オニキスたちの実験準備
「飛べると思って飛んだのに身体がついていかなかったんです。こういうのって、こっちのネストじゃよくある話じゃないんですか?」
「昔は、ね。最近じゃあ記憶に強く引っ張られる子はそう居なかったから、我々も対応を考えているところで……」
何回目かになる講師との面談でそう聞かされて、困らせてしまっているな、とわたしは心の中でため息をついた。元いたネストでもそうだった。だからこそ、この「記憶」に対応するノウハウがあるというネストに移ってきたのだが。
「たぶん記憶を刺激するようなことをしなけりゃ大丈夫です。寮の部屋も下の階に移動してもらったし。気球やグライダーに乗る予定も、今のところありませんし」
困っていることや悩んでいること、授業の進捗具合、健康状態について。
いつもと変わらない問診めいた時間を過ごしたのち、わたしは講義棟のロビーへ行くことにした。顔見知りの誰かがいるかもしれない。寮へ帰るにはまだ早い時間だ。
案の定、同じ学年の数人がロビーで一番マシなソファに陣取りカードゲームをしていた。できるだけ複雑な化学式を作って競うものだ。片方に後ろからアドバイスをすると、もう反対側から「不公平だっ」と小さく声が上がった。
「オニキスがついたら勝っちゃうだろ、こっちにも来てよっ」
「今日は何を賭けてるの?」
貰い物の菓子の最後の一つ、奇数だったんだ、とゲームに参加していない一人が答えた。
「毎度のごとくしょうもないでしょ? オニキスも参加する? 甘いの苦手じゃなかったら」
「ううん、見てる方が楽しい」
不毛な事情聴取の後は、しょうもないことに限る。
オニキスたちの実験準備
こんな話をそのうち書きたいな〜!という予告編です。