愛すべきAEONに捧ぐ自由詩

 偽物めいた時計は鮮やかにガラスケースの中で陳列していた。スーツケースが積み上げられ、外国製のビスケットとフルーツ缶詰が並ぶ。客はいない、防犯監視用カメラの小さな作動ランプは点灯すらしていなかった。わたしは大型カートとともに徘徊し、商品棚の曲り角で全体重を預けて飛び乗った。車輪が人間を乗せて軋みながら左折する。その先に鮮魚がひしめいていた。銀色の鱗が人工灯の下で光っている。南国特有のブルーの斑点、無駄のないフォルムにその色は合っていて、どこか玩具のロケットミサイルに酷似していた。ゆっくりと通過してやがて精肉売り場で立ち止まった。白い脂肪が交じった牛肉には価格ラベルが貼ってある。その端に見覚えのあるシールがあり、わたしがかつて働いていたスーパーと同じ肉屋から運ばれて来ているのだと気付いたのだ。そこには何故かホルスタイン牛が誇らし気に存在した。搾乳牛は猛烈に笑っている。パンキッシュなパッケージは、大好きなアルバム「ESSENTIAL」ジャケット裏を彷彿させた。可愛らしい毒のあるイラスト、それはたぶん肉屋とわたしの自慢だ。来たルートを戻ってからフルーツ缶詰めを1個買う。レジで支払いを済ませて外に出ると雨が降っていた。帰ろうかと考える。しかしわたしは映画の前売り券を何枚も所持していた。夜中にはあの好きな映画が2本もある。明日には雨も上がるだろう。そう考えて映画館へのルートを選んだ。

愛すべきAEONに捧ぐ自由詩

愛すべきAEONに捧ぐ自由詩

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-12-29

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