還暦夫婦のバイクライフ 41

ジニー&リン 初乗りに行く

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を過ぎた夫婦である。
 今回の正月休みは9連休だ。片付けを済ませ、新年の用意を済ませ、無事に年越しを終えたジニーとリンだが、家にこもりっぱなしでいささか飽きてしまった。
「リンさん、明日久しぶりにバイク動かさないか?」
「良いけど、どこ行くん?」
「寒いし近場で。そうだなあ、八幡浜のみなっとでも行ってみるか」
「ん~。かまんけど天気はどうなん?」
「晴れるみたい」
「そう。何時に出る?」
「そうだなあ。10時くらいか」
「わかった。じゃあその予定で」
ということで、明日3日は、八幡浜に行くこととなった。
 1月3日、ジニーは朝からバタバタと動き回っていた。朝食を作り、洗濯物を干し、片付けをする。9時過ぎにリンが起きてきた。
「お早う。寒そう?」
「寒いよ。雲が多くて日が陰ってるしね。でも雨は降らないと思う」
「ふ~ん。ところで前に乗ったのって、いつだった?」
「バイク屋さんツーリングで、11月24日に早明浦に行って以来かな」
「12月まるまる乗らなかったんだ」
「天気悪かったり、用事が有ったりしたからなあ。バッテリー上がってないよな」
「それは知らん」
「リンさんご飯は?」
「朝はいらない」
「じゃあ、準備しますか」
二人は準備を始める。車庫からバイクを引っ張り出し、バッグを固定する。
「冬用のウェアは重いなあ」
上から下まで防寒対策をしているジニーは、息をついた。
「しかも汗かいてきた。これ、走り出すと冷えるんじゃなかろうか」
「大丈夫だと思うよ。風は入ってこないし。ところでジニー、ガソリン入れないとタンクすっからかんだよ」
「うん。スタンド寄っていくよ」
「忘れ物するなよ~」
「しませんって!」
前に鞄を忘れて取りに帰ったのを、リンにつつかれる。
「じゃあ、出ますよ」
10時30分、二人は家を出発した。
 いつものスタンドで給油して、古川方面に向かう。R56を走ると、正月3ヶ日のエミフル大渋滞に捕まるのが予想されるため、裏から行くことにしたのだ。はなみずき通りを南下して、外環状線の高架の下を右折し、松山伊予線との交差点を左折する。重信川を渡ってさらに南下して、県道23号線との交差点を右折する。少し走って安売りスタンドがあるT字の交差点を左折し、しばらく道なりに走る。正一位伊予稲荷神社の参道へ左折してさらに裏道を抜ける。やがて現れた向井原交差点を直進してR56を横断し、R378へ乗る。三秋の低い峠を越えると、眼前に伊予灘が広がる。
「リンさん、風は強いけど、まだ兎は走ってないな」
「そうねえ。これなら潮被ることも無さそうね」
「油断はならんけど」
「あ!ジニー今気づいたんだけど、私ヘルメットのあごひも締めてないや」
「え~。道の駅がすぐそこだから、止まろう」
「うん。空いてるかな?」
「どうだろうね」
二人はすぐ先にある道の駅ふたみの駐車場にバイクを乗り入れた。駐輪場にバイクを止める。
「リンさん今日はバイクが少ない。5台くらいしかいないや」
「冬だからね。でも走っていたら結構すれ違ったよ」
「ふーん。こんな寒い冬にバイクで走るなんて、病気だな」
「それは私たちも病気ってことかな?」
「ん~まあね」
ジニーは否定しない。どちらかというと、リンの方が重症だと思っている。12月にバイクに乗らなくてよく我慢できたものだ。少々ストレスをため込んで不機嫌ではあったが。
「リンさん、せっかくだから見て回ろう」
「うん」
二人は道の駅を見て回る。お土産や物販の地元商品を見たり、外に出て海を眺めたりした。
「ジニー、冬の海は寒そう。そろそろ行こうか」
「ああ」
二人はバイクに戻り、出発準備を整えた。
「あごひも締めた?」
「締めました」
「では、行きますよ」
 道の駅ふたみを出発して、R378を長浜方面に走る。途中左手にある下灘駅を、走りながら見上げる。
「今日は人がいないなあ」
「何人か居たよ」
ちらっとしか見えなかったが、リンは何人か居たのが見えたようだ。長浜町内を抜け、高校水族館で有名な長浜高校の前を通過し、肱川に架かる新長浜大橋を渡る。左手に、化粧直しが終わりきれいな赤色に塗装された可動鉄橋が見える。道は海岸線沿いに走り、遠方には伊方原発が見える。やがて長い瞽女トンネルを抜けると保内町に出る。その先でR378はR197とT字で合流する。その交差点を左折して、すぐ先にある県道249号へと右折する。あわしま堂の工場を回りこみ、トンネルを抜けると八幡浜だ。港をぐるりと周遊して道の駅八幡浜みなっとに到着した。
「リンさん着いた。思ったより混んでないよ」
「あ、どーや市場お休みだ。あー残念、食堂も閉まってる。朝食抜いてきたのに、海鮮丼食べれないじゃない!」
「港のそばの食堂は?」
「あそこも閉まってた」
「じゃあ、とりあえずフードコート行ってみようか」
二人は駐輪場にバイクを止め、道の駅の施設に向かった。中は大勢の人でごった返していて、フードコートも隣接する食堂も満席だった。しばらく様子を見ていたがどうにもならない。
「ジニーこりゃだめだ。家に帰ってご飯食べよう。大洲から高速乗るか」
「それでもかまんよ」
「あ~でも待って。私のバイク、ETCカード期限切れてなかったっけ?新しいカードジニーに渡したよねえ。入れ替えた?」
「いや?記憶に無いけど」
ジニーはリンのバイクのシートを外してETCを引っ張り出し、カードを確認する。
「あ、期限切れだ」
「あ~使えんか~。じゃあ、新しいカードは一体どこ?」
リンはしばらく考えていたが、分からないようだ。
「いいや!下道帰ろう」
「じゃあ、大瀬廻りで帰ろうか」
「大瀬?・・まあいいけど」
二人はさっさと準備を済ませ、道の駅を出発した。八幡浜I.Cから大洲・八幡浜自動車道に乗る。大洲方面に向けて走り、八幡浜東I・Cで降りる。その先はまだ道が出来ていない。ひと区間だが市内の混雑を回避できて、使い勝手がいい。R197に降りて夜昼トンネルを抜けて大洲市に入る。途中県道259号に乗り換え、県道234号、県道43号と乗り継いで、八幡神社の下を走り五郎大橋を渡り、その先を左折、さらにその先を右折する。予讃線踏切を渡って県道232号から矢落川手前を左折し、道なりに走る。新谷町内で県道230号に乗り換え、帝京第五高校の正門前を通過してその先でR56に出る。峠を越えて内子町に入り、その先でR379に乗り換える。道の駅内子フレッシュパークからりを右手に見ながら通りすぎる。
「リンさん、からりお休みだった」
「さすが3ヶ日はお休みか。というか、寒い。手がじんじんしてきた」
「言われてみれば、僕も手が冷たくなってきた」
「ジニー今日はR56を行くべきだったね。大瀬廻りじゃ寒くてやっとれんよ」
「うん、まあ・・・」
ジニーはリンに指摘されて、少ししょぼくれる。
 R379をひたすら走り、広田町を抜けて上尾峠の三連トンネルを通り、道は下りになる。前を軽自動車が走っているが、お急ぎなのか追いつくこともない。快適に走って砥部町まで降りる。そこでR33と合流して、砥部町内を抜けて重信川を渡る。
「ふ~暖かくなってきた。重信川を渡ると、ホント気温が上がるなあ」
「うん。松山は暖かいよねえ」
あまり混んでいないR33を天山交差点まで走り、バイパスに乗り換えて市内を走り、家に到着する。
「おつかれ。何時だ?」
「14時30分。はらへった~」
二人はバイクを車庫に片付けて、家に入る。重い冬装備を脱いで、着替える。ジニーはカップ麺を二つ取り出した。
「食べる?」
「食べる~」
ジニーは湯を沸かし、カップに注ぐ。しばらく待って出来上がった麺を、ふーふー言いながら食べる。
「おいしー」
「うん」
海鮮丼にありつけなったが、カップ麺を食べるリンは、幸せそうだ。
「あ、そういえば」
リンが、家に置いてある財布の中をごそごそと探る。
「あったー。新しいETCカード。ごめんジニーよろしく」
そう言って、リンはジニーにカードを手渡した。ジニーは無言で受け取り、早速外に出て行った。

還暦夫婦のバイクライフ 41

還暦夫婦のバイクライフ 41

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-12

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