緑の茸
茸ファンタジー指小説
茸には葉緑体がない、それで自分で栄養を作り出すことができない。だから、茸は土の中や、木や、昆虫から菌糸をとおして栄養を搾取して、大きくなり、子孫を残している。
茸が世界に何種類あるかわからないが、茶色っぽい茸が一番多いのではないだろうか。
地味な茸たちである。
畑に生えた茶色の茸が、朝になると一緒に顔を出した一つの茸を見て驚いた。
「おまえ何で緑なんだ、生えたときには茶色だったじゃないか」
「緑色野菜になりたかったんだ」
「どうして」
「きれいじゃないか」
「茸もみんなきれいだぞ」
「でも、緑がいい」
「緑色の茸だってないことはないぞ」
「みんなほそっこいじゃないか、おれはでんとそびえたった、ブロッコリーみたいに格好いい緑の茸になりたいんだ」
「それでどうやって緑になったんだ」
「朝早く顔を出して、レタスをからだにまいたけどだめで、ほうれん草をまいた。そうしたら緑になった」
「なんでほうれん草はいいんだろうな」
「あそこに生えている編傘茸のじいさんに聞いてみよう」
「おーい網笠じいさん、こいつが、レタスをまいたが緑色にならず、ほうれん草を巻いたら緑色になったといっとる、どうしてかね」
「ほうれん草は鉄分が多いからなあ」
「鉄分が多いとどうして緑になるんだ」
「きっと、鉄が茸にしみこんで、鉄が葉緑体もひっぱったんじゃろう」
「レタスは鉄が少ないからだめなのか」
「レタスに鉄分がないわけじゃないが、ほうれん草ほどじゃないからな、それにレタスの葉緑体もすこしは移ったと思うんだが、水分が多いんでな、入ってきた水がせっかく移った葉緑体を流してしまったに違いないよ」
「そうなんか、ありがとよ」
「網笠じいさんの話、きいていたかい」
茶色の茸は隣の緑色になった茸にいった。緑色の茸はうなずいた。
「なるほどな、鉄と一緒に葉緑体が入ったはいったのか、鉄が増えて体がちょっと硬くなったかもしれないな」
「気分はどうだい」
「しゃっきり気分だ」
「なふほどな、緑になってしゃっきりか、俺も緑になるかな、ブロッコリーの葉っぱじゃどうだろう、ごつくなって緑色になるのかな」
大きな緑のぼこぼこぼこをつけたブロッコリーをみた。回りから葉っぱが出ている。
「網笠じいさんにもう一度聞きいたらいい」
茶色の茸はちょっと離れている網笠じいさんに聞いた。
するとこんな答えが返ってきた。
「ブロッコリーは栄養たっぷりじゃ、それにな、スルフォラファンというフォトケミカルがある。フォトケミカルはブロッコリーが身を守るためにつくるものなんじゃがな、動物が食べると抗酸化物作用があってがあってな、年をとらないんじゃぞ」
「抗酸化作用って何なの」
「体の中で作られすぎた、活性酸素をおさえるんじゃ、それで老化がはやまらない」
「そりゃすごい、俺はブロッコリーの葉っぱをまいてみるぞ」
茶色の茸はブロッコリーの葉っぱをまいた。
畑に生えた野菜たちはとても親切で、ほしいというと、葉っぱを身からはずして、風に乗せてとばしてくれる。
茶色の茸はブロッコリーの葉っぱをからだに巻きつけた。
おーお、どんどん緑色になって、傘は大きなぶつぶつになった。
ブロッコリー茸だ。
「体が熱くなったな」
ほうれん草で緑色になった茸は、しゃきっとして、
「おれもとても調子がいい」
とうなずいた。
畑には茶色の茸がたくさん生えていた。
茶色の茸たちはその二つの緑色の茸を見て、俺も私もと、畑に生えている緑野菜だけではなく、あぜ道に生えている草の葉っぱをもらって、緑色になった。クローバの葉っぱを巻いた茶色い茸が、
「幸せな気分だなあ」と空を見上げた。
クローバが、四つ葉を風にのせてとばせてくれたからだ。
そういうわけで、茶色の茸たちはみんな緑色の茸になった。
お日様に当たって、茸たちは緑色に輝いた。
「まぶしいくらいじゃな、だがどうなることやら」
網笠茸のじいさんが心配そうに傘を揺らした。
夜になって、緑色になった茸たちは、星空を見上げて、幸せーとつぶやいた。
そして、どんどん太った。
朝になると、畑の中にはころころに太った緑色の茸がぼこぼこ生えていた。
お百姓さんがきて、
「おんや、茸まで大きくそだっちまった、しかも緑色だ、栄養満点」
そういいながら、太った緑色の茸を拾って家に持って帰った。
「ジャガイモみたいにうまいな」
お百姓さんの家族が緑色の茸たちを食べた。
畑では網笠茸じいさんが、
「ほら、心配したとおりだ、葉緑体は光合成で澱粉を作るんだよ、じゃがいもみたいになるさ」
と独り言を言った。
緑の茸