カラスが人間に恋をして、悲劇で終わらないはずがない
カラスのカア太は、近所ではよく知られた鳥だった。
見かけは普通のカラスと変わらないが人なつっこく、悪さもしないからかわいがられ、しまいには人の手からじかにエサをもらうまでになった。
そんなカア太が恋をした。こともあろうに人間を相手にだ。
友子という少女で、目が不自由なので盲学校に通っていた。
だが友子の家は線路の反対側にあり、登下校には長い踏切を渡らなくてはならない。
電車の多い踏切で、本当に長く細く、誰にとっても安全に渡るのは大変な仕事だった。
カア太と友子がどうやって知り合い、仲良くなったかは誰も知らない。
だが人々が気づいたときには相当に親しく、朝夕にはカア太は必ず踏切そばで待つようになった。並木があり、それにとまるのだ。
友子が姿を見せるとサッと飛び降り、カア太は彼女のすぐ前に立つ。ほんの1メートルもないところだ。
そしてトコトコと歩き始める。
何秒かおきに振り返り、カアカア鳴きながら道案内をするのだ。
とても賢いカラスで、電車の姿が少しでも見える時には絶対に渡らなかった。
電車が通り過ぎるのをきちんと待ち、それから歩き始める。
噂が広まり、その時間にはついに見物人まで集まるようになったが、当の友子は、そんな騒ぎなどまったく知らなかった。
だが微笑ましい光景も、長くは続かなかった。
インフルエンザが流行したあの冬を、友子は生き延びることができなかったのだ。
はじめはちょっとした咳だったが、翌日には発熱し、あわてて入院させたが間に合わなかった。
冬休みが済むと、カア太はまた踏切に現れるようになった。
友子が姿を見せるのを木の上で待ち続けたが、いつまでたっても来ないのを不審がった。
いかにもイラついた声で鳴き、数日後にはカア太は、誰彼かまわず通行人に当り散らすようになった。
木の上から急降下して頭上すれすれを飛び、クチバシでつつくマネをするのだ。
これには人々も困ったが、理由は理解できるので、カア太を退治するようにと役所に連絡する者は現れなかった。
友子が死んで2週間後、カア太が死んでいるのが発見された。電車に踏まれ、レールの上で真っ二つになっていた。
運転手の話では、カア太はレールの上にじっととまり、電車が近づいても逃げる気配がなかったそうだ。
運転手は汽笛を何度も鳴らしたが、やはりカア太は逃げなかった。
誰が作ったのか、今でも線路ぎわへ行けば、丸石を積み上げたカア太の墓を見ることができる。
カラスが人間に恋をして、悲劇で終わらないはずがない