檸檬、ひと齧り。

檸檬、ひと齧り。

1920年代。地球上の何処かにて…。

おい見ろよ。
売女〈ばいた〉ン所の餓鬼が今日も町ン中を彷徨いていやがらぁ。

三日三晩、職業及び身分関係無く莫迦騒ぎをする事が「お上」によって赦されているお祭りが、文字通り何の諍いごとも無く幕を下ろしたばかりの国境沿いの田舎町に、今再びの
静寂が訪れている中、つい先程迄椅子に腰掛けて演奏を楽しんでいた楽隊屋達の視線の先には、町のお偉方の命令であばら屋の解体作業を夜通し行ったが為に、すっかり其の顔が煤けてしまった愛蘭〈アイルランド〉系の青年が父親譲りの工具箱片手に朝の通りをトボトボと歩いている姿があった。

飯を喰う銭も無さそうだな、あの分だと。

バンジョーの手入れを終えたばかりの鷲鼻の男が腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がり、窓際近くで大きく背伸びをし乍ら呟く様にそう述べると、其れ処か、新しい服の月賦も支払えねえだろうよ、とピアノ弾きが氷で冷やしたばかりの水の様にひんやりとした表情で呟き、此の陽気ですっかり温くなった
紅茶を勢いよく飲み干した。

けっ、「親の因果が子に報い」ってか。
あゝ、厭だ、厭だ。

態とらしい態度でそう言ったのは、まだ歳の若いギター弾きだったのだが、此の男も此の男で幼い頃は大層酷い暮らしを強いられていた過去を持つ為、其の「悪態」には矢鱈と実感が籠っていた。

おい、見なよ。
サムの野郎が肩ァ貸してやっているぜ。

せせら嗤いを浮かべたベース弾きの視線の先には、黒人で掃除人のサムが青年の事を迚も憐れみ、日々の労働で鍛え上げられた肩を貸している光景があった。

てめぇの方がよっぽど腹ァ空かせているってぇのに肩ァ貸して其の上飯を振る舞う。
流石は聖書を誦じられるだけのオツムはお持ちの様で。

ベース弾きはそう言ったのち、ギター弾きが差し出した燐寸の火で咥えたパイプに火を点けると、椅子にどかりと腰掛け、おう、何時迄ボケっと突っ立っていやがる、休憩はもう終わりだ、さ、練習、練習、と大きな聲で告げた。
教会の鐘が午前九時になった事を人々に告げる中、其々の家に手に持っていた荷物だなんだを一旦帰宅をした後でサムと青年が立ち寄ったのは店主も含め、亜細亜人が中心となって切り盛りしているレストラン『ブレッド・アンド・バター』で、開店した直後と言う事もあり、何処の席に座る事も自由だったのだが、二人はまるで其処が自分達の巣とでも言いたげに隅の方の席へと腰掛けた。

何にするかい?。

町の眼鏡屋で拵えたと思われる真新しい眼鏡を掛けた銀髪の男がそう聲を掛けると、サムはひと言、何でも構わねぇ、肉料理を食べさせてくれねぇか、と言ってすっかり草臥れた姿の青年の顔をチラリと見遣った。
「事情」を直ぐに察した男が其れを表情に出す事をせず、直ぐにお持ちしましょう、とだけ言って奥へと消えて行くと、青年は大層申し訳ないと言わんばかりに、済まねえな、何時も、とか細げな聲でサムに頭を下げた。
するとサムは、なあに、お前さんの面倒見てやるくれぇの事なら幾らでも、如何にもと照れ臭そうな表情を浮かべつゝ、そろそろ皺が目立ち始めた額をツッと流れ始めた懐から取り出した朱色の布切れで軽く拭き取った。

俺が見ての通りの赤毛で無くって其の上銭に困らねえ生き方を選べていりゃあ、サム、あんたと一緒に娼館にでも繰り込んで日頃の恩返しと行きてぇ所だが、其れが実現している頃にゃあ、お互い幾つの爺様になっている頃やら。

先程の男のウエイターとは又別の若々しさ溢れる男のウエイターが運んで来た水差しを使い、色の付いていないコップにサムが飲む為の水を注ぎ乍ら、ボヤき気味に青年がそう呟くと、なあに大丈夫だよ、日頃黒ん坊だ黒ん坊だと人から言われている俺がこんなにケロッとしたツラで表を歩けているンだ、赤毛だろうが何だろうが気にするこたァねぇ、第一
仮に何にも色が付いちゃいねぇとなりゃ、此のコップとコップの水同様、透明過ぎて味気がねェや、と言った具合に、まるで教会の神父さまが迷える子羊に語り掛ける様に青年の事を励ました。
レストランの利用客が自分達以外に居ないが為に、コップに注ぐ水の音すら矢鱈と鮮明に響いて来る中、其の両耳〈りょうじ〉をサムの「語り」に傾けていた青年は、そう言って俺の事を励ましてくれる辺り、やっぱりあんたは良い人だ、恩に着るぜ、と言ってから辛抱堪らんと言わんばかりにコップの水をがぶ飲みした。
作りたての料理が二人の居るテーブルの所へと運ばれて来たのは其れと粗同時の事で、其れは牛飼い達が「安価で其の上栄養価もお高めである」と言う理由から良く注文をしているビーフシチューと麵麭、そしてベーコンハムエッグだった。

コックの野郎が言っていたぜ。
九死に一生を得た犬っころみてェにガツガツ喰うのも結構だが、偶にゃあしっかりと味わった上で腹ン中に入れてくれだとよ。

大柄でスキンヘッド、其の上鼻の下に髭を生やした此の男は、今から凡そ十年前に突如として勃発した革命の煽りを受け、官吏の職はおろか、故郷其の物を捨てざるを得なかった立場の人間で、ほんの些細な言葉にも妙な重みがあった。

分かったよ。
今日位は御行儀良く食べる事にするよ。

テーブルの上にそっと置かれたビーフシチューの香りに自身の鼻腔を擽られる中、何時もの聲の調子を取り戻した青年は、そんな風な返事をしたのち、常日頃ぶら下げている十字架を一旦首から取り外すなり、其れを日頃の肉体労働ですっかりゴツゴツしたカタチになった両手でぎゅっと握り締め、サム、御祈りの言葉を頼むよ、とサムに告げた。
其れを聴いたサムはひと言、あいよ、と呟いてから食事の前の御祈りの言葉を其れは其れは神妙な顔つきと聲色で誦じ始めた。
そして御祈りの言葉を述べ終えるや否や、ポケットの中から金貨を一枚取り出し、ほんのはしたカネだが、何かの御役に立ててくんねェ、と男に手渡した。
男は其の金貨を両手で受け取るなり、仲間に酒でも振る舞うよ、有難う、と言って深々と頭を下げて其の場を立ち去った。

サム、あんたの慾の無さときちゃ、筋金入りだね。
あんたさっき金貨一枚取り出して、「はしたカネ」だと言いなすったが、此の界隈で金貨一枚とくりゃあ、酒を呑むどころか、果物だってナンだって注文し放題だぜ。

聲のする方に二人して其の視線を勢いよく向けると、庭師のヘイウッドが咥え紫煙で椅子にどっしりと腰掛けていた。

強がりに聴こえちまったら申し訳ねェが、俺みてェなのが金貨一枚持っていてもそりゃあ唯の「死に金」だ、だったら「生き金」に変えてくれそうなお方に手渡すのが此の際筋だと思った。
ただ其れだけの事よ。

生憎と俺の親類縁者にゃ、商賣人はおろか銀行家も居やがりゃしねェでカネの生き死にに関しちゃまるっきり判りゃあしねェが、まあ
きっと良いコトがあるに違いねェとだけは言っとくぜ。

あゝ、お前さんにも良いコトがあると良いと思っておくよ。

妙な言い回しの「ご神託」を受け取ったサムと青年は、先程自分達で誓いを立てた様にガツガツと食事はせず、淡々と食事を始めた。
彼等二人が此の様な雰囲気の中食事をしたのは、其れこそ一年前の秋、教会に名のある宗教家の方が講演をしにやって来た際、参加者全員に振る舞われた麵麭とスープ、でもってステーキを食べた時以来だった。
席が順々に埋まっていく中、頃合いを見計らったかの様に店で働く者の中で一番年嵩〈としかさ〉の男がラジオのスイッチを捻った。
別にラジオのスイッチを捻る役は此の男だろうと誰だろうと一向に構わないのであるけれども、「下手に触りでもして、お高いモノを壊しちゃナンねぇ」と言う理由から他の者がラジオに指一本触れようとしないが為、此処へ流れ着く迄は、嘗ては大企業が経営をさる巨大な工場でラジオだ蓄音機だをせっせと組み立てていた男がラジオの手入れをする事も含め、一任されているのだった。
真夏日の陽光が燦々と降り注ぎ、蝉の鳴き聲と共に蒸し暑い風が通りを音立てて吹き抜けて行く中、ラジオのスピーカーからは淡々とかのウィリアム・シェイクスピアが手掛けた詩集『ソネット集』を朗読する男性アナウンサーの聲が流れていたが、其れに耳を傾けているのは精々ラジオのスピーカーから近い距離にあるカウンター席に腰掛けている人間たちだけで、其れが証拠に彼等は日頃から身なりをキチンと整えており、レストランで食事を「嗜む」事に代表される様なちょっとした外出の際にも必ず外出用の服装と靴を纏っていた。
でもって彼等が他の席の客と違うのは、単に読み書き計算をすらすらとこなす能力を持っているだけでなく、藝術を学ぶ為の時間を設けられる「余裕さ」を持ち合わせている点であった。
青年とサムは時折彼等から書籍をタダで譲って貰ったり、或いは世間様の事、即ち鉄道の線路の向こう側、道路の果ての大きな街の事も含めた「外の世界」の事、はたまた世の中と言う名の大海をしっかりと力強く泳ぎ切る為に必要な知識を「家の手伝いをする」事を条件に教授をして貰っている手前、レストランを出て行く前に彼等に挨拶の言葉を述べないと言う不人情な真似はせず、こんちは良いお天気で、とさり気なく挨拶の言葉をカウンター席の紳士達に向けて述べた。

やあ、誰かと思えばお前さん達かい。
此処ン所連日カンカン照りで大変だろう。
若し何か困った事があれば何時でもお家においで。
お前さん達も良く知っている通り、此のカウンター席に腰掛けている者達は、皆んなお前さん達の世話になりっ放しだ、其の御恩返しをさせていただく積もりで幾らでもチカラになるよ。

カウンター席の客達を代表し、青年とサムに恭しく挨拶の言葉を述べたのは、新聞社の経営者であると同時に町一番の牧場主でもあるヘンリー卿で、彼は歴とした貴族階級の出身であり乍ら、青年とサムの様な世間様で申し上げる所の「身分卑き」立場の者にも分け隔て無く接する事から、政治を「齧っている」者達の間では真のリベラリストであると尊崇の念を抱かれもしている大人物であった。

いえいえ。
此方こそ仕事の斡旋は勿論、色々と御恵みをくださいまして、誠に有難う御座います。
近いうちに又御屋敷にお伺いをして、改めて日頃の御礼を述べさせていただこうと思います次第です。

見ての通りのかんかん照りだ、身体には気を付けるんだぞ。

ヘンリー卿はそう言ってさり気なく二人の為の「小遣い銭」を手渡すと、従者で用心棒のジャクソンと共に態々二人を外迄見送ってくれた。

そろそろ新しい服が必要だな、旦那方。

事件現場へとやって来たシャーロック・ホームズよろしく、両の眼〈まなこ〉をしっかりと見開いた状態で二人の見窄〈すぼ〉らしい身なりを眺め乍らジャクソンがそう聲を掛けると、青年はすかさず、如何にかしてくれるのかい、お前さんが、と返事をした。

サウス・ストリートに新しい服屋が出来たのを知っているだろう?。
其処の我が店主と俺は昔っからのカード仲間でな、此の俺の紹介だと言えばタダ同然で上等な服を仕立てられるぜ。

へぇ、そうかい。
なら、遠慮無しに利用させて貰うさ。
ではヘンリー卿、又何れ。

サムはそう言ってヘンリー卿とジャクソンに別れを告げるなり、青年と共に赤茶けた砂埃がひっきりなしに足元を舞う目抜き通りを駅の方へ向け、のそのそと歩き始めた。
今日は月に一度の蚤の市の日と言う事も相俟ってか、ただでさえ人通りの多い時間帯の通りが人と言う人で溢れかえり、そして甲高い売り聲が其処彼処で響き渡っていた。
こうなると肌の白い黒いは勿論、髪の毛が赤いの赤くないのと言った事は一切関係は無くなって来るモノらしく、所謂生き馬の眼を射抜かんとする強〈したた〉か者達が挙って商賣に精を出しているのだが、腹を満たすだけの余裕こそあれど、蚤の市で買い物をする余裕迄は持ち合わせていない青年とサムは何とかして人混みを掻き分け、漸く駅の近くへと足を運ぶ事が叶った。
別に何か用事があって此の辺りに来ると言う訳では無く、木陰近くに居並ぶベンチに腰掛けて行き交う人々を、或いは汽車が動く様を
眺めていようと言うだけの話なのだが、青年とサムが何時もの場所へやって来ようとした時には先客があった。
先客があるだけなら如何でも良かったのであるが、其の先客とはなう手の博打打ち、即ちギャンブラー達で、連中達を前にして面倒な事を起こし、保安官達の厄介になれば又町の連中の嗤い草になるに違いないと踏んだサムと青年は逃げを打とうとしたのだが、そうは問屋は卸さないと言わんばかりに四人のギャンブラー達が青年とサムの周りをぐるりと囲み始めた。

よう、俺たちの遊び場で遊んでいかねぇか。
なあに、悪い様にはしねぇ。
ちょいとカードで遊ぼうってだけの話さ。

いの一番に口を開いた男の眼は明らかに笑っていなかった。

お聲掛けして貰えるのは有難いが、見ての通りの文無し二人組、況してや勝負運なんざァまるっきり縁がねぇンだ。
勘弁しとくれよ、今日の所は。

額に汗を浮かべてサムが頭を下げると、男の眼の色が一瞬にして変貌し、頼みを断っても結構だが、天下の往来で恥ィ欠かせてくれた事に関しちゃ如何落とし前つけてくれるンだい、えぇ、と凄んだかと思うと、サムの着ていた服の襟首をグイと掴んだ。
男の背丈はサムよりも倍以上の大きさで、如何見たって敵いっこ無い事は誰の眼にも明らかであった。
いかん、此の儘では殴り倒されるか、投げ飛ばされるだけだ。
サムが思わずハッと息を呑むと、途端に一発の銃聲が鳴り響いて、男の身体が大木の様に其の場にぐにゃりと倒れた。
こめかみに一撃。
明らかに腕の立つ人間の仕業だった。
残った面々、そして青年とサムが銃聲の聴こえた方向に視線を向けると、黒色のレンズが嵌め込まれたサングラスを含め、全身真っ暗な格好に身を包んだ男が拳銃片手に砂塵の中から姿を現した。

良い腕前だ。

ギャンブラーの頭目らしき男が聲をそう掛けると、ダチが絡まれてンのを見て、如何しても放っておけなくってな、つい手が出ちまった、申し訳ねェ、と言ってから其の歩みをピタリと止めた。
そして秒数にしてざっと十秒か其処らの沈黙の後、男が今一度拳銃を構えたかと思った其の途端、青年とサムの周りには銃弾に倒れた三人の男達の骸〈むくろ〉が出来上がっていた。

一つ、二つ、三つ。
んでもって四つ、と。

男が死体に近付くなり、死体の勘定をしていると通報を受けたらしい警察車輌と騎馬警官がやって来て、老練な風貌の人物がステッキ片手に男の側へツカツカと近付いて来た。

用事は済んだかね、ガンマンの旦那。

日頃「鬼」と畏れられるゴードン警部が男に聲を掛けると、男は咥え紫煙でひと言、殺し屋呼ばわりたァ驚いたな、此れでも立派な探偵社の人間なンだがよ、と言って、革手袋を装着をしたまゝ、羽織っているスーツの右側の内ポケットに手を突っ込むと、其処から何やら特別な書式の書類を取り出し、其れを警部に差し出した。

日本人の探偵先生がお尋ね者達を追っかけて数十キロの旅か。
而も生死を問わずとある。
御苦労でしたな。

なあに、労われる様な事をした憶えは此れっぱかりも御座いませんや。
ただカネを積まれて頼まれた事を粛々と実行した迄の事でさぁね。

左様ですか。
ではお手間を掛ける様だが、此の二人の若者達と共に署迄御同行願いたい。
形式的とは言え、一応の調書を作成しておきませんと、中々に五月蝿いモノですから。

其れから青年とサム、そして探偵の三人は署へと向かい、凡そ一時間半程の取り調べの後に晴れて自由の身となったのだが、其処で判明したのは四人のギャンブラー達は今を去る事丁度一ヶ月前の晩、さる企業家を相手にカードゲームを通じて強請り行為を働き、ざっと一万ドルにも及ぶ大金を企業家の手から強奪する事に成功をしたものの、名誉を傷付けられたと感じた企業家が人を通じて探偵に接触、探偵は「生死を問わず」と言う言質を得た上で旅から旅への後にギャンブラー達が此の土地に屯ろしている事を聞き付け、結果今日に至る、と言う訳であった。

其れにしても歯応えのねェ連中だったぜ。
もうちっと楽しませてくれると思っていたンだが。

馬車が指定した宿屋迄移動をする中、ハセヤマと名乗る探偵が市場で購入をした檸檬を丸齧りしつゝそうボヤくと、明日にはもうお帰りですか、とサムが檸檬片手に質問をした。

いや、細々とした事が片付いてからだ。
だから三、四日は滞在する予定だぜ。

なら時間がある時で結構なんで、ウチに遊びに来てくだせェ。
隣近所の果樹園から仕入れた、此の檸檬よかもっと美味え檸檬を使ってレモネードを作って差し上げますよ。

おお、こんな田舎でもレモネードが飲めるってか。
そりゃ楽しみだ。
所で此処で知り合ったのも何かの縁、お前さん達の名前を聴いておかなきゃな。

あっしはサム。
皆んなからは黒ん坊だ、黒ん坊だって言われちゃいるが、いつか立派な人間になってみせまさァ。

サムがそう言って啖呵を切ると、ハセヤマはニカっと笑みを浮かべつゝ、はっはっは、随分と大きく出たな、で、其方さんの御名前は何て言うンだね、と質問をした。
青年は檸檬を右手でギュッと握りしめた状態で、俺の名前はケリー、見ての通りの愛蘭系で其の上學がある訳じゃア御座いませんけれども、どうぞ宜しく、と自己紹介をした。

日本人、黒人、愛蘭人。
でもって御者は加奈陀人。
妙な組み合わせだと他人〈ひと〉はせせら嗤うだろうがまぁ気にするこたァねェさ、堂々と振る舞っているうちに誰も何も言わなくなるモンよ。

ハセヤマはケリーとサムに対して「どうにかなるさ」と言わんばかりの態度を示すと、さあさ、喰いねェ、喰いねェ、と言って檸檬を齧る事を勧めた。
ケリーとサムはハセヤマの言葉に甘えるが如く、檸檬を丸齧りした。
当然の如く其の味は酸っぱかったが、此の前途ある青年達に、もうちょっとまともな生き方が出来るかもしれないと言う希望を抱かせるには充分過ぎる味であった。〈終〉

檸檬、ひと齧り。

檸檬、ひと齧り。

青春の味は檸檬の如く酸っぱく、そして何処と無く味わい深い。荒野に生きる者達の姿を描写した私なりの時代小説。※本作品は『ブラックスター -Theater Starless-』の二次創作物になります。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-19

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work