向こう岸から、ありがとう
信号待ちの目前をトラックが、ガソリン臭の人口的な生あたたかい風を吹き散らし通りすぎる。
真冬の深夜、もう終電も金もない。コンビニを梯子しながら日本橋から酒を片手にうな垂れて帰途を目指していた。
酔いがさめると、寒さが首元を襲ってくる。それを酒でごまかしながら。
もう直ぐ桜上水。家まであと数キロもある。
何故か今日も歩いて帰りたかった。
国道の真っ暗な歩道では、ときおりクロスバイクに乗った若者とすれ違うだけ。あいかわらず、車道ではエンジン音が川のように流れていく。
彼女との暮らしは、桜上水から始まった。
向こう岸から、ありがとう