きみをすきになれたなら
きみが笑う。
わたしの頭を優しく撫でる。
大切なものを扱うように抱き締める。
ああ、きみはわたしが好きなんだね。
知っているし、ずっと前から知っていたよ。
きみがわたしを見ていたこと。
すれ違う度に少しだけ緊張していたこと。
わたしの笑い声が聞こえると、ちらりとこちらを見ること。
他の人と話すと不安そうな顔をすること。
そう。
わたしはきみがわたしのことを好きだってずっと知っていたよ。
そしてきっときみも知っていただろう。
わたしがきみではない人を見ていたことを。
わたしにとってたった一人の人はきみじゃあなかった。
好きで大好きで愛しくて大切で、わたしが欲しかったのはきみじゃあなかったんだよ。
だけど、わたしの視線の先を知っているはずのきみは、わたしを見ることをやめなかった。
ねえ。
きみはどう思っていた?
馬鹿だなあ、愚かだなあ、と思っていた?
苦しんで傷付いて壊れてしまえばいい、って思ったことはなかった?
わたしはね、そう思っていたよ。
きみが好きなわたしが大好きな人が愛してる人を見て、なにかとんでもないことが起きてしまえばいいって願ったよ。
わたしの望みはたったひとつだけだった。
他にはなんにもいらない、わたしの幸福全部と引き換えにしてもいい、死んだら地獄に行くって約束するから。
どうか、わたしを好きになってくれますように。
でも、叶わなかった。
ああ、この人がわたしのものになることは、きっと決してないんだって理解したとき、心臓から血が噴き出すような気持ちになったよ。
そして思い出したんだ。
きみがわたしを好きだってこと。
きみが笑う。
わたしの頭を優しく撫でる。
大切なものを扱うように抱き締める。
ねえ、きみは嬉しい?
きみが好きなわたしが、きみのものになったんだよ。
その喜びも、幸福も、わたしが手に入れることが出来なかったものなんだよ。
それとも悲しい?
だって優しいきみが気付かないはずはないもの。
きみが手に入れたわたしは、今も、この先も、きっと永遠にきみを愛することはないよ。
ごめんね、わたしがあんまり可哀想だったから、きみを道連れにすることに決めたんだ。
きみがその痛みに耐えることが出来ないなら、わたしの勝ちだよ。
わたしならどんな形だって構わないからあの人と繋がっていたいって思うもの。
傷つけられて苦しめられてぐちゃぐちゃに切り刻まれたっていいから、傍にいてって望むもの。
でもわたしは知っている。
きみはきっと逃げないだろう、この先も、きっと永遠に。
なぜなら、きみはわたしを好きだから。
わたしがあの人を好きだったのと同じように。
ああ、なんて可哀想なわたしときみ。
こうやって明日もわたしたちは心臓をすりつぶしあう。
でもどんなに歪な形でも、神様はこれを愛と呼ぶのだ。
きみをすきになれたなら