Mood Faker 煉獄の使徒
ここは魔法学園フェオリア。
可愛い幼馴染に、退屈な授業。繰り返される毎日はとても平和だった。
そんな平和に溺れてだらけきっていた少年の日常は、幼馴染の友人が事件に巻き込まれたことによって脆くも崩れ去っていくのであった。
非日常の始まり
私は、どうなってしまうのだろう。
真夜中、もちろん外に出ている人もいない。息は絶え絶え、追ってくる人影に死の危険を感じながら、ただがむしゃらに街を駆けていく。
「こ、来ないで、なんなのよ」
「あなたに恨みはないのです、ごめんなさい」
「なら、なんでっ」
後ろの人影は全く息を切らしていなかった。むしろ、私が苦し紛れに走る姿を見て楽しんでいるようにも感じる。
つらい、もう足も動かない。
「逃げても、無駄」
私の額を流れる汗は疲労と焦りによるものだけではなかった。
ふっ、と背後が明るくなったかと思うと、周囲は赤いカーテンで覆われていた。
「これ、は・・・」
「あなたと同じ、私、魔法使いなんです」
燃え盛るそれは、見る見るうちに逃げ場を狭めていった。
様々な感情が入り交り、軽いパニックを起こす。
「いや・・・いや・・・」
背後に気配を感じる。そう、気付いた頃には、人影だったものが手を伸ばせば届くほどの距離まで近づいていた。
「・・・」
「さよ、なら」
翌日、何軒かの建物を焼く火事の跡と、一人の少女の焼死体が発見された。
「最近、物騒だねぇ」
「また焼死体が見つかったらしいな」
「一昨日のニュースだねー」
「だな、怖くて夜も眠れないわ」
「え、ミツキは意外と怖がりなんだね、かわいい~」
「うるせーよ」
ここは学校、俺はいつもの様に話をしていた。
幼馴染の、ユノ。
人形のように長く綺麗な銀髪に、宝石のような碧の瞳。高等部とは思えないほど子供の様な見た目の少女だ。
「ミツキは、昔から甘えん坊さんだったもんね~、私は心配だよ」
「今はそんな事ない」
「とか言って、私に甘えたいくせに」
「もう少し大人になってから言えよ、子供に甘える奴は居ないわ」
「・・・これでも同い年だよー」
「第二次性徴はいつ来たんだ?」
「・・・あのね、女の子には言ったらダメな事もあるんだよ?」
「やーい、まな板」
「・・・」
いつもの様に何でもない会話をして、平凡な日常に幸せを感じる。
俺、ミツキは、そんな毎日が大好きだった。
しかし、そんなありふれた日々は、長く続くものでは無かった。
「ミツキは、いじわる」
「いまさら?」
「もういいもん」
適当に会話を終わらせて席に着く、もう少しで朝礼が始まる時間であるからだ。
全員席に着いた頃、教室の戸が開く。
これまたやる気のなさそうに教室に入ってきた担任は、体を伸ばしたかと思うと、衝撃的な事実を口にした。
「・・・朝礼、もとい、報告」
「・・・うちの学校の子が、例の事件に巻き込まれた」
どよめく生徒達。
「・・・マジかよ」
ユノのほうに目をやる。酷くおびえているようだ。
「・・・落ち着け、死んではいない、あいつに襲われて死ななかったのは初めての例らしい」
先生は落ち着いている。もともと感情を表に出さないタイプの先生だからだろうか。犯人をあいつ呼ばわりしているくらい、落ち着いている。
「・・・カレンちゃん、高等部2年の」
「・・・仲いい人居たら、お見舞い、行け」
カレン。物静かな感じの少女で、ユノと話していたのを覚えている。
少し見回してみると、ユノのほかにも何人かの生徒がうつむいている。恐らくカレンと仲の良かった生徒たちだろう。
「・・・大丈夫、やけどだけ、すぐ退院してくる」
「・・・大事なのは、今回カレンが犯人像を覚えていてくれたから、犯人の特徴が分かったって事」
「・・・女の、魔法使いだって、炎属性。髪は、赤い。見かけたら、逃げろ」
「・・・今日は午前中で切り上げ、魔法使いなら先生たちが捕まえないと、だめだから」
「・・・以上、さっきの話を朝礼とする、解散」
言い忘れていたが、俺たちの学校は普通じゃない。
魔法学園。世の中の人が知らない「魔法」を勉強する場所。
「魔法」の存在を知っているのは国家と、ここの生徒、先生だけで、世界各国からここに生徒が集まってくる。
国家から派遣された先生が生徒の「魔法」の発現に気づき次第、生徒に招待状を送るのである。
「魔法」の勉強、と言っても、普通の教科の中に魔法学が含まれるだけで、それに基づいた時間割が構成されているだけ、というものである。
なので、魔法が絡んだ事件となると先生方は見逃せないのだ。
さて、午後になったら俺は帰ってゆっくりしようかな。
・・・と思っていたんだが、
「ミツキぃぃ」
「んだよ」
「午後、カレンちゃんのお見舞い、付き合って」
「俺そいつと接点ないんだけど」
「はくじょーものー」
拗ねた顔でこちらを見てくる。個人的にこの顔をされるのが一番苦手だ。
「・・・分かったよ、行くから」
「わかればよろしい」
「やっぱ行かね」
「いーじーわーるー」
「・・・」
「私は、悲しいよ?」
「・・・」
「この危ない時に、女の子を一人にするの?」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!分かったからあぁぁ!!」
「ありがとっ」
・・・というわけだ。
一時間目が始まるので、俺たちはお互いの席に着くことにした。
「ほへー」
「ほへー・・・じゃねぇよ言わせんな」
「言ったのはミツキだよー?」
「そ、そうだけど」
午前中の授業が終わった。あっという間に感じた。
帰りの支度を終え、昇降口に向かう。
「じゃ、行きますか」
「そうだな・・・おっ?」
昇降口に付くと、不自然な人だかりが出来ていた。
「デュフフフwwwwwwそそりますなぁwwwwwwww」
「ちょ、ちょっと、止めてくださいます?」
三角頭のおにぎりみたいな奴が金髪ロングに大きいリボンの女生徒をローアングルから撮影している。
それも、さながらプロの様に、一眼レフの高そうなカメラを巧みに操って。
さらに、撮影を見た男子生徒が様々な感想を並べていた。とても気持ち悪かった。
「おーい、ティルちゃーん」
「ふぁ、あ、ユノちゃん、助けてよぉ」
「デュフフwwwww可愛いでござるwwwwwww」
つんつん、ユノは俺の脇腹をつついてくる。
「・・・ちっ」
意味を理解した俺は、三角ヘッドに声をかけた。
「おいこら、やめろ」
「ブヒッ!?い、命の危険を感じざるを得ないですなwwwwwww逃げるがかちぃwwwwwww」
「あ、おい!!」
逃げ足が速いようで、瞬きをすると人だかりに紛れてどこかへ消えてしまっていた。
それを合図に人だかりも散っていった。何て奴らだ、全く。
「・・・ふぅ、助かりましたわ、ありがとうございました」
「い、いえいえ、大丈夫ですよ」
・・・なんだろう、このやりにくさ。いつもユノとばかり話しているせいか、どんな態度で接すればいいか分からない。てか、なんか、怖い。
「・・・え、あ」
「・・・ふたりとも身長大きいよー」
助かった。話のタネに困っているところにユノが声をかけてくれた。俺の脇でアホ毛をぴこぴこさせているユノ。改めて見ると、ユノの身長は155cm程なのに対し、△に写真を撮られていた金髪ロングちゃんは160cmを超えていた。
「ユノちゃんが小さいだけだよ~」
「ティルちゃんはスタイル良くていいなぁ~」
「そ、そんな事ないよー、恥ずかしい」
・・・誰だか知らんがユノと波長が合っている。女はこういうキャラのほうが馴染みやすいのだろうか。
「俺は175cmくらいだ」
「そ、そうですの」
「・・・」
「ティ、ティルちゃんは男の人が苦手なんだよぉ」
「に、苦手なんじゃないんだよぉ」
・・・やりにくいわけだ。男の人嫌いオーラが出ていたからか。
「・・・じ、じゃあ、俺行くわ」
「あっ、置いてかないでよぉ」
「えっ、これからどこに行くのー?私も帰りなのだけれど」
「えっと、カレンちゃんのお見舞いにだよー」
「な、なら私も行こうとしていたところだし、ついて行っていい?」
・・・嫌な予感がする。
「いーよー」
即答。俺はこのやりにくい女生徒と共に、病院へ向かうこととなった。
ユノが空気を読んでくれたら・・・なんて考えても無駄なので、とりあえずこの女生徒と仲良くなろうと決めた。
靴を履きかえ、外に出る。
そんな事件があったなんて想像が付かないほどの、満天の青空だった。
勇気を出して声を掛けてみる。
「・・・あ、あの」
「なんですの?」
「き、綺麗ですね、空が」
「そ、そうですわね」
「・・・」
・・・会話、終わってしまった。何だろう、凄いやりにくい。
「・・・大体何が言いたいかは分かりましたわ、あなたからしたら気まずいですものね。さっき助けて貰った恩もありますし、軽く自己紹介でも」
「おっ、ティルちゃんが、珍しいねぇ」
「ユノちゃんは羨ましいよ、色んな人とお話出来てさぁ」
「ティルちゃんだって友達いっぱいでしょ~?」
「男の人は駄目なんだ、恥ずかしくて」
「(恥ずかしかっただけなのか・・・?)」
「じゃ、自己紹介、しよ?」
「そうだった、言い出したのは私だった、ごめんなさいっ」
あれ、割と可愛いところもあるのか、この人。
「ティルニア・エシルヌス。高等部2年、趣味は甘いものを食べる事、よろしくお願いいたしますわ」
「ふぁ」
「ティルちゃんは甘党なんだね~、太らないの?」
「ふ、太ったら、生徒の模範にならないよ~」
「そっかぁ、頑張ってるんだね~」
「うぅ・・・恥ずかしいです・・・し、質問とか、あります?ミツキくん」
あれ、案外普通の女生徒なのか・・・まて、なんでこいつは俺の名前が分かるんだ?
「お、俺って、名乗りました?」
「大分変な質問ですわね、名乗ってないですわよ?」
「なら、なんで」
「ティルちゃんはね、生徒会長さんなんだよー?」
「ふぁ」
「あら、そんな事ですか、生徒会長たるもの一人一人に目を向けられるようでないと」
「な、なるほど」
生徒会長だったのか、知らなかったのが恥ずかしい。
それに、全員の名前を知っているとは、恐るべし。
しかし、病院はまだなのだろうか。
自己紹介も終わり少し歩いていると、ティルニアが口を開いた。
「その、えっと」
何やらもじもじしているティルニア。これは、どうしたらいいのだろう。
「あっと、その、」
勇気を出して聞いてみた。
「ど、どうしたの?」
「男の友達って、いないんです、だから、こうゆうのって中々ないなぁ、って」
「!?」
あれ、これはデレているのか?顔を赤らめるティルニアは中々新鮮だった。
「えっ、ティルちゃん!?」
「その・・・助けてくれたの、嬉しかったから、あなたとは友達になりたいなぁ、って事です」
さっきまで眠そうにしていたユノは目を覚ましたようだ。
「・・・だってよ、ミツキ、どーなのー?」
「よ、よろこんで」
こちらとしては断る理由がなかったので、戸惑いながらもokする。
すると、ティルニアは満面の笑みを浮かべた。荒れ地にひまわりが咲いたみたいだ。
「あ、ありがとうございます、嬉しいですわ」
これまで仏頂面と不安そうな顔しか見せていなかったティルニアに、新しい表情が増えた。
言っていなかったがティルニアは間違いなく可愛いため、笑顔がとても似合う。
「・・・私も、忘れないでよー」
ユノが手を握ってくる。ユノはどちらかと言うとロリ可愛いに入る。ティルニアは大人可愛いだ。
「?」
「なんでもないです~」
握った手を強めてきた、ユノは幼馴染だが、たまに分かりかねるところがある。
「ばーか、ばかミツキのばかやろー」
「どうしたんだよ・・・」
「・・・わ、悪いことをしてしまった気がしますわ」
「???」
訳が分からない。と思ったら、ユノはアホ毛をぴこぴこさせて一言。
「いーのいーの、ティルちゃんだから許すー」
「え・・・あ・・・」
「むふふふふふ、可愛いなぁ」
「え、ちょ、ユノちゃん、あっ」
・・・対象が俺からティルニアに切り替わった。ユノはティルニアの胸を揉みしだいてじゃれている。
長年一緒だから分かるのだが、誰かとじゃれ合うのはユノの不機嫌の証拠だ、何かしてしまったのだろうか、幸いティルニアは気付いてないようだが。
「デカい乳ですなぁぁ」
「え、ふ、普通だよぉ」
「私がちっちゃいだけだというのかぁぁぁぁ」
「そ、そんなこと、あっ」
・・・なんだか変な気分になってきそうなので、二人がじゃれている間に、自販機で飲み物を買うことにした。
Mood Faker 煉獄の使徒