一日殺人

手紙殺人


 ――本日、八月○○日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう。

『速報です。本日午後五時、小学五年生の男の子の遺体が××市の△△川に浮いているのが発見されました。遺体には首を絞められたような痕があり、殺人事件という方向で捜査しています。さて、次のニュースは――』

 ××市、そこには昔からの言い伝えがあった。
 一日殺人。
 ある手紙を受け取ったものは一日につき一回、手紙をもらった人の身近な人物が殺されるというのだ。
 この時、絶対に受け取ってはならない手紙を受け取ってしまった者がいた。


     ○


 ――八月十四日の朝


「兄さん!」
 俊彦がこの蒸し暑い中、さらに暑くなるような大声で俺のことを呼んだ。
「うるせぇな……」
「なんかさぁ、へんなメール来たんだけど」
 そう言いながら俺に携帯電話を見せてくる。
 そこにはこう書かれていた。
 ――本日、八月十四日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう
 ……なんだこのメールは。
 単なるいたずらメールにも見えるがこのいたずらメールは少しやりすぎのような気がする。
「なんか気持ち悪いでしょ?」
 俊彦が曇った顔でそう言う。
「ああ、」
 俺は適当な答えを返し、「大丈夫だよ、迷惑メールだろう……」と言っておいた。
 そしてあの事件は起こった。

 その夜のことだった。
 俺は何気なくテレビをつけ、ニュースを見た。

『速報です。本日午後五時、小学五年生の男の子の遺体が××市の△△川に浮いているのが発見されました。遺体には首を絞められたような痕があり、殺人事件という方向で捜査しています』

 身元は出てなかったが、△△川は家の近くということもあり少し驚いた。
 母さんや父さんは今日は高校生の俺達兄弟が貯めたお金で、夫婦旅行に行っている。だから俺と弟の二人だけだ。
「殺人事件なら俺達も危ないな……」
「兄さんどうしたの?」
 俊彦がリビングへやってきた。顔色が優れないところを見ると、まだあのメールのことを気にしているようだった。
「いやさー、△△川で子供の遺体が発見されたらしいよ」
 そう言うと今まで少し青かったくらいの顔が、みるみるうちに真っ青になっていく。
「そ、その子の……名前は……?」
 声も震えている。
「名前は出てないけども、小学五年だって言ってたぞ」
 そう俺が何気なく言うと、急に全身を震わせ始めた。
 俊彦がそこまでくると、何におびえているのかが分かった。

 ――本日、八月十四日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう

「……一つ聞くけど、お前小学五年で知り合いとかいないか?」
「…………………………いるよ、一人だけ」
「名前は――」
『速報です!』
 突然ニュースキャスターが大きな声を上げた。
 俺達はテレビの画面に自然と目がいった。ニュースは続く。

『先ほどの小学校五年生の男の子の身元が判明いたしました』

「ヒッ!!」
 俊彦が思わず声を上げる。
 外からカーカーとカラスの鳴き声が聞こえる。
 そしていくら止まって欲しいと願っても止まってくれない時間が、ほんの一瞬だけ止まったような気がした。

『名前は、羽田聡君――』

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 違う違う違う違う!!!!!! 俺じゃない俺じゃない俺じゃない!!!!!!」
 俊彦が奇声を上げた瞬間に、彼のポケットに入っている携帯電話がメールが届いたことを知らせた。

 ピロリーン

 ――Re:如何でしたでしょうか?
 そんな事態でも、俺は何も言うことなく、次のニュースをボーッと見ていた。


     ○


 ――八月十五日の朝

 目覚めはいつも通りの六時半。
 夏休みの為高校がない分七時に起きてもいいのだが、何故か起きられない。これは習慣の力というものなのだろうか。
 朝ご飯を作ろうと二階の部屋から一階のリビングへ降りると、弟が起きていた。
「俊彦……今日は早いな……」
「………………寝てないだけだよ……」
 どうやら一晩中リビングにいたらしい。
「ご飯……食べれるか?」
「…………いらない」
「じゃあお前の分もつくっとくから、食べたくなったら食べな」
 返事は、無かった。

(聞いたことはあったけど、本当にこんなことが起きるなんて)
 俺は夏休みの課題をしながら昨日のメールについて考えていた。
 一日殺人、その話はもうこの世にはいない、大好きだったおばあちゃんから聞いたことがあった。

 ――黒い手紙をもらったら開けちゃダメだよ

「メールなのに黒いも何もないだろ……」
 ガチャン!
 今日する分の課題が終わったところで、一階から物音がした。
 どうしたんだろうと思い、一階まで下りる。
 リビングを覗くと、割れているお皿が目に飛び込んできた。
 いや、目に飛び込んできたのは割れたお皿ではない。その横に死体のように転がっている、弟の姿だった。
「俊彦!」
 俺はすぐさま駆け寄り、俊彦を見る。すると、
「う、うぅ……俺が、俺が殺したんじゃない……」
 どうやら寝ているようだ。しかも魘されている。
 俺は割れているお皿の欠片を取り終わると、俊彦の体に二階から持って下りた毛布を掛けた。
「ご飯食べてくれたんだな」
 茶碗の中身は綺麗……とは言い難いものの、ちゃんと食べてしまっていた。
 食器を洗おうかと思い、キッチンへ向かった。


 食器を洗い終わりリビングへ戻る。
 ふと、机の上を見た。
「ヒィッ!」
 そこには一通の――真っ黒な、不気味な手紙があった。

 俺は驚き、腰を抜かして尻餅をついてしまう。
 三十秒ほど経ち、ようやく冷静さを取り戻してきた。
「な、なんでこんな物がここに……?」
 おばあちゃんが昔言っていた黒い手紙、つまり一日殺人の手紙だった。
そう思うとまた冷静さを失いかける。
 少し考え、この手紙は燃やすことにした。
(ふざけんなよ、こんな物……)
 手紙を恐る恐る持つ。
(そういや今日はゴミの日だったな)
 手紙を持つ手がガタガタと震えている。
 結果、ゴミに出すことにした。


 その日の昼の俺は少し機嫌がよかった。
 あの手紙を見事、ゴミに出すことに成功したからだ。
「フフフフ!」
 不気味な笑いが止まらない。
 面白そうな番組を見ようかとテレビをつけた。
『本日午前九時に、トラックとゴミ収集車が激突、トラックに積んでいたガソリンに引火し、交通網が一時麻痺するという事故が発生しました。発火の原因は――』
「……え……」
 そのニュースの後に流れるテロップ。そこには、

 ――トラック激突事故、死者二名、重体八人

 俺は何が何だか全く分からない。俺は朝、例の手紙が入ったゴミ袋を入れただけだ。俺は関係ない。そう自分に言い聞かせるがどうしてもあの手紙のことを考えてしまう。
 そして、机に目をやる。
「あぁ…………」
 そこには、あの、黒い、


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 手紙。

 俺は思考回路を思い切りちぎられたように何も考えられなくなった。

 ピロリーン♪
 昨日聞いた空気の読めない不吉な音。
 俺はこんな状況でも反射的に携帯を手に取る。
 見るのは新着メール欄一番上。

 それを何も考えず開いた。

 ――何故手紙を開けないのですか?
 全身に熱を持ったのが分かった。


     ○


 ウーゥ! ピーポーピーポー!
 救急車の音がキンキンと耳に鳴り響く。
 俺がいるのは自宅の前。
 そして、俺が救急車に乗せられている。俺を見る弟の目が濁っているのが分かる。俺の目は死んでいるのも分かる。

「俺、死んじゃったのかな……?」
 救急車はもう死んでいるであろう俺を乗せ、病院へ向かった。


 その後、病院へ運ばれた俺(の抜け殻)は死亡ということで処理された。

 ――ご冥福をお祈りいたします PS.手紙を開けないと大変ですよ?

 ピロリーン♪

 また、誰かの携帯に、一通の黒い手紙が届いた。

ノイズ殺人

 俊彦の兄が死んだ同時刻。



 ノイズ殺人



 ピロリーン♪

 またあのメールだ。
 どうせ中身(文章)はろくな事じゃない。

 ――殺害 完了

 全身からあふれ出る負のオーラが送り主への殺意となって自分の心に襲いかかる。
 よく考えれば、何故俺は××して××ったのだ――
 ――答えは、何処にも無い


 ――八月十四日の朝

 ピロリーン♪

 メールが来た。
 最近、迷惑メールが多いと友達からよく聞く。
 俺の携帯にはそんなものが来たことは無かったが、少し心配だった。
 俺は手慣れた動作で、新着メール欄の一番上にあるメールを開けた。
「!?」
 そこにはこう書いてあった。
――本日、八月十四日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう
 ……なんだって?
 俺はただのいたずらだろうと思った、だが少し心配だ。
 結局、こういう事には詳しい兄さんに聞くことにした。

     ○

 兄さんの返事は曖昧な物だった。
 仕方なく俺は知り合いで、こういう事に詳しい人に会いに行くことにした。
「すみませーん!」
 俺がその人の家の前でそう言うと、すぐに白シャツ姿の男が出てきた。
「ん、あ? ああ、俊彦か!!」
「お久しぶりです」
 男の名前は羽田都志、自宅警備隊、というかニートである。
 一人暮らしで、『二次元命』を格言に、日々自宅を守っている。
 俺は好きでも嫌いでもないが、時々体から臭う、加齢臭のようなカレーのような臭いには悩まされる。
 都志さんとは小学校の時に川におぼれた俺を助けてくれて、それからよく話すようになった。
「どうした? 何か用か?」
「え、えと……、何か変なメールが来たんすよ……」
 そう言って、携帯電話を取り出し、メール欄を見せる。
「ふむ……」
 都志さんは何かを深く考えているようだ。
「何か分かりました?」
「……これは、」
 少し間を開け、
「ただのいたずらだろう、ほっときゃあいいさ」
 その言葉を聞き、俺は安心した。
 しかし、ここで一つの疑問が浮上する。
「こんなの誰が送ってくるんだろう……」
「それだな、」
 それからありがとうを言って、帰ろうとした。
「おにーちゃん、誰?」
 背中側から声がした。すぐに後ろを見ると、誰もいない。それからどんどん視線を落とす。
「!?」
 小さな子供が目を輝かせて、俺を見ているのだ。
 俺はビックリし、後ろへ下がるが後ろには……
「うわあああああああああ!!」
 カレー臭い都志さんがいた。
 そして盛大に激突。
「うぷ……」
 吐きそうになった。



「この子は親戚の子だよ。何か預かった」
 この一言で解釈できた自分が嬉しかった。
 都志さんは、一見ロリコンっぽいところがあるが、幼女には興味はないらしい。
 そして先ほど俺がビックリした子は、男の子だった。
「羽田聡といいます! よろしくお願いします!」
「俺は□□俊彦だよ、よろしく」
「挨拶が終わったところで、俊彦、後は頼む!」
 いきなり何かを頼まれた。
 俺はどうせろくな事じゃないだろうなと思いながらも、一応聞いてみた。
「何でしょうか……?」
「こいつと少しの間遊んでやってくれ!」
 そう言って都志さんは聡君を指しながらニコッと笑った。お世辞にもかっこいいとはいえなかった。


     ○


「はぁ、疲れた……」
 あれからざっと三時間程度あの子と公園で遊びまくって、今は夕方の四時を回ったくらいだ。
「楽しかったね、おにーちゃん!」
「え? ああ、うん」
 楽しかったと言うより疲れた。

「ご苦労さん」
 都志さんの家に着くと、前で都志さんが待っていた。
「ほんとご苦労さんですよ……」
「おにーちゃん!」
 聡君が俺の服の裾を引っ張り、俺を呼ぶ。
「何?」
「僕たち友達だよね?」
 俺は少し考え、そして、
「ああ、友達だよ」
 と言った。

 ピロリーン♪

 ――返信下さい


 恐怖の始まり。死の恐怖へ。

     ○


 メールが来ていた。
 ――返信下さい
「チッ!」
 またあの“イタズラ”メールだ。
 どこからメールアドレスが漏れたのだろうか、そう考え、俺は――
 ――お前誰だよ!
 何気ない動作で黒く歪んだ手紙に、返信してしまった。
 その後俺は、都志さん達と別れ、帰路についた。



 その夜のことだった。
 兄さんがテレビをつけたのか、リビングから音がする。
 ピロリーン♪
 着信だ。
 携帯を開け、メールを見る。

 ――殺害 完了

 殺害? なんだこれ。
「まあいっか……」
 俺は何故この時、いいや、と思ったのだろうか。

 そして、悲劇が始まった。


     ○


「殺人事件なら俺達も危ないな……」
 リビングまで行くと、兄さんが何か言っているのを見かけた。
「兄さんどうしたの?」
 俺はこの時、顔色が悪かったと思う。だってあんな変なメールを受け取ったら誰だってこうなるよ……。
「いやさー、△△川で子供の遺体が発見されたらしいよ」
△△川は都志さんの家の近くだ。
そして、今日遊んだのは子供――たしか小学五年と言っていた気がする。
ゾーンと、全身に奇妙な感覚が走る。
「そ、その子の……名前は……?」
 俺は、
「名前は出てないけども、小学五年だって言ってたぞ」
 俺が、俺は、俺に、ああ、ああああああ、


――本日、八月十四日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう


「……一つ聞くけど、お前小学五年で知り合いとかいないか?」
 兄さんは分かっていると思っているだろう。
 俺が、何におびえているのかも。
 しかし俺が本当におびえているのは――
「…………………………いるよ、一人だけ」
 俺はか細い、兄さんにも聞こえるか分からない様な声で言った。
「名前は――」
『速報です!』
 突然ニュースキャスターが大きな声を上げた。
 俺はもうこれ以上見たくないと思いながらも、テレビ画面に『目』を集中させる。ニュースは続く。

『先ほどの小学校五年生の男の子の身元が判明いたしました』

「ヒッ!」
 俺は泣き出しそうになりながらビクッ! と体を震わせる。
 カラスが俺をあざ笑うかのようにカーカーと五月蠅く鳴く。

 止まって欲しい時間の軸が、いつもより早く感じ取れた。


『名前は、羽田聡君――』
 瞬間、
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 違う違う違う違う!!!!!! 俺じゃない俺じゃない俺じゃない!!!!!!」
 俺は奇声を上げた瞬間に、ポケットの中に入れてある携帯電話が、

 ピロリーン♪

 鳴った。

――Re:如何でしたでしょうか?

「返信、完了ってか……」

 テレビが次のニュースを伝える中、俺は突っ立ったまま、静かに、こう言った。

     ○


 食欲が出ない。
 それどころか、昨日食べたものが思い切り口からあふれ出しそうだ。
 今は午前二時頃だろう。
 兄さんはあの後何も言わずに、自分の部屋へ行った。多分俺を思ってのことだろう。
「俺が殺したんじゃない。俺が殺したんじゃない」
 そう自分に言い聞かせるが、やはりあのメールが頭の中をぐるぐる回る。
 このまま死にたいくらいだ。
 そうしてずっと独りで呟きながら、朝を迎えた。

 朝ご飯を作ろうと思ったのか、兄さんが起きてきた。
 兄さんは俺に気づくと、少し顔を青くし、俺に話しかけた。
「俊彦……今日は早いな……」
 遠慮深そうに言うその目は、化け物を見るような目で、俺は目をそらした。
「………………寝てないだけだよ……」
 兄さんは頭の中で何か考え事をしているのか、少し黙った。
「ご飯……食べれるか?」
「…………いらない」
「じゃあお前の分もつくっとくから、食べたくなったら食べな」
 返事もせずに、キッチンへ向かう兄さんを、俺はじーっと見た。
(昨日のこと、兄さんはどう思っているのかな……)
 聞いてみようと思ったが、結局聞けなかった。

 その後、兄さんはいつもと変わらない朝食を用意してくれた。
 俺は少し考え、食べてみることにした。
「お腹すいたし、食べよう……」
 案外全て食べれるもので、ペロッと完食してしまった。
 それから昨日の事件について考えてみた。
(メールが届いて、俺の近くの人が殺された)
 そこまで考えると、今まで眠っていた眠気が、一気に起床し、俺に襲いかかった。
 ガチャン!
 遠くで何かが割れる音が聞こえたが、眠る俺には関係ない。

 時刻は午後四時、俺は起きた。
 俺の背中には、毛布が掛けられており、それはとても温かった。
 掛けてくれた本人を捜そうと、部屋の周りを見回すが、兄さんは何処にもいない。

 ピロリーン♪

 突然、メールの新着通知がなった。
 昨日のこともあり、俺はメールを開けるのをためらった。しかし、内容が気になり、開いてしまった。
 ――件名無し
 それは都志さんからのメールだった。
 俺は安心し、内容を見る。
 ――メールが届いた。俺は、俺は、
 ピロリーン♪
 最後まで読む前に、自動的に新着メール欄へと画面が切り替わる。
「っ!?」
 自動的に新着メール欄へと切り替わる機能など、この携帯には何処にもない。
 そして、何故そうなったのかも、分かった。

 ――ご返信を頂きました

 それは、あの、悪魔の、
 自動的に内容が表示される。

 ――本日、八月十五日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう

 俺はかまわず、今思っていることを全部書いた。

 ――兄さんを、殺してくれ

 何処かで、誰かが笑ったような気がした。


     ○


 まさか俺の中に、あんな心があるとは思ってもいなかった。
 俺が兄さんを殺した。しかし、この時は何も思わなかった。
 俺は兄さんが好きだ。
 そして、嫌いだった。
 兄さんは勉強も、スポーツも、おまけに絵もうまいというできた子供だった。
 俺ができないことも、あの人はできていた。
 ウーゥゥ!
 サイレンの音が俺の腐った神経に鳴り響く。
 誰かに見られているような気がして、冷や汗が服に付き、とても気持ちが悪い。


 ピロリーン♪

 またあのメールだ。
 どうせ中身(文章)はろくな事じゃない。

 ――殺害 完了

 全身からあふれ出る負のオーラが送り主への殺意となって自分の心に襲いかかる。
兄さんが何故死んだか、答えは、永遠に俺の中に隠されるであろう。そう、そうだ。俺の心の中に、閉じこめられる。
 今まで見ていたあの顔も、全て。俺の心の中――


 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!


『先ほど入ったニュースです、高校二年生の遺体が××市の△△川に浮いているのを、近くの住民によって発見されました。遺体には顔を何度も何度も殴ったような痕があり、警察は、殺人事件という方向で捜査を開始するようです。さて、次のニュースは――』

 ピロリーン♪

 もうこの世にはいない彼へのメッセージが届いた。

 ――Re:お疲れ様でした。

 

一日殺人


 家の中の何処を探しても聡がいない。
 何かあったのではないか、そう思い家の周辺を探した。いない。
 もう暗くなる時間なのにいないとなると、体からカレーの臭いを含んだ汗が出てきた。

 俺――羽田都志は、親戚から子供を預かった。
 名前は羽田聡。とても可愛い、男の子だった。大人の俺や、今日遊びに来ていた俊彦よりも元気で、成長が楽しみだった。
 しかし……、
 聡は何者かの犯行によって殺された。
 俺はずっと聡を見ていたはずなのに、聡は殺されたのだ。

 俺は、自分を恨んだ。


 終幕 一日殺人


 彼、俊彦が遺体として発見されたと聞いたのは、つい先ほどのことだった。
 警察が事情聴取とやらで俺の家に来て、今は警察署だ。ただでさえ、聡が死んだことにショックを受けているのに、追いつめるかのように俊彦の事を言われると、心にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚に陥った。その上、事情聴取担当の警官は犯人は貴方なんじゃないですか? とまで言ってきた。
 そこで俺は激怒した。勿論声には出さなかった。しかし、警官が言った事へ否定する時の俺の顔は強ばっていたであろう。
「はぁ」
 ため息をつく。なぜなら、今から聡の両親と面会するからだ。
 きっと、酷い罵声を浴びせられるに違いない。
 缶コーヒーでも買おうと思い、自動販売機を探す。女性警官がいたので自動販売機の場所を聞くと、
「外に在りますよ」
 と微笑みながら教えてくれた。

 警察署を出てみると、すぐに見つけた。
 缶コーヒーもちゃんとある。財布を取り出そうと、鞄の中をあさると、
「ん?」
 何か黒い物が入っていた。
 身に覚えがないので取り出してみると、それは黒い手紙だった。
 なんだ、これ? と思って、少し考え、開封してみる。中には、一枚の紙。
 そしてその中身を見てしまう。
 全身が寒気に包まれるのが分かった。

 ――本日、八月十六日。貴方の身近な人一人が死ぬでしょう

 どこかで見たことがある内容だった。
 そう、それは……

「え、えと……、何か変なメールが来たんすよ……」

「あ!」
 それは、俊彦が言っていたことだった。
 黄ばんだような汗が、全身を流れていく。
 あの時、俺は何を言っただろう……言ったことを思い出す。

「ただのいたずらだろう、ほっときゃあいいさ」

「――ッ!!」
 思い出すとともに、俺は息を飲んだ。
 俺は適当に返事を返していたのだ。その前に少しだけ考えていたが、それもどう適当に言おうかを考えていたのだった。
「なんてこった……」
 もしかしたらあのメールは、この悪夢を予想していたのかもしれない。
 手元にある、真っ黒い手紙を見る腐った俺を、まるであざ笑うかのようにギンギンに光った太陽が俺に暑さを感じさせていた。

 狂ったように町中を走り続け、もう一時間が経っていた。
「はぁはぁはぁ」
 聡の両親と面会することを今更思い出したが、もう遅い。今頃聡の両親は頭の中で酷く暴れているに違いない。
 そう思っても、走り続ける。
 一刻も早く、この町を出て誰もいない所に行き、手紙を捨てたかったからだ。
 誰もいない所に行けば、きっと誰も死なずにすむ。仮に死んだとしても、それは俺なのだろう。
 もう、誰かが死ぬのは嫌だった。
 そんな時、

 ピロリーン♪

 今度は携帯の方に、手紙が来た。
 それを走りながら確認する。
 新着メール欄の一番上、そこには

 ――殺害完了

 その一文字。
 全身に妙な違和感を覚える。
 そのメールを恐る恐る全文表示にする。
「ヒ!!!」

 ――証拠写真

 そう書いている。
 よく見るとこのメールは付属写真付きだった。
 証拠写真という物がなんなのかは分かっていた。しかし手は動いてしまう。

 付属写真を開くと、そこは見たことのある所だった。
 拡大表示されているのか、マイナスの所をタップすると、

「ぅああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 俺は悲鳴を上げた。
 その写真に写っていた物は……。

 聡……――。


 警察署で殺人事件が起こった。
 遺体は、恐ろしいほどに切り刻まれており、犯行現場にいた警察官にも気づかれないうちに、殺されていたらしい。
 警察署内での、尚かつ警官もいた現場での殺害成功率は紛れもない『0』だろう。
 しかし、犯行は起こった。

 そしてまた、新たな事件が起ころうとしていた。


     ○


「……」
 言葉が出ない。出したい言葉はたくさんある、しかし出せない。
 先ほどまでは走っていたが、今は歩くことさえ嫌になっている。
 俺は悲鳴を上げた後、こんなに走れたのかと思うほどの全速力で走ったと思ったら、すぐに体力が無くなり、地面へへたり込んだ。
 こんな事になるなら、日頃から体力を上げておけばよかった。
 そんな事を考えていたときの事だった、

 ピロリーン♪

「っ!?」
 突然、不愉快な着信音が鞄に入れてある携帯電話から鳴り響いた。
 今日これを聞くのは二回目だ。
 俺は、メールの中身を見ることなく、携帯を思い切り地面へぶつけ、その上足で踏んづけた。
 バリッ! という音がして足をどけると、見事粉々になっていた。
 やった! と思い、自然と口角が上がった。

 携帯を壊してすっきりした俺は、家へ戻った。
 まるで、今までのことがなかったように……。
 何気なく、机の上を見た。
 一通の、黒い、あの、手紙。
 俺は多少驚いたものの、すぐにそれをクシャクシャに丸めて、ゴミ箱に捨てた。
「はは……!」
 そうすると、なんだかいい気持ちになった。

 ゴミ箱に捨てた後、俺は自室へ行き、すぐに寝た。悪夢を見たんだと思ったから。

 次の日――八月十七日。

 いつもと何も変わらない朝を迎えた。
 起きるとすぐにポストの前へ行き、新聞を取る。これはいつもすることだ。
 しかし、今日は違った。
 ポストの中には、丸めてクシャクシャになった黒い物が入っていた。それは、昨日捨てた黒い手紙にそっくりだった。
 俺はもう三回目ともなれば、動揺することなく、ゴミ箱に捨ててこようとそれを手に取った。
 後ろを、向いた。

 そこには――
「うっ……うわぁああぁあぁああぁあぁぁぁああぁぁぁぁああ!!!!!!」




 黒い手紙が、たっくさん。


 俺は、それからどうしたのだろうか?
 確か、手紙を捨てに――



『本日、××市の△△川に、三十代ほどの男性の遺体が浮いているのを、近くの住民により、発見されました。遺体には、ナイフで何度も刺した後があり、警察は残虐的犯行と見て、調査を進めています』

 ピロリーン♪

 ――如何でしたでしょうか? 私は……



 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!


 一日につき、一回だけ殺害するという××市の言い伝え。
 これは一体誰が言い伝えたのでしょうか。
 結末は、誰にも分からない……。



 終幕――。

一日殺人

みてくださり、ありがとうございました!
これは、pixivからの本人転載です。
これのちゃんとしたやつも書きたいなー(棒)

一日殺人

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 手紙殺人
  2. ノイズ殺人
  3. 一日殺人