没【ヘテ恋】籠のなかの黒鳳翅

没 1


 夜のことだった。粘こい月が闇に閃く。背中を押された。その後に生温かい飛沫を浴びた。巳代(みよ)にはそれが何なのか、不本意ながら理解してしまった。理解したくなかった。信じたくはなかった。しかしそれよりも、彼女は受け身をとらなければならなかった。立てかけられていた桶のなかに倒れ込む。
「あなた……!」
 女の愚かなことだった。夫は彼女を匿うために、その背を暗がりに押したのだ。しかし自ら場所を明かしてしまう。
「妻には、何も……」
 巳代は夫と夜道を歩いていた。そこを何者かに斬られたのである。燈火は消えていた。何も見えない。それは幸いなことだった。だが、敵か味方か、明かりが近付いて来てしまった。照らし出されてしまった。喉を貫かれた夫の姿が。
「ああ……」
「妻には……」
 嗚呼、無惨。刃は引き抜かれ、夫の身体は崩れ落ちていく。
 巳代は逃げることも忘れて、燈火に目が沁みることに浸っていた。
 夫を刺した白刃は夜だというのに緋色に炙られて濡れ煌めいた。朱い月……
「う、うぅ、……」
 こひゅー、こひゅー、と呻き声と共に隙間風のような音が聞えた。朱い三日月が急降下する。そして地面を叩く。巳代を斬り裂くはずだった。だが外れた。
 襲撃者は一人ではなかった。夫を斬った人物の奥から現れたもう一人が、夫をさらに斬り苛む。巳代を袈裟斬りに仕損じた刀身は、今度は彼女の腹を穿(うが)った。




 巳代は脇腹の痛みで目を覚ました。目蓋が開く前から、彼女は寝汗や寝苦しさによって意識が浮上していたけれども、おそらくは目覚めたくなかった。これから永久に夢の中で留まっていたかったはずだ。しかしどこかで目覚めなくてはならなかった。
 身体を起こす気力はなかった。見覚えのない天井を見上げ、首の動く限り見えるものはすべて覚えのないものだった。
「起きたんだね」
 すぐ傍に人があったのだ。巳代は気付かなかった。頭はぼんやりとして、眠気が強い。また寝に入ろうとした。身体の疲れもあろうけれど、おそらくは現実を知りたくなかった。
「起きたんでしょ?」
 冷たい手が、無遠慮に彼女の頬を叩いた。

【没】

プロット

籠のなかの黒鳳翅

▶巳代(みよ)…夫が死去。蝶籠に送られる。蝶といえども結局は蛇。
▶蛙桜(かわずさくら)…龍辰会に入った後に斬り殺される。

幹部たち。
▶戌菊(いぬぎく)…夫に似ている。
▶桜馬(おうま)…サイコパス美少年。戦闘狂。
▶申藤(さるふじ)…オレ様ワガママ系。
▶猪橘(いのたちばな)…
▶寅薊(とらあざみ)…怪我をして戦線離脱。か弱い。乳首責めされる。
▶酉椿(とりつばき)…不治の病。羽根を吐く。
▶卯蘭(うらん)…クールな仲裁役。
▶桂鼠(けいねず)…厭世的。スパイ。嫌味眼鏡。
▶丑槐(ちゅうえんじゅ) 
▶楡未(にれひつじ)…温厚清楚系。
▶巳蕪(へびかぶら)…巳代の弟。殉死。

▶鹿芹(しかせり)…最高権力者。喫煙者。
▶蒲鼬…桂鼠の姉。狂女。蝶籠にいた。



▽龍辰会…狗札(どっぐたぐ)を付けている。
▽蝶籠…龍辰会の便所

没【ヘテ恋】籠のなかの黒鳳翅

没【ヘテ恋】籠のなかの黒鳳翅

和風逆ハーレム没プロット。18禁展開になるはずだったので18禁設定。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2024-12-29

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  2. プロット