君までの距離
初恋が実ると信じて10年・・・・ずっと追いかけていた年上で優しい幼馴染の凛子がいきなり結婚すると言ってきて・・!?!?
失恋
「君のことを一生幸せにしてみせる・・!だから、僕と結婚してください」
僕が真っ赤な顔でそういうと彼女もまた真っ赤な顔で少し遅れて「・・はい」と言ってくれた。
そして、そこで監督の「カット!!!!」という大きな声がスタジオに響わたり、僕は一気に現実に引き戻された。
「やっぱり今話題の新人俳優の演技は違うね~~」
「あ、ありがとうございます」
「男の私でもドキドキしたよ」
監督はあはははと笑いながら「じゃあ、すこし休憩」と言った。
「ふぅ・・・」
「ため息ついたら幸せにげちゃうよ~優馬くん~」
その声が聞こえた瞬間また、僕の顔は真っ赤になった。
「どうした~顔が真っ赤だぞ~」
幼馴染でさっきまで僕が行った言葉に顔を真っ赤にしていた彼女・・・結城凜子が僕を小馬鹿にしたように話しかけてきた。
「な、なんだよ!・・・凜子かよ」
「なによ~!愛しの凜子お姉さまが話かけてあげたのに~な~ま~い~き~!!」
凜子はそういうと僕にデコピンをしてははは~と笑い始めた。
そんな彼女は、テレビでは見ない日はないぐらいの今、旬の女優だ。そして、僕の初恋の人。・・・もう10年ぐらいにもなる。
僕がそんなことを考えていると彼女は「さっきの演技よかったわ。・・・ドキドキしちゃった」とニコニコ言ってきた
・・・・そりゃ、いくら演技でも凜子が相手だと本気になっちゃうよ・・・と内心思いながら「ありがとう」と笑顔で返した。
その瞬間凜子の携帯が鳴り「あ、すこしごめん」とすこし頬を赤くしてスタジオから出て行った。その顔はさっきの演技とはまた違う華やかさがあり僕の心臓はドキドキと大きく跳ね上がった。
「・・・・絶対顔赤い」ボソッとそういうと飲みものを買いに僕もスタジオを出た。
「ははは~・・そうなんです。・・はい、今撮影中で・・」
スタジオから少し離れた休憩所から先程スタジオから出て行った凜子の声が聞こえて僕はまたドキドキとした。
一体だれと電話してるんだろ・・?
隠れるように休憩所の方を見てみると少し嬉しそうな凜子が電話相手と話していた。
子供の頃からずっと一緒にいたけどあんな顔見たことない・・・・と思いながらもずっと物陰に隠れるように凜子を見ていた。
・・・なんで隠れてるんだよ・・・ストーカーかよ・・気持ち悪い僕なんて言いながらも見ていたらようやく電話が終わったらしい凜子がスタジオに戻ろうとこちらに向かって歩いてきた。思わず僕は間抜けな声が出てしまい凜子に気付かれてしまった。
「・・・こんなところで何してんのよ・・・・・もしかしたもう撮影はじめっちゃった?」
「い、いや・・・自販機どこかなっと・・・探し中なんだけども・・・」僕の不自然すぎる演技に凜子は「自販機なら目の前にあるじゃない」と言い「・・・頭大丈夫?」と笑いながらスタジオに戻っていった。
今のは不自然すぎたか?・・・いや、ばれてないはず・・・大丈夫だ。そう心に言い聞かせ何本か飲み物を買い平然を装いながらスタジオに戻って行った。
スタジオに戻ってみると監督やマネージャー、メイクさん、美術さんたち大勢が凜子を囲んで「おめでとうございます!」「幸せになってください」「いつでも相談にのりますよ」など祝福の言葉を送っていた。
そしてその中央には照れくさそうに「ありがとうございます」と言っている凜子の姿が見えた。
一体なんだ?・・・凜子の誕生日だったか?・・いや、違う。そう思いながらみんなに近づいて「どうしたんですか?」と聞いた。
「あ!優馬君帰ってきてたんだ!・・いや、凜子さんが結婚するって・・!!!」
マネージャーが笑顔で僕にそういった。
「・・・・結婚?」
僕は頭が真っ白になった。・・・誰が結婚するって?いつ?・・・・あぁ、お祝いしないと。おめでとうございますって・・・言わないと。
「優馬君?・・・どうしたんだ?」
マネージャーはうつむいている僕の顔を覗き込むように問いかけてきた。
鼻の奥がツンッとして目の後ろがものすごく熱くなった。泣きそうだ。・・・・いや、こんなところで泣いちゃだめだ。
凜子だって心配そうにこっちを見てるじゃないか・・・・早くおめでとうって言わないと・・・。
「優馬・・・?」
凜子が僕にゆっくりと近づいてきた。・・・また、凜子の優しさに甘えてしまう。もう、ただの幼馴染じゃない。今まで一番凜子に近いのは僕だと思ってたけど、これからずっと一緒にいるのは凜子の結婚相手。凜子の隣は僕の場所じゃない。そう言い聞かせながら顔をあげた。
「おめでとう・・・凜子」
そう笑顔で言った。・・・・・笑顔だったどうかはわからないが、俳優としての最上級の演技をしたつもりだ。
内心はとても笑顔で「おめでとう」なんて言えなかった。
でも、凜子はそんな僕に女優としての・・・いや、1人の女としての最上級の笑顔で「ありがとう」と言った。
こうして、僕の10年間にも続いた初恋は僕の思いを伝えることもなく、あっさりと幕を閉じた。
もう、戻れない
凜子の結婚の聞いた日の夜はどうやって家に帰ったのかも、どうやって寝るまでの過程になったのかも忘れた。・・・・・いや、忘れたというより無意識だったんだ。何も考えられないな・・・・。
ていうか・・今日も撮影か・・・とブツブツ言いながら重たい体をベットから引きはがしシャワーを浴びに洗面所に向かった。
洗面台でみる自分の顔はひどい顔だった。目の下が赤く腫れ、髪はぼさぼさで一気に老けたようだった。
「・・・・ここまで、酷くなるとは・・・」
自分の頬をさすりながらゆっくりと服を脱ぎ始めた。
シャワーを浴び終えた僕はクローゼットから服をだし、テレビをつけた。
『いや~ほんとに驚きましたね!』
『はい、まさかあの人気俳優の黒崎りくさんと人気女優の結城凜子さんが結婚するなんて』
『噂では、結城さんの方から黒崎さんにアプローチをしたとか・・』
あぁ・・・凜子は黒崎さんのことがずっと好きだったんだ。あの時の電話も黒崎さんからの・・・
僕はボケッとテレビを見ながら凜子と黒崎さんとの結婚報道の話題が終わるとテレビをけし、家を出た。
外には、マネージャーがもう車で迎えに来ていた
「優馬君・・・おはよう」
「・・・おはようございます」
マネージャーは昨日の僕の反応で僕が凜子のことを好きだったことを察したのか、いつもつけているテレビやラジオを一切付けておらず何も話しては来なかった。
「・・・・・優馬くん・・今日の撮影は12時までで、それから、雑誌の取材ね・・結構忙しいけどがんばって」
「・・・はい」
マネージャーは苦笑いをしながらもう一回頑張れと言った後、僕を送り出した。
スタジオに入るとスタッフ一同花を持って待っていた
・・・凜子のか・・そう思いながら軽くスタッフにあいさつをしてから衣装に着替えた。
この衣装を着ているときだけは凜子の彼氏になれたつもりだった・・・でも、それは勘違いで凜子はこの衣装を着ているときも黒崎さんの彼女で今日からは人妻だ・・・・
もう、もとの幼馴染には戻れないのか・・・・そう思うと目の奥がジンっと熱くなってきた。
君までの距離