人狼ゲーム ~運命~
3日に1回は更新していきたいと思っています!!
どうか、最後までお付き合い下さい。感想・メッセージはTwitterでいつでもお待ちしております。
第1夜
皆はもっと、自覚するべきだ。
今こうして過ごせている事が、どれだけ幸せなことなのかを。
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「ったく、だっりぃなぁ」
俺は、顧問の悪口を親友の羽朶(ウタ)に愚痴りながら学校から駅への夜道を歩いていた。
「仕方ないよ、今日はミーティングだったんだもの」
俺と比べて確実に女子で、大人しい羽朶は、笑顔でそう言った。俺達は、軽音部で、今日は久々の顧問を交えてのミーティングだった。
「にしても顧問のずっちーは話がなげぇ!!もっと、もっともっとまとめろっつんだ」
足で地面をダンダンと踏みつけ言う。
「槙ちゃん...女の子でしょ。足は閉じて」
俺の足をピシッと指差して、そう言った。表情は、真面目で、どうやら冗談で言ったわけでは無いようだ。
「...はいはーい」
その表情を見ると、羽朶が本気で注意してくれてることに気付く。仕方なく、地面を踏みつけた足を静かに閉じて、羽朶から視線を逸らし前を向いた。
すると突然、羽朶が
「槙ちゃんもう時間危ないよ?」
とスマホを弄りながら言ってきた。
「え?何時?」
「19:30」
「やっ...べぇぇぇぇぇえ!!!」
その時間を聞いた瞬間、俺は、羽朶を置いて、弾かれたように走り出した。もう駅の近くではあるものの、あと3分で出発なんて...!
神はとても、意地悪である。
そして、後ろから羽朶の叫び声が聞こえた。
「槙ちゃーん!!バイバーイ!!!」
振り替える暇もなく、羽朶に背を向けたまま、俺は大きく手を振る。
「...気を付けてね、もう夜も遅いんだから」
羽朶はボソッと呟いた。
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「ゼェ...ゼェ...ゼェ...」
息がまだ荒い。あの後、やっとたどり着いた駅でホームを間違え、また階段を上りいつもの3番ホームへと走るという文化部にはキツい試練があったのだ。
どうにか間に合ったものの、体力だけは著しく減ったのだった。
頭を無理にむくりと起こし、自分の態勢を眺める。足はがに股、腕は椅子の上に乗っけて、頭は窓の縁。なんとも酔っ払ったおっさんのような格好をしていた。
「羽朶に...また、怒られるな」
そう言うと少しはましな格好に変えて、睡魔に負け、眠り出してしまった。
電車の電子掲示板には、神楽坂と表情されている。
それをうっすら薄目でぼんやりと見つめ、暫くして状況を判断した。
「俺の駅っ!」
もう扉はフシューッと、音を立てた。
まだ、ちょっとでいいから待ってくれぇ!!!
その一思いで、スクバ勢いよく持ち上げると、扉を無理矢理にこじ開け駅へと出ていく。扉に近い席に座っていたことが救いだった。
「ったく...嫌なことばっか。ミーティングのせいだ。くそっ...」
大層不機嫌になって、駅のホームから出ていく。田舎の俺の駅に改札はなく、そのまま出ることが出来る。
森林の中一本道だけ作りました、みたいな木という木の中を真っ直ぐなコンクリート舗装の道だけが目立つここ、神楽坂。田舎中の田舎だった。
その道を真っ直ぐに進み、道沿いにある家の明かりがやっとぽつりぽつりと見える頃。一番最初に見える平屋が、俺の家だった。ただし、そこに辿り着くまでが長い。早くて15分、遅くて20分ってところか。
辿り着くまで、ずっと森林の中を歩き続けなければいけない。いつもは別に、幼い頃からの事だったので、今さら苦になんて思わないが、今日は別。色々ありすぎて、疲れているようだ。
「...寂しい」
街灯は10mおきに一本の間隔で設置されてはいるが、10mも間が開けば、勿論暗い所が生じる。そこの暗い所が怖くて怖くて、嫌いだ。その割に、木は、何本も何本も俺を覆い被せるかのようにそびえ立っていて、それも大嫌いだ。
うつ向き、歩きながら、今日の様々な出来事を思い返し、また段々と腹立たしい気持ちになってきていた。
すると、丁度、街灯に差し掛かった時、不意に後ろから足音が聞こえた。
「?」
この時間帯にここに帰ってくるのは学生としか考えられないだろう。社会人なら、車で職場へと向かい、勿論帰りも車で帰ってくる。この町に学生なんて、私と樹(イツキ)しかいない。樹は、弓道部なので、もうとっくに帰ってる筈だった。
俺の10m後ろの街灯に、丁度その人物が照らし出された。その姿は、黒いフードを深く被った、男。歩き方は、ふらふらと左右に揺れており、いかにも不気味だった。
―逃げて―
「!?」
咄嗟に声が聞こえた気がした。
―逃げて、槙―
「お、俺!?」
驚き、声の主を探してキョロキョロしている間に、フードの男はいつの間にか姿を消していた...のではなく、街灯と街灯の間の暗闇へ溶け込んでいた。
心臓がどくんと脈打つ。
近付いて来てる。あの男。
引き摺るような足音が段々正確に聞こえるようになってきた。
嫌だ、来るな。来ないで。
ごくりと唾を飲み、暗闇をじっと見つめる。額には冷や汗が伝った。
俺の知り合いなら、挨拶してそれで終わればいいだけ。小さな町なんだから、皆知ってる。
段々俺のいる街灯の光に照らされ、姿が露になってくる。
フードの男は、俺の目の前に立ち、ゆっくりとフードを上げた。
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あの声に従っていれば。こうは、ならなかったのかもしれない。
森林の狼は、お前のせいだと俺を嘲笑う。町の人々は、これは運命だ仕方ないと俺を宥める。
俺には、どっちの声も戯れ言にしか聞こえなかった。
何故だろうか。次、俺が目を覚ました時。フードの奥の“顔”の記憶が無かった。
第2夜
ひんやりと冷たい床の感覚が、頬を伝ってくる。時々、屋根からか水が滴り落ちてきて、俺の手に当たった。全身どこも動かすことは出来ない。ただ、意識だけが朦朧としてある状態。
「んっ...ん」
声は微かに発することが出来た。あ、目も多少は開ける。
まだボヤけてるが薄目で、辺りを見回すと、そこには俺と同じように倒れた人が1、2、3、4…8人?
やがて意識もはっきりしてくると、体を起こすことが出来た。しかし、頭を突き刺すような痛みと腹部の謎の痛みに襲われる。どうしよう、ここは何処?
まだ起きてるのは俺だけなようだ。皆もきっと気絶している。死んでたりなんて、しないよな。
フラフラしながらも立ち上がると、震えてる足を引き摺って、1人、俺の近くで倒れていた女の子の近くに腰を降ろし、首もとに触れた。
「...あったかい。大丈夫だ、生きてる」
それだけでホッとした。安堵の溜め息がもれる。
「んんーっ...」
突然前から声が聞こえた。誰か起きたのか?
「んあぁ!!よーぅ寝たなぁ」
なんと、目を覚ましてすぐに体を起こし、頭を掻きはじめたではないか。正直、俺の身に何が起こっているのかは全然分からないが、きっと皆にも起きたときに同じ症状起こるものだと思っていた。違うのか。俺のあの頭痛と腹痛(?)はなんだったのか。
「お、おぃ」
俺はまた立ち上がり、今起きた相手に向かって歩き出す。足は大分まともに動くようになってきた。
「んぁ?なんだよ」
くあぁと大きな欠伸をして、こちらを向く彼の頭は金髪。それもボサボサ。なんとなくだらしないなと思った。相手はあぐらをかいているので、俺も、同じく相手の隣にあぐらで腰を降ろした。
「頭とか...お腹痛くねぇの?」
「痛ぇけど」
彼はあっさりそう答えた。
「俺は...目を覚ましたときそんなにすぐには起きられなかったんだ」
「それはお前が貧弱なんじゃねーのか」
いちいちいらっとすること言ってくんなコイツ。
「んなっ、ま、まあ、いい。ところでどうしてここに来たのか分かるか?」
「分かるかボケ」
俺は相手の肩をガッと掴み、ニッコォと笑って
「俺を怒らせるのはそこら辺にしとけ?クズ野郎」
まぁ、顔文字で言うなら(^言^)の顔。
「ぐっ...」
その表情に怖じ気づいたのか、少しは静かになった。その時、何処からかひゅおおっと風が吹く音がした。
「まあ、今起きてるのは俺とお前だけだ。自己紹介でもしとくか」
「俺は...朽葉 誘(クチバ イザナ)。高1」
「え?年下?」
「え、マジ」
「俺は綾瀬 槙(アヤセ マキ)。これでも女ね、高2です」
「年上かよぉ...」
脱力したように、床に臥せった誘。
「なに?年上は嫌いか?」
「...」
誘は、むすっと口を尖らせ、此方を見つめる。しばらくすると女子のようにふいっと目を逸らし
「そんなんじゃねぇよ」
と小声で言った。
「お取り込み中いいかしら」
二人の背後から不意に声がかかる。びくっと反応して、ほぼ同タイミングで二人、後ろを振り向くと、そこには腰までの黒髪を揺らした少女...いや、女性が腕を組んで、俺達を見下すように立っていた。
「自己紹介聞かせて貰ったわ、槙、誘。私は神社 命(カムヤシロ ミコト)よ。宜しくね」
「お、おぅ...」
誘が此方に何かを伝えたいような視線を送ってくる。
「よ、宜しくな!」
とりあえず笑顔を作ってそう答えた。きっとぎこちない笑顔だったんだろうな。
それに対して命は、ふっとなんとも美しい笑みを返した。
「ところで命は何年なんだ?」
誘がジロォと疑わしげに、命の足から頭までを舐め回すように見つめて言った。
「私?3年よ」
「ぎゃっ」
誘が後退りする。それを見て、命はうふふっと笑った。
「私もよく分からないけど今は緊急事態でしょう?先輩、後輩、無しでお願いね」
なんて優しいお姉さん何だろうか。俺の学校の3年生で、こんな人はきっといない。
「まぁ、とりあえず全員起こしてしまいましょうか」
いきなり、命がぱんぱんっと手を叩きながらにこっと笑顔で言った。
「そうだな!!早いところ全員起こして、この現状の理由を知ってる人を探した方がいい」
「うっす」
三人、バラバラで、まだ倒れている人を起こし始めた。すると、皆から少しだけ離れた場所に、見慣れた顔を見つける。
「樹...?」
すぐに駆け寄り、しゃがんで顔を見た。やっぱり、幼馴染みで、同じ町に住む、飛鳥 樹(アスカ イツキ)だった。
「樹!!樹!起きろっ!」
慌てて樹の体を揺さぶると、樹が唸って目を開ける。
「...槙か?」
「そうだよっ!!起きろ!!!」
俺は、直ぐ様樹の体を支えて、起き上がる補助をした。樹は、前髪を上げピンで止めると、辺りを見回し
「どうなってる?」
と、怪訝な顔で聞いてきた。そんなの、俺も知るわけないだろっ。
「知らない。だけど、とりあえず皆を起こさなきゃだろ...?」
「...分かった」
樹は、腹を押さえて立ち上がった。きっと俺と同様痛むのだろう。命はいつの間に起きていたのだろうか。無音で起き上がるなんて大したものだと思った。それに、案外誘も平気そうだったな。まぁ、あいつはタフそうだ。
そうして、四人でせっせと全員起こし始める。きっと、この仲間はなにかの運命で集まっているんだと思っていた。いや、何故か大切な仲間に思えて仕方無かったのだ。
「ふぅ...お疲れ様。皆、起きたわね?体力も立ち上がれるまでに全員回復...っと。んじゃ、軽く全員の自己紹介をしていきましょうか。取り敢えず、その白い髪の女の子からね?」
命は、せっせと話を進める。怖くないのだろうか。目を覚ましてから、俺は不安が常に付きまとっているというのに。
「わ、私は...五十嵐 梓(イカラシ アズサ)です。高校2年です、宜しく…」
ずっと下を向いた自己紹介だった。照れ屋なのか?
「僕は夜桜 伊緒(ヨザクラ イオ)。この赤い髪とっても可愛いでしょ?高2ね、宜しく!!」
そう言ってくるりと一回転した。赤髪のツインテールもくるりと回る。
「俺は、飛鳥 樹。この、槙の幼馴染みだ。高2、宜しくな」
俺は樹と顔を見合わせて微笑み合う。樹がいることが分かってから、すごく安心している自分がいる。
「俺は朝比奈 昴(アサヒナ スバル)だ。可愛い女の子多いね、こんな状況だけど、嬉しいかも。3年で先輩だけど、宜しくね」
そういった昴は、俺に向かってウィンクをしてきた気がした。ぞわっと背中に虫が走ったような感覚に襲われる。
「ゎたしゎ、浮羽 癒雨(フワ ユウ)ってぃぃます...1年だけど、ょろしくね」
直感で分かる、このふわふわした茶髪のボブ。嫌い。
「…じゃ、俺は綾瀬 槙。こちらが神社 命。そして、こいつが朽葉 誘。それぞれ、2年、3年、1年だ。宜しくな」
「あら、私達まとめちゃうの?」
「俺は二回も同じこと言うのは勘弁だかんな」
―ブツン
途端に響く、何かが切れたような音。激しいノイズの後に、こう続いた。
『皆様。初めまして、私は、このゲームを勤めます。マスターです』
何処から聞こえているのかは分からない。皆辺りを見回すも、スピーカーらしきものも見つからない。まるで、音に攻められているような、そんな感覚を覚えた。
『では、ゲームについて説明を始めます』
…ゲーム?
<内容>
・人狼ゲーム
・役職は、村人・村人・村人・騎士・人狼・人狼・占い師・タフガイ・見習い預言者の8役
・人狼と、村人族(村人・騎士・占い師・タフガイ・見習い預言者)の人数が同じになると人狼の 勝利
・人狼を全員殺せば、村人族の勝利
<スケジュール>
8:00 起床・生存者確認
12:00 会議
6:00 投票
6:30 部屋入り
10:00 結果発表
10:30 睡眠
「な、なにこれ...」
俺はつい声をもらす。人狼ゲームって...まさか本気でやるつもり?
さっきまでの和気藹々とした雰囲気は何処かに消え、皆すっかり黙りこんでいた。
『なお、屋敷の中は自由に使って頂いて構いません。朝、昼、夜のご飯はそれぞれ部屋にあります。皆様一人一人の部屋は階段を登った先にございます。さあ、皆さん頑張って生き残って下さいね』
俺はすぐに後ろを振り返る。そこには、真っ赤に染められたレッドカーペットの敷かれた螺旋階段が、まるで塔のようにそびえ立っていた。
その姿に恐怖感すら感じる。
俺達は、とんでもないところに来てしまったのかもしれない。
第3夜
皆は、真っ直ぐに階段を見つめていた。
屋敷の構造からして、ここは玄関。ロビーってとこだろう。見上げる程に高い螺旋階段。天井にぶら下がったくすんだシャンデリア。壁にかけられている、鉄で作られた洋風の鎧、槍。左右にシックな作りの木製扉があった。不審な所は1つ。入り口であろう扉が無いこと。
「ここでとまってらんねぇよな、行こうぜ」
俺は皆の前に立ち、言った。一人一人曇った表情を浮かべている。その表情を左から右へ、順番に見据えていった。そして、俺はあえて笑顔になる。
「絶対こんなところから皆で出てやろうぜ!!」
その声に反応して、ふっと緊張が緩んだように微笑んだ者が一人。樹だった。
「とりあえず、上に行ってみねえとなにもわかんねぇよ」
皆の前に立って、こう言った樹はとてもかっこよく見えた。しばらく無意識に樹の顔を見つめてしまっていたらしい。
「おーい、槙?」
目の前で樹のヒラヒラと手が揺れる。はっと我に返り、
「さ、行こうぜ」
俺と樹は先に階段に足をかけた。覚悟の一歩。強く、強く踏み締めて。
階段を二、三段上ったころ、樹は、俺のガタガタと震えていた手を樹は握ってくれた。気付いてたのか。後ろを振り向くと、付いてくる者もいればそうでない者もいた。覚悟を決められた人の表情は違う。
―俺は、樹がいれば怖くない。なにも―
そっと目を瞑って、そう微笑んだ。
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「おい槙マジかよ...」
先に一歩、二歩と階段を進んでいく槙を見つめて、俺はなんて不甲斐ない奴なんだと思っていた。他の人も皆行ってしまう。
「ちょっと...皆待ってくれよ」
ついにロビーには俺一人になった。皆の背中が、段々と離れて行ってしまう。ああ、動けよ、俺の足。
「っぅ...うぅ」
挙げ句の果てに涙が出た。怖くて怖くて、お母さんと叫んでしまいそうな勢いだ。視界も涙でぐにゃりと曲がる。そんな中、階段をステップよく下りてくる人がいた。
黒い髪をふわふわと揺らして、一生懸命下りてきている顔が見えた。
「誘、なにしてんの。行くわよ」
俺を迎えに来てくれたのは命だった。俺は、つい命に抱きつく。
「命っ...っあぁ怖い。怖いんだよ俺」
命は突き放すかと思ったが、優しく、まるで母のように背中を擦ってくれた。
「皆怖いのよ…」
「違うんだ!!」
いきなり大声を上げる。もう俺の感情は収まらない。
「お前...人狼ゲームってしってんのかよ。殺し合いだぞ、おい。殺すんだぞ!!」
命の肩を掴み、ゆっさゆっさと振った。命は痛そうに顔を歪める。
「分かってるわよ...でも、私だってここで死んでられないのよ」
痛くて瞑った目を開けて、強く誘を見つめた。そして、自分の肩をがっしりと掴んでいる誘の手をそっと撫でて、
「私が守ってあげるから」
と、微笑んだ。命は、光だった。この殺し合いゲームの、ただ1つの。俺だけの光だ。
後は、命に手を引かれ、俺は階段を上った。一段上るたび、軋む音が聞こえる。だが俺は、俺の先をあるく勇敢な命に見とれていた。強い、強いな。命って。
でもな。敵は、少ない方がいいんだ。命。
俺は、命の手をぐいっと引く。命は、バランスを崩し階段から転げ落ちた。下まで転がり、倒れた命は動かない。黒髪が段々と赤いものに浸かっていくのが見えた。
「命、わりぃな」
俺は、すたすたと階段を上る。こういうのは、騙されるほうが悪いんだって、誰かが言ってた。
人狼ゲーム ~運命~