孤忠の光

孤忠の光

 項垂れていた日々には、光なら何でも良かった。
 この身を照らしてくれるなら、虚栄でも良かった。
 いつも無理に笑ってまで、本音を抑えてまで、
 楽しい振り、賑やかな振りで暮らしていた。

 周りの人を照らす光、或いは人に集う人々を、
 疎ましく思っていた。だから惨めだった。
 春から初夏へと向かう暮らしの中、窓の外では、
 光は力強く、それでいて優しく輝くというのに。

 遮光カーテンの内側で、人の在り方ばかりを考えて、
 人の強さばかりに憧れて、ある日、糸が切れたんだ。
 誰も、光を浴びていない。囲まれていない。
 そう見えた人々は、私と同じ状態の人間達だった。

 幸せにならなきゃいけない、成功しなきゃいけない、
 孤独で暮らしてはいけない、強みが無いといけない、
 いけない、いけない、ただその一語で自らを縛り、
 他者の在り方が、眩しく思えて、いたんだね。

 私は自他の差異に気を使わなくなった。
 拘る為の時間で、本当に一日だけの今日を過ごしたい。
 今まで自らを縛った鎖は、ひとつずつ断ち切られて、
 大切な家族、恋人、友人、仲間だけが残った。

 それらは、自分の為の装飾品ではない。
 ただただ、感謝する相手なんだ。
 飾る為の幸せも、物も、人も、それは不幸だ。
 少なくとも、私を満たすものは、飾りには成らない。

 今まで迷い続けた、四年以上。くだらなかったね。
 でも、お蔭で多くの事を心に学ばせる事ができた。
 ただの人として、享受し得る有難いものに囲まれて、
 それを忘れていたら、きっと何もかもが苦しみだ。

 私は私にしか成れないけれど、好きな私に成れるよ。
 相対評価や商業主義や、他者の意図を超えた先で、
 私の為の指針を手に持って、物事を考えながら、
 私の為だけの私になる。それは、栄光の私ではない。

 人から羨ましがられる事や、賛美される事や、
 良く見られたいという願望でさえも、ここに全部捨てて、
 今日が明るい。私は筆を手に取った。成長意欲に燃えた。
 五年目の指輪を、御守りにしながら。

孤忠の光

孤忠の光

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-26

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