オリヒメ様とお人形
昔ある所に大きな王国がありました。
その王国の王族は国民に嫌われていました。そこで国民は立ち上がります。
〔あの王族たちを倒さねば〕
国民は力の限り戦い続けました。
その戦いに救世主が現れます。
救世主のおかげで王族を倒すことができました。
しかし
国は破滅の道を進みました。
活気に溢れた町は見る影もなく灰を被って廃れていきました。
ーーこれは、救世主と呼ばれていた『大きく小さな兄』と【小さく大きな妹】のお話です。
※短編となっております。
雨空の下
――グロンダシャリオ:港町――
ここは……どこだろう。
目を開けるとそこは知らない路地裏だった。バケツをひっくり返したように降る雨が冷たく刺さる様に感じる。
道の隙間から見える景色は、見たこともない港町。見たこともない人々。僕とは違う人が多い……。
景色に驚いていて重要なことに気づくのが遅れたが……
「僕は……あの時死んだはずじゃ……」
あの時――つまりは僕らが『ラノテール革命戦争』と呼んでいたものだ。
それなのに僕はどうして今生きている?
降りしきる雨の中考え込んでいると急にピタっと雨が止んだ。
見上げると傘を持った男性が僕に傘をさしてくれていた。
「こんな所でどうしたんだい? お坊ちゃん」
その男性は優しく問いかけてくれた。
知らない町の人ということで少々警戒していたが、悪い人ではなさそうだ。
「わからないんです……。ここがどこなのかも、どうしてここに居るかも分からないんです」
彼は驚いたように眼を開くと可笑しそうに笑った。
「そうかい、そうかい。家出ではないんだね。 それにしても……」
彼は不思議そうに僕のことを眺めると
「この辺りじゃ見かけないような人だね……。 どこの国の人だい?」
これは……言っていいのだろうか。
昔からラノテールは快く思われていない国だった。そんな国の人だと知ったら助けてくれそうなこの人でも離れていく可能性が高いだろう。本当の事を言わないのは少し罪悪感があるが……
「おそらくここよりも東方にある国です」
彼は、ふむ、とだけ言って納得すると僕に手を差し出し、言いにくそうな笑顔で
「それなら、おじちゃんの家に来るかい?」
「……いいん、ですか……?」
「あぁ、いいとも。 君も何か事情があるんだろう? どこかもわからない場所で生活していくのは、難しいだろうからね……。 君が良ければ来るといい」
驚いた。まさかここまでいい人とは思わなかった。
――こんなにも汚れた僕にも手を差し伸べてくれた。
僕は彼の手をとると
「よろしくお願いします」
とだけ告げた。この人はどうしようもなく温かかった。
オリヒメ様とお人形