むしゃぶる睡魔
午前零時。今日も1日が終わる。
あいつがクル。
あとは眠るだけなのに。
明日の仕事に備えて眠るだけなのに。
眠るのが怖い怖いコワイ。
「やあ。」
「また、、!また来たのか!?一体何日目だと思ってるんだ?!何日俺はお前のせいで寝てないと思ってるんだ?!いい加減にしてくれ!!」
「まあそんなこと言いなさんな。
そもそも寝たけりゃ勝手に寝ればいいじゃないか。見なさい。この部屋には誰もいない。お前は毎日一体誰と話しているんだろうねえ。」
「う、うるさい、、もうお願いだから来ないでくれ、、昼間の仕事にも支障をきたしているし、本当に頭がおかしくなりそうなんだ、、一日中イライラするし胃の辺りは気持ち悪いし目眩も頭痛もする。そのうち仕事もクビになって死んじまうんじゃないかって不安で不安で、、、
ピピピピピピピピピピピピピピピピッッ
午前六時。目覚ましの音だ。
支度をして仕事に行かなければ。
身体が重い、、、
あいつは目覚ましが鳴ると消えてしまう。
フラフラになりながら出社する。
コピー機を見ていると、羽根が生えてきて、ペガサスになって今にも飛び出しそうだ、、
パソコンの文字が何重にも見えてハエになって蠢きだした。頭の周りをブーンブーンと飛び回る、、
派遣社員がシュレッダーをかけている。
下から出てくるズタズタになった紙をぼんやり眺めていると真っ赤に切り刻まれた人の肉が、、
「うわあああああああ!!」
「どうした。」
「いえ、なんでもありません。」
「ここ一ヶ月程君の仕事ぶりを見ているといつもぼんやりしているかと思うと突然叫び出したり見ていて不安定になるよ。それにミスしかしてないじゃないか。体調管理も仕事のうちだ。態度を改めてもらわんと。君の代わりはいくらでもいる。」
「すみません。」
毎日仕事はこんな調子だ。
全く仕事にならない。
食事もなにを食べても味がしない。
とにかく、ただ、ただ眠りたい。眠りたいのだ。そう、俺は眠りたいだけなのだ。
そうだ、あいつさえいなければ。あいつさえ来なければ。来させなければいいのだ!!!
俺のどこにこんな力が残っていたのだろう。
全速力で風よりも速く走ってアパートに帰った。
鞄を放り出し、家具をひっくり返し、徹底的にどこから声がするか調べだした。
だが、なにもわからなかった。
そうこうするうちに午前零時。あいつが来た。
「おやおや。随分暴れたようだねえ。荒れてるねえ。」
「うるさい、、お前さえいなければ、、俺がお前になにをしたって言うんだよ!消えろよ!消えてくれよ!お前一体誰なんだよ!」
「私はお前に住み憑いておるもんでな。消せないんじゃよ。だから諦めるこった。お前が死ぬまで相手をしておくれ。あははぁ、、」
「ざけんなよ、、俺も頭がついにおかしくなっちまったか、、でも俺は眠いんだ。とても眠い。とてもとてもと
ても。だが、お前がいると眠れない。だから眠らせてもらうよ。
あばよ、死神野郎。」
俺はまぶたをホチキスでバチバチと留めた。これでまず視界は真っ暗良好。
使い古したしなびた、けれどあたたかい布団に寝転がり、喉をズブリと引き裂き、そこから舌をズルゥッ!っと引きずり出した。
こうして俺は暖かい血液の染みた毛布をむしゃぶり、包まれ、安らかな眠りを手に入れた。永遠に。
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「おやおや、眠ってしまったようだねえ。
ちょっと私もいじわるだったかねえ。
言葉のあやってやつなんだが。
お前に住み憑いてるじゃなくて、お前の上の部屋に住み着いてるってとこなんじゃが、、」
真っさらな201号室。
認知症の老婆がポツリと呟いた。
むしゃぶる睡魔