マスクとウイルス

マスクとウイルス

未来ファンタジー指小説

 五年ぶりにマスクをとった。口の周りが何か物足りない感じだ。
 新コロナウイルスは世界的な恐慌と団結をひきおこした。観光のための行き来がなくなり、飛行機の添乗員がほかの企業に手伝いに行ったりしていた大変な時だった。
 マスクがとてつもなく進化した。ガーゼのマスクが好きだったのに、ガーゼじゃ新コロナウイルスは通っちゃうよと、新しい紙でできたマスクがつくられ、さらに、毎日使うものとして、綺麗な色のマスクや、マスクにきれいな模様がついた。十枚で千円のマスクが、一枚一万円もする、ファッショナブルというか、あほらしいものも現れた。
 新コロナウイルスは、一年たってもおとなしくならず、ウイルスがどんどん自分自身を変化させて、人間の中にはいってきて自分を増やしていく。人の体で、また新しいタイプのウイルスに変化してとびだす。元気だ。進取の精神いっぱいだ。どこかの大学のうたい文句そのもの。
 医薬品会社はその抗体をつくる。追いかけっこで、逆に医薬品会社は大もうけだ。
 新コロナウイルスにとって人間は自分を増やすために絶対に必要な生き物だ。だから、人間にすべてを防ぐことは無理だと悟らせ、ちょっとなら入ってきても仕方ないと思わせなければならない。
 だから、少しずつ変化して、人間の抗体作成能力をかいくぐって、自分たちを増やしていく。
 そのうち、人間も程々にかかってしまうのは仕方がないと思うようになるだろう。
 それこそが、新コロナウイルスにとって、共存の道なのである。そしてそうなりつつある。
 新コロナウイルスにとって、インフルエンザウイルスが大先輩で、尊敬してみならっているのだという。
 それを見ていたマスクは、新コロナウイルスに、いや、あんたたちのおかげで、ほら、我々もカラフルになり、人間の経済社会の中で、表に出てくることができたよ、と声をかけた。
 俺たちが通りにくくなったマスクさんかい、いやおたくたちが進化してくれたおかげで、人間と共存ができるようになったんだよ。いくらあんたらががんばっても、俺たちがすべて通れなくなったわけじゃないからね、程々に通り抜けて、人間の肺の中にはいって、人間に熱を出させないほどに増えていけるのだからね。俺たちにはちょうどいい。いや頼りになる友人だよ。
 マスクもファッションの一部になって、マスクがいらないときでもマスクをして楽しんでいる人間がいるんだから進化が早くてね、僕のようにただの白い紙マスクは、一般大衆マスクだよ。生まれたときには0。5ミクロンを通過しないマスクだと威張れたのだが、今はもっといいのが出てきて、過去の人扱いだよ。
 新種のマスクになっているんだね、お互いさまだよ、俺たち最初の新コロナはもう消滅することになるんだ。コロナじゃない別の奴が現れるかもしれないしな。
 マスクさんよ、どうだい、人間のからだを変えちまう気はないかい。
 なにする気かね。
 ウイルスに働きかけて、一斉に人間の体の中にはいるのさ、俺たちコロナは肺や呼吸器の構造を変化させ、C型ウイルスは肝臓の形を変えて、水疱瘡ウイルス、すなわち、帯状疱疹ウイルスは脳と神経系、それに感覚器系を変化させ、HIV、エイズウイルスは生殖器を変えて、ノロウイルスは消化器系を変えて、ヘルペスウイルスは皮膚の状態を変えて、と言う筋書きはどうだろう。
 ふーん、ウイルスってのはすごい能力をもっているんだね、それで我々マスク族は、そういったウイルスを通しやすくしてやればいいわけだ。
 察しがいいね、マスクさんよ、そのとおり、
 だがさ、筋肉はどのウイルスがやるかね、
 ああ、そうだな、エンテロウイルスなどもいるが、我々、新コロナも運動神経をいじくれるから、我々が変化させるさ。
 新コロナさんはたいしたものだねえ、そいじゃ我々マスクはすべてのウイルスがきたら、通過しやすいように目を広げてやればいいんだな。
 あ、そうじゃないよ、今言ったウイルスだけでいい。中には人間がよくなるように働いちまうウイルスもいるんでね、全部入れちゃだめだよ。
 あい、わかった。
 ということで、全世界のマスクは、それらのウイルスがきたら、目をひろげて、人間の口や鼻に入りやすくしてやった。
 それらのウイルスたちは、人間を殺さないように、徐々に、呼吸器系、消化器系、生殖器系、皮膚筋肉、感覚器系、そして、神経系のすべてを掌中におさめ、変化させていったのである。
 2888年、マスクが特に好きで、よく使う日本人の体に変化が起きた。呼吸の仕組みが変化して、皮膚呼吸になり、また排出機能をもった。皮膚に血管が集まり赤くなった。鼻は呼吸に関係がなくなり、匂いに対する感覚器として独立した。口は食べることにのみ特化した。肺は排出と声を出すためのフイゴウとしての役割になった。消化器系は食べたものを、ガス状態に変化させ、ガスは血液に混じり、無臭になって皮膚から排出された。
 感覚器の感度が増幅され、神経の伝達速度は速くなり、小脳が大きく変化して運動能力があがり、前頭葉が独立して、前頭脳になって、未来の予測能力がつよくなった。透視能力が増大もした。すなわち日本人は勘がよくなった。神経細胞そのものも能力が倍増し、記憶の出し入れの迅速さと、記憶の量が今までの十倍ほどになった。
 生殖能力は男女がなくなり、生殖器が統一され、その中で、精子と卵子がつくられ、男女とも子宮が存在し、そこで子供を育てた。外性器は両性具有として残り、快楽の道具となった。誰の乳からも豊富なミルクがでて、子供を育てるだけではなく、牛乳の変わりとして利用するようになった。
 筋肉は誰もが昔の人の倍ほどの能力を備えた。外形としては筋肉の増大はみられなかったが、筋細胞の収縮能力があがっていたのである。
 日本人は黄色人種と過去には言われたていたが、今、赤色人種になったのである。
 それは、マスクが進化し、マスクにより選別されたウイルスが人間の体内にはいり進化したことにより生じたものであった。
 新人類、真っ赤な日本人が、マスクをはずして、こんにちわとテレビで挨拶している。

マスクとウイルス

マスクとウイルス

マスクとウイルスが話をしている。地球の未来をどうするのか。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-17

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