固有の署名
1
風にはそれ固有の道があった、
火にはそれ固有の道があった、
水にはそれ固有の道があった、
されどぼくは、わたし固有の道を悉く踏み外した──
ぼくの往かおうとする月硝子城へのうごきは果して、
風-的であったか?
火-的であったか?
水-的であったか?
それと云うのもぼくという犬死詩人には、
ぼくの「わたし」と云ううごきの
観念的属性と云うものをみいだしえない、
それは風か? 火か? 水か? ──こんな自己定義は卑怯だ。
月光に発火され踊らされる、
貞節から一条に吊る固有の神経──それがぼく?(花である勿れ!)
青みの疵の燦り照った(肉肌が内奥へ吸われる金属音の 残響)
しかればぼくは──いつ道を踏み外し疵負ったのか?
*
しっとりなハンドクリームの辷る艶伸びを、
恰も逆再生させるざらつきで、ぼくの手首はぼくに摺り落された──
ぼくはわたしの影と掌を踏みつけた、逆走した!
聴いて ぼくはわが人生を愛したから、わが人生を台無しにした。
2
いずこへ?
ぼくたちという種族には
しばしば故郷が欠落しているようだ、
ぼくはわが重たい瞼のスクリーンにましろの鏡面を置き
夢という 不在の虚数を、投げ遣りな祈りで落しつづけた。
恰も 青と銀と象牙を美術装飾するように──
ぼくの詩の色彩学を洞察するひとは
みな軽蔑に値したらしい──だからぼくは好きだったよ。
かれ等 はや土のなかへ潜って了った、
H精神病院は不在と云う屹立を湖へ墜落させ 実在の表皮に睡った。
ぼくにとり、
光は音楽であった、音楽は光であった──
光が音楽 音楽が光──ゲエテあたりが云いそうだ。
さるにしても光と音楽の共同舞踊(舞踏)という詩観は
ぼくの、現実という土壌からの風・火・水の欠落に宿る、
“青き血” ”銀の精”の祈りの歌-性を、詩的推論させはすまいか?
4
“シド・バレット”──ぼくは好きだよ、
ぼくはあなたと友達になれそうだった、そうは想わない?
天衣無縫の邪悪なる銀の妖精
黒々と凝る雰囲気が淡く浮く 光と音楽の魔術師であった。
どうか 言葉のままに受けて(詩の理解なんて言葉、嫌だ!)
ぼくにとり
光は音楽であった──音楽は光であった!
されど闇の裡の夥しい神経の束で ぼくはわたしを踏み外した
さすれば──
光の欠落を引き摺る闇を歌おう(光を) 死んだ音楽に呻く声楽を光らせよう、
ぼくは”ぼくの人生”を肯定しよう──
それの依拠は”貞節抱いて疵を歌った”、これ以上必要ないだろう。
君という肉の冷然硬質の疵を、ぼくが丁寧に圧し拡げよう、
水晶さながら 青みが刹那だけ赫々としただろう、
神経へ月光が射したときだけだろう、
さすれば君の人生を肯定しよう──署名はいつでも”青津亮”。
固有の署名
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