった。
当たり前な話である。
いくら仲の良い2人でも、年頃の男女が一泊するとなると、何かを期待するのが普通であろう。
ヒカルの頭の中も、その期待が無かったといえば嘘になる。
沈黙の時間が流れた。
「何もしないのなら、行きたい。」
アカリの考えた末の返事だった。
ヒカルは、即座に答えた。
「何もしないから、一緒に行こうね。」
馬鹿な男だと、同世代の男性なら言うかもしれない。
ヒカルにとっては、後のことよりアカリといっしょに行くことの方が大事なのだ。
アカリも同じ気持ちだったと思う。
その証拠に、その後の電話の声が弾んでいた。
ホタルのお墓があるのは、福井県にあるお寺だ。
ヒカルは早々に、ホテルを探し、予約することが出来た。
このホテルは、お寺から20分程山の中に入ったところにある。
後に、このホテルの方々に大変お世話になろうとは、思いもよらなかった2人であった。
9月中旬、約束の日が来た。
ヒカルはアカリを迎えに三重県の四日市市内のコンビニの駐車場に急いだ。
朝の9時、大きなキャリーケースを引いてアカリが現れた。
「久しぶり、元気そうだな。」
「うん、元気だったよ。」
相変わらずのアカリ。
このときのアカリの服装であるが、上着は青のトレーナでズボンは白の短パンだった。
アカリを乗せたヒカルは、福井のお寺に向けて車を走らせた。
お寺までは、高速を使って3時間ぐらいだ。
車中では、お互いの近況を話す2人。
「アカリ、今後の予定はどうなっているんだい。」
一応聞いておきたかった。
「9月の下旬から10月末まで、群馬のホテルで短期のバイトをしてるよ。」
「短気なので、寮で住み込みなんだ。」
アカリはそう教えてくれた。
「群馬県か・・・遠いな。」
ヒカルは、小声でつぶやいたのだった。
アカリとヒカルは本当に不思議な仲である。
久しぶりに会っても、すぐに仲良しなのだ。
2人を繋いでいるものは、何なのだろうか。
ホタルのお墓のあるお寺についたのが、昼の2時ごろだった。
平日ということもあり、ガラガラの駐車場である。
とりあえず、2人で本堂に参拝をしてからホタルの眠る教養塔を探した。
教養塔は本堂の裏手にあり、ヒカルは、持ってきた線香に火をつけると静かに供えた。
(ホタル約束どおり来たよ、アカリを連れてね。僕とアカリがこれからも仲良くできように応援してくれよな。)
ヒカルは心の中で祈った。
その横には、同じく手を合わせているアカリがいる。
アカリも何かをホタルに報告したことだろう。
ヒカルはアカリに言った。
「来年も必ず2人で来ような。」
「もちろん。」
お墓参りも終わり、今夜の宿であるホテルに向かった。
山の中を走ること20分程で、目の前にスキー場が見えてきた。
側まで行くと、スキー場に併設してホテルが建っていた。
部屋は、正面の窓からスキー場が見えるツインルームだ。
ヒカルは夕食まで時間があるため、ホテル内の温泉に入ることにした。
アカリは、生理なので部屋のシャワールームで済ませるとのことだ。
女性の体は大変なんだなと思った。
お風呂の後は、楽しみにしていたフレンチディナーだ。
アカリは目を輝かせって僕にいった。
「すっごく美味しい!」
ご満悦な様子である。
ヒカルはそんなアカリの顔を見ているだけで満足した。
夕食を終えた2人は浴衣に着替えて部屋でくつろいでいた。
化粧を落としたアカリの顔を見たのはこれが初めてだった。
(ふん、変れば変わるもんだな。)
誤解の無いように言っておきますが、ヒカルはアカリの顔に惚れたわけではない。
このアカリの存在に惚れたのです。
→「お墓参りとアカリの気持ち(後半)」をお楽しみに。
ホタル:ヒカルとアカリを繋ぐものは本当に想像以上にすごいもの
なんだなと感じます。私には、ホタルの存在がヒカルとアカリを
支えているように感じました。
-15-
ふたりの絆⑮