『ひよこ。』

ひよこがいちわ、いるのです。
うまれたばかりのひよこはおとうさんにだいじにそだてられます。
おとうさんはえがおでひよこにふれます。
ひよこのやさしいひとみにおとうさんはうれしそうです。


ひよこはやがておとなになり、めんどりになりました。
おとうさんが、そうのぞむのでめんどりはまあるいたまごをうみます。
つぎつぎおとうさんがのぞむままに。
ただめんどりはたまごをうむたびにだんだんとつかれてゆきました。


たまごはめんどりにとってたましいです。
たましいをくるしいおもいをしてうんでいるのです。
それでもおとうさんがうれしそうにわらってくれるのでめんどりはいっしょうけんめいになりました。


あるひおとうさんがめんどりのすむこべやにやってきました。
おとうさんはめんどりのかぼそいりょうあしを、もげるほどつよくかたてでつかみました。
めんどりはびっくりしてさかさまになりながらおとうさんをみあげました。
おとうさんのまなざしはとてもひえたひかりをたたえていました。
めんどりはおもいだそうとしました。
おとうさんがたのしそうにふわふわのはねにふれたこと。
くちばしをやわらかくなでたこと。


ただ、そのあたたかいこうけいはおとうさんのいまのめにはいっさいありませんでした。


めんどりはおとうさんにいたいほどあしをつかまれながらくらいおおきなはこに、ほかのにわとりといっしょにどんとおしこまれます。
まっくらなせまいやみのなか、めんどりは、なかまのけたたましいさけびと、がたごとというじゃりみちをくるまがはしるおとをただおびえながらきいていました。


ようやくめんどりのひとみにひのひかりがあたったときのことです。
まぶしげにほそめためんどりのめに、おとうさんのすがたがやっとほそく、みえたのです。


おとうさんはめんどりがひよこのころ、よくみたえがおでめんどりをみていました。
めんどりがなにかおもうじかんもなくおとうさんは、おおきなはこいっぱいのめんどりたちをもうひとりのおとこにてわたしました。


めんどりはきがつきました。
おとうさんのめをみました。
おとうさんはめんどりからめをそらしません。
やっぱりひよこのときの、えがおです。
いとおしそうなひょうじょうです。


めんどりのからだはつかれきり、たましいはもうありません。
めんどりのおもいではおとうさんとなかまのひびだけ。


つかれきったなかまにまみれ、めんどりはきばこのすきまからおとうさんをみとどけました。
おとうさんはめんどりたちをいつまでもみおくっていました。


やさしいひとみとたのしそうでもすこしかなしげなめは、なにもいわずただだまっておわりのゆめをみました。


おなじおわりのゆめを。

『ひよこ。』

せかいにはいろいろなおとながすでにそんざいしています。

そのおとなのなかに、じぶんのこどもをそだてるようにしながらどうじにとてもごうりてきにいのちそのものをうばえるおとながたしかにいます。

わたしはそのようなおとなを、はんだんはしません。
ただ、そんざいをちゃんとかんじてしりました。

このものがたりはきびしいせかいをいまいきている、しあわせでも、つらくても、ごうりてきではないこどもたちへむけてかきました。

おとなにはいろいろなひとがいます。
あなたのそのつらさのおおくは、あなたのせいではありません。

あなたのしあわせは、あなたがかんじてよいものです。

それをおとなはいそがしさのなかわすれがちですが、あなたはそのまなざしでそのようなおとなをいぬいて、いまをこえていってください。

『ひよこ。』

おとなとこども。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-06

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