zoku勇者 ドラクエⅨ編 28
悲しきリブドール3
……次の日。ジャミルとアルベルトは再びマキナの乳母の所在を求め、
町中を歩き回っていた。……夜中にアイシャが盗賊達に捕らわれて
しまった事実を知る由も無く……。
「……はあ、何か頭痛えなあ、どうしたんだか……」
「どうしたんだい、ジャミル、しっかりしてくれよ、……君まで
倒れたら……」
「……だ、大丈夫だっての、軽い頭痛だから……」
ジャミルは自分を心配そうに見つめるアルベルトから目を反らし
早足になる。この時、うっすらと悪寒を感じていたのである。
……又アイシャに何か良くない事が起きたのでは無いかと……。
「ん?港か……、気がつかねえ内に……」
「船だ……、凄く大きな船だね……」
歩き回っている内にいつの間にか二人は港まで来ていた。停泊している
立派な大きな船。この船がマキナの屋敷で管理している物なのだろう。
「ほほう、お前さん達、この船に興味があるのかい?どうだい、立派な
船じゃろうて……、この船はかつて沢山の荒波を乗り越えた船じゃよ……」
「あ、ああ、こんちは……」
「どうも……」
港にて船を見つめていた老人がいた。どうやらこの船の元船番らしかった。
「儂もかつては高台にあるお屋敷に船番として雇われておった、この船は
お屋敷のかつての大商人であった旦那様が所有していた船じゃ、だが、
旦那様も奥様もお二人とも亡くなられてのう、もうこの船を動かす者は
誰もおらぬ、……今この船の所有者は一人娘のマキナさんになっておるよ」
「うん、その話を聞いてこの町に来たんだ、俺ら船をどうしても譲って
貰えないかと思って……」
「なんと……、そうじゃったか、ならばお嬢さんと交渉してみると良い、
お嬢さんは優しいお方だよ、快く船を譲ってくれるよ」
(……優しいねえ……、何処がだよ……)
「……オ、オホン!」
変顔になり考え込んでしまったジャミルを慌ててアルベルトが突いた。
「ええ、僕達、一度その事でお屋敷に足を運んだんですが、お嬢さんを
怒らせてしまって……」
「何と……」
二人は交渉に失敗し、マキナを激怒させてしまった事、マキナと何とか
話をして貰えるかも知れない元乳母の自宅を探している事を老人に伝えた。
「そうか、儂も屋敷を辞めてから余り詳しい事は分からんが、近年の
お嬢さんの豹変ぷりは何となく耳にしておるよ、だがの、これだけは
言っておくよ、マキナお嬢さんは本当に心の優しいお方じゃよ、儂は
信じておるよ、きっと、旦那様達が亡くなられてから、お嬢様もお辛いん
じゃろうて……」
「そう……、ですね、そうかも知れませんね……」
アルベルトの言葉に老人も暫く黙り込む。だが、直ぐに又話を始めた。
「お嬢様の元婆やさんなら、お屋敷からさほど遠くない場所に住んでいる
筈じゃよ……」
「……」
ジャミルとアルベルトは顔を見合わせる。あれだけ苦労したのに、目指す
場所はさほど難しくなかったと言う事実。だが、昨日もモンが倒れるわで、
ジャミル達は相当バタバタしており、碌に頭も回らなかった……。
「爺さん、有り難う、俺らもう一度屋敷近辺で聞いてみるよ……」
「ああ、お嬢さんを宜しく、どうか仲良くしてやっておくれ……」
ジャミルとアルベルトは町の者から良く話を聞き、漸くマキナの
元乳母の自宅へ……。
「此処だ、間違いねえな、あの、すいませーんっ!」
「はあ~い、……おや……」
「あの、あんたがマキナ穣さんの元乳母をしてたって言う
婆さんかい……?」
ジャミルが玄関で声を掛けると、タマネギヘアの老婆がのそのそと
出て来た。
「はい、いかにも……、私は確かに昔、お屋敷でマキナお嬢様のお世話を
しておりました元乳母ですが……」
「……僕達、実は……、マキナさんを怒らせてしまったんです……」
二人は屋敷での件を元乳母に話す。元乳母はかなり驚いていた
様であるが……。
「ええっ?お嬢様が……、お部屋にお引き籠もりになられてしまったと……、
それは心配だわ……、ですが……」
「何とか頼めないかな、婆さんなら穣さんと話をして貰えるかもって
聞いたんだ……」
「お嬢様はご病気が治った後、別人の様に気難しくなられてしまって……、
屋敷の使用人達とも碌に口もきかない有様になってしまいました、
此処に来て初めてのあなた方と打ち解けないのも無理がないでしょう、
私でも多分無理だと思いますわ……」
「だ、駄目か……」
「……」
二人は肩を落としかける。折角此処まで来たのに……。やはり後は
アイシャに全て任せるしかないのだろうかと……。だが、その肝心の
彼女も今……。その事実をジャミルもアルベルトも今は知らず……。
「ですが、たった1人だけ……、お嬢様が心を開いている方が
いらっしゃいます、教会の隣に住んでおられるからくり職人の
お爺さんです、あの方がマキナお嬢様に作ってプレゼントした
お人形をマキナお嬢様はとても喜び、大切にしておられました、
その職人のお爺さんなら、きっとお嬢様も必ず会って下さる筈です……」
「ジャミル、今度はそっちだ!すぐ行こう!」
「分かったよ、けど、何かたらい回しだなあ~……」
二人は元乳母にお礼を言い、今度は教会の方へと慌ててヒーコラ
すっ飛んで行った……。
「いらっしゃい、お客さんかね?儂はかつてこの工房でからくり職人と
して仕事を熟していた、だが、儂は今、肝心の前仕事の方は辞めて
しまったのだよ……、歳も歳だしな……」
「あ、父の方は営業はしておりませんが、僕の方の商品なら、どうぞ
見ていって下さい……」
家の中に入ると、親子が二人。からくり職人の爺さんはもう仕事は
していないらしかったが、息子の方は防具職人らしく、足などを
保護する防具品を取り扱っていた。
「……頭……、老後の、ミ、ミスターサタン……、あいてっ!?」
「ジャミルっ!……え、えーと、僕達、お聞きしたい事がありまして、
その、マキナさんの事についてでして……、あなたは昔、マキナさんに
人形を作ってプレゼントしたと聞きましたが……」
また暴言を垂れそうになるジャミルの脇腹をアルベルトが抓る。
アルベルトからマキナ……、と、聞き、爺さんは最初きょとんと
していたが、直ぐに我に返る。
「ああ、確かに儂が昔お嬢さんに人形を作ってプレゼントしたが……、
何故旅人のお前さん達がその話を……?」
「俺達、マキナ穣さんの乳母さんから聞いたんだよ……」
「そうか、乳母殿が……、それにしても懐かしい話だ、だがまた、
どうしてその話が出てくるんだね?」
「……実はさあ~……」
二人はこの爺さんにもマキナの件を聞いて貰う。自分達の所為でマキナが屋敷に
引き籠もりに走ってしまった事を……。
「そうか、お嬢さんがヘソを曲げて……、それは心配じゃのう……、
じゃが旅の方、あなた方は気にする必要は無いよ、何せ事情を
知らなかったのだからな、どれ、儂が行ってお嬢さんと話を
してみよう、……お嬢さんは偉く儂の事を気にいってくれて
おってな、使用人達を屋敷から追い出した後も、儂だけは
お屋敷に招いてくれたり、自分から出向いて工房に尋ねに
会いに来てくれたんじゃよ……、どら、行こう……」
「ジャミル、良かったね!これでやっと……」
「ああ、大丈夫みたいだな!」
ジャミル達は動いてくれたからくり職人の爺さんを筆頭に本来なら
まだアイシャもいる筈の屋敷へと足を運ぶ。これでマキナとも
ちゃんと話し合えると思っていた……。だが……。屋敷でジャミル達は
大変な真相とマキナとアイシャの危機を漸く知る事になるのである……。
「……」
「ジャミル、どうしたの、早くお屋敷に入ろうよ……」
「ん?あ、ああ、悪い……」
屋敷の門を目の前にして何故かジャミルの足が噤んだ。……何か大変な事が
待ち構えて入る様な……、朝から突然起きている頭痛といい、再び屋敷に
訪れた途端、急に嫌な不安がジャミルを襲う……。だが、それでも
立ち止まってはいられず。ジャミルとアルベルトはからくり職人の
爺さんの後に続き、屋敷の中へと……。
「御免下さい、お嬢さん、マキナさんや!からくり工房の爺ですぞ、
……お邪魔しますよ、マキナさーん!!」
爺さんが玄関先で大声を張り上げるが、返事があらず。誰も出て
来ないのである。屋敷には確かにアイシャがいる筈。呼べば元気な
彼女が一番最初に反応して出迎えてくれる筈。だが、屋敷内には
爺さんの声が響き渡るのみで、何も反応が無かった……。
「お嬢さんは確か、この応接間の奥の部屋じゃったかの、だが、両方とも
扉が開けっぱなしになっておるのう……」
「……」
ジャミルの頭痛が益々酷さを増す。応接間をくぐり、先頭の爺さんは奥の
マキナの部屋へと……。応接間のテーブルの上に手紙が置いてあるのを
ジャミルは見つけてしまうのである。角カブト男が書いた手紙を
ジョーカー男が去り際に置いて行った物。頭痛と嫌な予感は益々酷くなる。
ジャミルは気持ちを落ち着けテーブルの上の手紙を取る。数秒後、それは
手紙では無く、脅迫状だと言う事実が直ぐに判明する……。
(こんなの俺らしくねえだろ、……落ち着け、落ち着けよ、俺……)
「……」
「ジャミル、一体どうしたの、その手紙に何が……」
「アル……、最悪だ、見て見ろこれ……」
「え、ええ!?」
ジャミルは顔面蒼白で手紙をアルベルトにも渡す。其処にマキナの部屋に
入った爺さんも応接間の方に戻って来た……。
「一体どうした事か……、応接間、お部屋の扉は開けっぱなし、お屋敷の
門も開いたままじゃ、儂の作った人形もお嬢さんも姿が見えぬ、これは本当に
一体どうした事か……」
「……爺さん……」
「ぼ、坊や達、一体どうしたんじゃ……?」
「これ、見てくれ……、マキナ穣さんとウチのアイシャが……、
Wで誘拐されちまった……」
「……な、何とっ!?」
※ マキナお嬢さんとついでにメイドのお嬢ちゃんは預かった。返して
欲しくば、とにかく大量の身代金を用意しろ、金額は幾らでもいい、
金額によって高額なら高額な程、お嬢さん達をすぐ返してやる、
だが、早く行動しないと……、二人の命はないと思え……。
マキナお嬢さんは天然だ、本当に事が済みやすかったよ。じゃあな、
北の洞窟で待ってるぜ……。
「……何て事だ……、アイシャが……」
「……畜生っ!ふざけやがってっ!!」
ジャミルは悔しげに応接間の椅子を蹴り飛ばした。賊共の卑怯な手口に
相当頭にもきていた……。
「……た、たたたた!大変じゃあーーっ!!マキナお嬢さんが
誘拐されてしもうたーーっ!!……ああああーーっ!!は、早く、
み、みんなに知らせなくてはーーっ!!」
爺さんは発狂しながら脅迫状を持って外に飛び出していった。
屋敷内に残されたジャミルとアルベルトは又起きたアイシャ
誘拐のショックにより、暫くその場に固まり騒然としていた……。
「ちょっとっ!アンタら何ぼーっとしてんのっ!アイシャが
連れていかれちゃったんだよ!?これってチョー大変じゃん!!」
「……サンディ、分かってんだよ、けど……」
妖精モードのサンディも思わず飛び出す。だが、奴らは身代金を
要求している。雑魚盗賊なんざシメるのは容易ではあるが、慎重に
行動しなければ、いきなり手ぶらで行ったらそれこそ二人に何を
するか分からない危険な状況も充分考えられた……。
「……まいったなあ、確かマキナの親はもういない筈だし……」
「僕らの今の手持ちゴールド合せても……、恐らく満足しないだろうね……」
何とかこのまま洞窟へ強行突破するか……、それとも金を持って
安全に責めるか……、だがジャミル達には大金を用意する余裕など
到底無い……。と、なると、危険だがやはり前者で強行突破する
しか方法は無かった。
「……ん?」
「ジャミル、どうしたの……」
「アンタ、何してんのよっ!!」
ジャミルは何かを感じ、正面を向く。……奥のマキナの部屋から……、
気配を感じ取ったのである。
「向こうから……、誰か俺を呼んでる様な気がするんだ……」
「え、ええ……?」
ジャミルはふらふらとマキナの寝室に入る。アルベルト達も心配して
後を追うが……。
「……」
「マ、マキナ……?何で……」
「あっ!?あの子っ!!」
部屋の中に……、マキナそっくりのあの幽霊の少女が現れた。悲しそうに
ジャミルの方をじっと見ている……。少女はジャミル達を導く様に裏庭へと
続くらしき扉の前に立つと姿をすっと消した。少女の姿が見えているのは
ジャミルとサンディのみであり、アルベルトには当然の如く見えていない……。
「な、何があったんだい?」
「アル、とにかくこの先へ行ってみようや……」
「う、うん……、それと気になったんだけど、このクマのぬいぐるみ……、
足の裏に縫い取りの文字が刻んであるんだ……」
ジャミルはアルベルトから古びたクマのぬいぐるみを受け取り確認。
刻まれた文字にはこう書かれていた。……愛しい娘マキナへ……、
と……。
「両親の形見の品かもな……」
「うん……」
「ちょっとーッ!ジャミ公、アルベルトっ、早く早く来てみーっ!!」
先に扉をくぐったサンディが大声で二人を呼んでいる。……ジャミルと
アルベルトは頷き合うと、扉の奥へ……。
「此処は……」
「お墓があるね……」
裏庭にひっそりと……物悲しげに佇む3つの墓……。その内の一番
小さな墓の一つに又何か文字が刻んであった。
大好きなおともだち、此処に眠る……
「……」
「どういうコト……?それにさっきの幽霊のお嬢さん、ヘンテコお嬢様に
にてなくね?……ま、まさかっ!ヘンテコお嬢様の身に何か遭ったトカっ!?」
「……やめろっつーのっ!!」
ジャミルは思わずサンディを一喝。もしもマキナの身に何か起きたと
言うなら、一緒に連れて行かれたアイシャも……。そんな事、考えたくも
なかった……。
「ジャミル、落ち着いて!どうしたの!?」
「アル……」
……あの子は……私のたった一人のおともだち……
「わ、で、でたっ!!ヘンテコお嬢さんの幽霊っ!!」
「あんたは……」
「……私の名はマキナ、この墓の下で眠る者です……、そして
さらわれてしまったあの子は私のお人形のマウリヤ……、私の
たった一人のおともだち……、不思議な光る果実の力で命を
宿した……、私の大切なお人形……」
「そうか、あんたが本物の……マキナだったのか……」
「天使様……」
少女……、姿を現した本物のマキナの幽霊はジャミルの方を見て、悲しそうに
頷くのだった。
「ジャミル、君、一体誰と……、まさか又、僕の目には見えない誰かと……」
「ああ、終わったら話すよ、……今、俺の目の前に本物のマキナがいる、
アイシャと一緒に誘拐された方のマキナは本当はマキナじゃ無いんだ……」
「……え、ええ!?」
アルベルトはさっぱり分からないと言った表情で困惑する。ジャミルは今、
目の前に現れた本物のマキナの幽霊から話を聞く事がまずは肝心だと
思ったのである。
「さ、マキナ……、教えてくれ、あんたともう一人のマキナ、マウリヤとの
関係を……」
「……はい……、病気で普通の子の様に遊ぶ事が出来ない私にとって、
お人形のマウリヤだけが唯一のお友だちでした、大好きな大切な
お友だち……、マウリヤと一緒に過ごせる日々、本当に幸せでした、
それだけが掛け替えのない私の大切な宝物、……けれど、私の病気は
どんどん酷くなり……、自分でももう長くない事が分かっていました、
もうすぐ天使様が私を迎えに来る事が……、そんな時、屋敷の召使いが
どんな万病にも効くと言う不思議な果実を取り寄せたのです、黄金色に
輝く美しい果実、でも、私はもうとっくに諦めていました、そんな果実を
口にしたところで私の病気が治る筈がない……、私の命は間もなく尽きるの
だと……」
「……これは……?」
ジャミルの脳裏に突然見た事の無い映像が流れ込んで来た。マキナの死の
直前の記憶。彼女がジャミルへと記憶を伝え、見せているのだった……。
「マウリヤ、見て……、キラキラ光って綺麗でしょう、まるでお星さま
みたいね、それにとってもいい匂い、この果実をあなたにも食べさせて
あげたい、……一人ぼっちじゃなくて誰かと一緒に……」
「……」
「マウリヤ……、ゴ、ゴホッ……、あなたがもし……、人間の様に
動いて……、お喋りをしてくれたなら……、あなたが私だけのお友だちに
なってくれたなら、ゴホッ、ゴホッ……、……ああ、天使様……、
私を等々お迎えに来たのですね……」
マキナの命の火が間もなく消えようとしていたその時、黄金の女神の
果実が光り出し、マウリヤの身体の中へと消えていったのであった。
そして、人形のマウリヤに命が宿り、マウリヤが喋り出す。
「マウリヤ……?」
「こんにちは、マキナ、私はマウリヤ……、あなたは私のお友だちね?
あなたとお話出来てとっても嬉しい!」
「ああ、マウリヤ……、あなた本当に……、折角……願いが……
叶ったのに……、でも、私は……もう……」
「なあに……?」
「マウリヤ……、私はもうすぐあなたと一緒にいられなくなるの……、
私の持っている物、全てをあなたにあげる……、お人形だと知られたら
あなたはこの町にいられないかも知れない、だから……私のふりをして……、
これからはあなたがマキナになるの……、マキナとして幸せになって……、
ね……?長生きして……私の代わりに……どうか……お友だち……沢山……」
「……そして私は息を引き取りました、私の言葉を守る為、マウリヤは
私、マキナになり、誰にも気づかれぬ様、ひっそりと此処に私のお墓を
作ったのです……」
「そうだったのか……、あんたらそんな複雑な事情が……、
……勘弁してくれよ……」
ジャミルは目を伏せる。流石のお気楽ジャミ公もこんな複雑で重い
事情にはとても耐えられなかった……。
「天使様……、あなたの大切なお友だちが捕まってしまったのも
全ては私の所為、町中を騒がせた罪も本来なら全て私が背負わなければ
ならないのです、どうか……マウリヤを……責めないで……」
「マキナ……」
マキナはそれだけ言うと姿を消す。そして、悲しそうな言葉も残して……。
……天使様……、私の大切なお人形……、私の大切なお友だち……、
大好きなマウリヤをどうか助けてあげて下さい……、あなたの
お友だちも巻き込んでしまって本当に御免なさい、二人の事、
どうか……お願いします……
「マキナ……、分かってるよ……、大丈夫さ、心配すんな……」
「……そっかあ~、女神の果実のチカラでお人形さんがヘンテコ
お嬢さんになってたって言うコトだね、あんだけたのみこまれちゃー、
ほっとくわけにいかないよね!よーしっ、天使のジャミ公サマ、
ちょちょいのちょいで、ヘンテコお人形さんを助けにいこーっ!」
「……おい、天使のジャミ公って……、何だその呼び方は……」
「ジャミル、そろそろ僕にも説明をお願い出来るかな……」
「アル、分かってる、けど、この事はダウドにも聞いて貰わなくちゃ
なんねえ、モンの事もあるし、まずは宿屋に戻ろうや、全てはそれからだ……」
「うん、そうだね……、分かったよ……」
二人はマキナの屋敷を後にする。サンディもジャミルの中へと
姿を消した。屋敷を出ると、からくり職人の爺さんが町中
彼方此方に伝え捲ったんだか、……既にマキナ誘拐の件は
既に町中に広がり大騒ぎになっていた……。
「す、凄い事になってるね……」
「……たく、ややこしいなあー……」
案の定、パニくった町民がジャミル達の方へと泡食って走って来た。
「ね、ねえ、君達、大変な事になっちゃったね!ああ……、
マキナお嬢さんのお屋敷には殆ど財産が残ってないそうなんだよ、
マキナさんがお友だちに何でもかんでもあげてしまったからだって、
……僕のお小遣いなんかじゃ身代金が到底間に合わないよね……」
町民は、とぼとぼと、肩を落とし去って行った……。……実際、
マキナが友達だと認めた相手は、マキナから望んだ欲しい物を
受け取ると、そのままトンズラし、二度と会いにも来ない様な
冷たく非常識な付き合いが多かったのである。
「そうなのか……、けど、誘拐した奴ら……、両親が既に他界してる事も、
知らなかったんかいな……」
「ぼ、僕にはなんとも……」
「はあはあ、お、おおーいっ!坊やたちーっ!」
「爺さん……」
次に走って来たのはからくり職人の爺さん。出来ればまだあまり事を
大きくしないで欲しかったよ……、とジャミルは思った。
「いやはや、とんでもない事になったのう、……マキナお嬢さんが無事だと
良いのじゃが……」
「爺さん、後は俺達に任せてくれないか?マキナ穣さんは必ず探して
助けてみせるから……」
「僕達を信じて下さい、どうか……」
「何と頼もしい坊や達じゃ、君達なら本当に任せて安心な様な
気がしてきたよ、……それにしても、お嬢さんお気に入りのあの
人形は一体何処へ消えたんじゃ、幾ら探しても見つからん、
あの人形は特別製でしてな、儂がお嬢さんに頼まれて作ったん
じゃよ、大きさも見た目も何もかもお嬢さんそっくりのあの
人形をのう、病気の為、外で遊べないお嬢さんが可哀想でな、
……喜んで貰える様、それは腕を振るったもんじゃよ」
「……」
「そうじゃ、身代金の事なら、一度町長さんに相談してみてはどうかのう?
マキナお嬢さんを助ける為に力になってくれるかも知れん……」
「そうか、……その手があったか!」
「行ってみよう!」
二人は爺さんから町長の屋敷の場所を聞くと急いで駆け出す。マキナを救う為、
きっと力を貸してくれると思っていた。だが……、余りにも身勝手な町長の
態度に怒りを覚える事態になるのである。
……ジャミルとアルベルトは非常に不愉快な面持ちで宿屋への帰り道を
急いでいた。早く事をダウドに伝え、アイシャ達の救出に自分達だけで
向かう決意をした。勿論身代金など用意出来ない。一か八かの強行手段で
ある。マキナ……マウリヤとアイシャを救う為、2人は町長に力を貸して
貰おうとからくり職人の爺さんに場所を教えて貰った通り、町長の屋敷に
出向いたのだが……。
「……どうぞ……」
つい先程までの話。屋敷を訪れた2人は客室にて町長に話を伝える。
町長の奥さんは突然屋敷に現れた得体の知れない少年2人組を見て
怪訝な顔をしていたが、無愛想な態度を取りつつも取りあえずお茶を
出してくれた。……マキナ誘拐の件は既に町長の処にも伝わっている
様だったが……。
「いやはや、困った事になった物です、……マキナお嬢さんが……、
して、君達がお嬢さん救出に動いてくれると……?」
「ああ、そっちの方は俺らに任せてくれ!身代金の事は申し訳ねえと
思ってるよ、けど、これは囮なんだ、俺らも奴らにやすやすと金は
渡さねえよ、ちゃんと作戦を練る!マキナの屋敷にはこれまで
町中が世話になったんだろ?今こそ力を併せる時だろ?」
「ふ~む、ですが……」
「あなた……、どうするんですか……?」
ジャミルの言葉に町長は眉間に皺を寄せ、下を向いた。奥さんも怪訝な
表情を変えず、町長の方をじっと見ていた。そして暫く後、漸く町長から
出た言葉は……。
「ですが……、あなた方も耳にしていると思うのですが……、あの屋敷には
もう財産など一切残っていないのです、しかしこのままお嬢さんをほおって
おくのも目覚めが悪い……」
「……だからそれは僕達が!」
「いや、正直、儂の方から金を出すのもどうかと……、それにあなた方に
誘拐犯からマキナお嬢さんを救える力があるとも到底思えんのですよ、
……そんなひょろっちい体つきで……、一体何をおっしゃっているのかと……、
子供の英雄ごっこ処ではないのだよ!薄々金を持って行かれてしまうのが
オチだ……、ふん!」
「……んだと……?」
「……ジャミルっ!お願いです、僕らを信じて下さい、お金は貸して
頂くだけでいいんです、無事に事が済んだらお金もちゃんとお返しします、
町長さん、マキナお嬢さんと僕達の仲間を救う為、どうか……」
「いや、やはりお断りさせて頂こう、下手に素人が動くよりも此処は
警察に任せる方がいい、その方が無難だ、申し訳ありませんが早く
お引き取り下さい……」
「町長さん……」
アルベルトも必死の訴えも無視。町長はどうしてもジャミル達の事が
信用出来ず、金を出すのを渋っていた。……この糞町長にこれ以上交渉を
持ちかけるのは時間の無駄だと悟った2人は冒頭の通り、自分達の力だけで
マキナ達を救出してみせるとそう誓ったのだった。
「はあ、ごめんなさいね、マキナお嬢さんも相変わらず人騒がせだこと、
でも、心配は心配ですけれど……、やはり私達とは関係のない余所の
お嬢さんですから……、主人にも悪気がある訳ではないのですよ、では……」
「……畜生っ!充分悪気はあんだろっ!結局は厄介事に関わりたく
ねえだけじゃねえか!!」
「もうっ!サイアクっ!アタシもさすがにドタマにキタよっ!
イヤ~な感じっ!!」
「ジャミル、サンディ、気持ちは分かるよ、僕だって悔しいよ、
でも、あんな人達にもう無理を言って頼み込んでまで力を貸して
貰いたくない、僕達だけで2人を救出するんだ、絶対に……!!」
「ああ、分かってるさ!……見てろ、畜生!!」
そして、宿屋に戻った2人……。ロビーではやはりもう此処にも話が
伝わっているらしく、コック、メイドさん、元執事が……、もう仕事
そっちのけで話をしており大騒ぎだった。
「……あ、ジャミル、アル!お帰りーっ!話聞いてるよお、た、
大変な事になっちゃったねえ!!」
「ああ、俺らも屋敷に行って知ったのさ、……重ねてマズい事に
なっちまった……」
「マズい事……?か、重ねて?確か、アイシャも屋敷に行ってた筈……、
だよね?まさか……とは思うんだけどさあ~……、ものすご~く、
考えたくないんだけど……、そんな訳ないよねえ?ねえ……」
「ダウド……」
ダウドも2人を出迎えてくれたが……、一緒に戻って来る筈の彼女の
姿が見えないのに何か嫌な予感を感じ取った様子。虚ろなジャミルの
表情も見て……。
「その、まさかさ……」
「アイシャも一緒に巻き添えを食って連れて行かれてしまった
らしいんだよ……」
「……えええーーっ!?あああ、やっぱりいいーーっ!!」
「コ、コラっ!大声出すなっ!……寝てるモンの方まで聞こえたら
どうするっ!!」
「だ、だってええ~、えうう~……」
「あっ、ジャミルさん達っ、お帰りなさいっ!」
大声に気づき、メイドさん達もジャミルの方に近寄って来る。
ジャミル達は急いで使用人達に屋敷での脅迫状の事、身代金の
相談を町長にしてみたが断られた件を話した。
「アイシャさんまで!ああ、もしやと思って心配していたんですが、
……何て事!」
「全くもう酷エ話ですぜ!俺がその場にいたらこの自慢のフライパンで
一発ガツンとブン殴ってやったんですがね!……悔しいですよ……」
「他に、ど、どうにかならない物でしょうか……、汗汗、此処の
オーナーにも一応……、相談してみたんですが……、払える金なんか
余裕は無いと、やはり断られてしまって……」
「そうか、あんたらも……、揃いも揃って……」
ジャミルとアルベルトは揃って落胆する。使用人達は宿屋の
オーナーと息子にも身代金の件を相談したらしいが、人でなしの
性格、自分達の身が可愛い為、速攻拒否されたらしい。
「本当に……、旦那様も坊ちゃまも酷いですよ……、あんなにお嬢様に
お世話になったと言うのに……、幾ら何でも冷たすぎます……」
「……」
男衆は押し黙る。メイドさんは下を向いて涙を拭いた……。其処に
傲慢親子が姿を表す。
「そいつは聞き捨てならないね……」
「全くだよ親父、おい、テメエら、使用人の癖に仕事さぼりやがって!
口だけは達者だな!……ええっ!?場合によっちゃ給料払わねえぞ!!
……どうなんだよっ!!」
「旦那様、……坊ちゃま!!……そ、その……、決して仕事を
さぼっていた訳では……、私達、只、お嬢様達の事が心配で……」
メイドさんが縮こまり、後の2人も押し黙る……。ジャミルは舌打ちし、
現れた親子を強く睨んだ……。
「……ねえ、此処が本当に楽しいところ……?」
そして……、誘拐されたマキナ……、マウリヤとアイシャ。洞窟
アジト内にある牢屋に閉じ込められていた。マウリヤは特に何も
抵抗しないので、そのままの状態だったが、アイシャはあのまま
気絶した状態で縄で縛られ牢屋内に転がされていた。
「そうだよ、まあ、もうちょっと待てよ……」
「……全然楽しくないわ、ねえ、私もう帰る!早く此処から出して!!」
「うるっせえな!騒いだって誰も来やしねえよ!……いいか、お嬢さん、
あんたは俺達に誘拐されたんだよ、……ゆ・う・か・い!!」
「……誘拐?」
「そう、その嬢ちゃんと一緒にな、ま、お前の親からたんまり金を
せしめたら直ぐに其処から出してやるよ、へへへ……、町一番の
お金持ちで豪邸のお屋敷に住むアンタの親御さん達からよ……、
優しいパパとママからな……」
カブトで覆われ表情は分からないが、角カブト男は勝ち誇った様に
ニヤニヤ笑っているらしき。
「騙したのね……」
「騙される方が悪いんですよーっと!あーあ、可哀想、アンタの所為で
アンタなんか庇うからそのお嬢ちゃんも巻き込まれちゃって!かーわーい
そううう!!あーあ、涙が出ない!だって俺達盗賊だもん!!」
カブト男の隣にいるジョーカー男は牢屋の中のマウリヤをバカにした
様にあざ笑い、踊りを踊るのだった。……マウリヤも隣で縛られ、
気絶しているアイシャの方を見た。
「……私の……せい……」
再びマウリヤの胸が激しく、チクチク痛み出すのだった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 28