恋した瞬間、世界が終わる 第1部 降下するダンス
現実転生を繰り返している
君のために何回、世界が生まれ変わったのだろう?
やり直し、未来を描き続けて書き換えた
君の抱いた感情の先を確かめずに歩く
考えたいことが何かあったはずだ
ーー恋した瞬間、世界が終わる
第1話「もう一度のために」
空の上には 何が?
ただからっぽ そんな宇宙
ごちゃごちゃした そんな宇宙
永遠に回る 届かなかったメール
僕の人生が、平らになった
埋め立てられた人生
今までの事柄
その上に
立っている
満月で
月のあかり
ここに満ち
埋め立てられる 僕の土地
きれいで
夕方前 虹だった
雨上がり
光の粒子 埋め立ての地に立ち昇る
失うことから、始まる
一度、終わることから
虹のように
たくさんの可能性を感じること
たくさんの選択肢を感じること
来るべき時に向けて
誰かのために生きるために
自分を生き直す
物語を続けさせる音
枯渇させない文章
意味や価値、重さを
忘れてしまわないための
地図を奪われたまま
始まったままの人生
信念を思い出させるもの
来るべき時にーー向けて
第2話「降下する想い」
「ねえ、本当に
本当に、この下にあるの?」
「本当、本当だよ。
嘘じゃないよ。」
「もうすこし? あと、どのくらい?」
「んー、あ、ほら。見えてきた」
無数の明かりが乱反射し、眼に飛び込んできた
塊のように見えるところに目が向いたが、
その隅や、縁
暗く薄暗い部分について、何があるのか?と考えてしまう自分に気づいた
それは危ないことなのかもしれないと
心では分かりながらも、気が向いている自分がいた
「分かっていると思うけど、これが最後のチャンスかもしれないからね」
「分かってる。ありがとう。」
「心残りはあるかもしれないけど、もう決めてしまったことだから
止めはしないけど、私だって本当は、寂しいんだよ?」
「ずいぶんと、お世話になったね。
でもこれは、避けられない自分のエラーなんだよ。
いつか回収しなければならない伏線なんだ。
分かってとは言わないけど、寂しいって言ってくれて
本当にありがとう。」
無数の明かりが次第に大きくなってゆく
その大きさに、暗く薄暗い部分など掻き消され
私は、その明かりの処理に気を取られた
もう一度、振り返って、気持ちに応えてみることなど
そして、そのまま降下する時
自分が何者かになる
自分が何者かになって、そして果たすべき約束を
頭の中で、ブツブツとつぶやいて
一瞬も無駄にしないよう言い聞かせた
すこし壊れた自分の身体が気になったが
どうせ地上に行けば取り繕いされたものに変わるのだと
地上の上と、下とでは、まるっきり異なる映り方をするのだと
本当の自分は、その場にいる、その想いと
共にいるのだと分かっていたから
降りた場所は、薄暗い場所だった
目的の場所とは異なっているように感じた
ただ、すぐに近づいてきた中年の男性に抱えられ
黒塗りの車へと運ばれる時、我が身の小ささに
まず、その自分の感覚に馴れることを考えなければと
集中していた
病院へと着いた黒塗りの車は、そのまま私を置いて走り去った
ここからが、私の人生なのだと
第3話「新しい認識」
この時、私は
誰かに呼ばれるように
どこからかの微かな声を頼りにして
歩いていた
ふわりとした 声
秘密の場所へと連れて行く 声
ひかりの感覚
帰る時間が近づいているのか…?
時間は、有限ではない
頼りにするものがなく、歩いていたのか
職場で異動があった
私の異動はなかったが、2名の異動があり
出る人と、来る人
入れ替わりの配置転換
よく知らない人が私の部署に来た
私は、よく知らない人に対して慎重になる
心を開かないのは何故だろうか?
私が愛した人
どんな人だったか?
他人を守ることには必死で
自分を守ることには臆病な人だった
良い面と悪い面が裏表になってしまった人
私が愛した人は
どんな人だったのか?
自分を他人の中に隠してしまう
自分の人生を生きているのか分からない人
見失っているのか見つけているのか
私が人を好きになるには、時間が掛かる
その人のあらゆる面を見て、判断するための時間が必要になる
慎重になる
そしてこれは、この人生のイレギュラー
来るはずだった人生になかったもの
好きになったのは、価値観の近さではなく、
そんな価値観の共有を求めたんじゃなく、
気づいたら、好きになっていた
私が愛した人は、
価値観を擦り合わせようとする人だったのか?
大切なのは、異なるものは近づけようと
互いの違いを擦り合わせようと
新しい認識を持つことじゃないのかい?
私が愛した人
大切なのは、新しい認識を持つことなんだよ?
第4話「夕闇に遠ざかる足音、あの娘の名前を覚えているかい?」
夢を見る
昔からよく見るやつがある
学校ーー
昔、見たことある同級生たち
もうすぐ卒業が近づいている
離れがたい寂しさ
私は一匹狼
休み時間になったら
誰かを探している
場面はコロコロと変わる
「ーーくん。小説、好きなの?」
誰かが話しかけてくる
白昼夢のように
白っぽい雰囲気
顔は霧に包まれたように見えない
誰なんだろう?と
カーテンがいつも
眼の前で仕切られている
ーー眼が覚める
ただ、夢は少しずつ時間を進めている
編み物を編むかのように
“卒業”の時期が近づいている
「こだわらないって、言っただろう?」
生きる場所や、仕事の内容
「これ以上のことを望むなら…君は、ただ生きづらくなるよ」
生まれ直した後悔について、きっとあなただって、溜め息をつくことだろうーー
ボーナスの時期になった。
私の会社も間もなく支給されるはずだ。
会社の収益には、あまり関心がない。
自分の居場所が無くなることは困る。
帰属意識については、自分が与えられた役割をこなす。
それだけでやっている。
結果、それがお金にならないのなら、仕方がないのか。
youtubeで動画を再生しながら、考え事をしていた。
動画を開いては、移動して、開いては、移動して。
しまいには、ウィンドウを重ねて。
探したいことなどあるのかも分からずに、何かを求めてゆくーー
眺めていた動画
再生していた音楽が聴こえないのはなぜだろう?音量?
不思議なものだ
過去の誰かの一瞬や、一時期、生活音が、動画に遺る
音量が消えていたのは、パソコンの不調だった
スピーカーが壊れているのか
ただ、音が消え
動画上で人が動く姿を眺めていると
とても儚い記憶になって、でも美しく
それがとても貴重で、尊い、代え難い何かであることが伝わってくる
失ってはいけないものがある
私は、私の手元にあるコンピュータを不思議に眺めていた。
第5話「肩口に乗り上げた埃に埋もれ」
自分自身の肩口に乗り上げてゆく、埃(ほこり)
日々の生活で、知らず識らずに積もってゆく
気づかないために、自分では払い落とすことができない
だから、
その人を見ていて 助けたくなった
同期入社の男性だった
何年前かの4月1日に新入社員として出会った
自分よりも2こ、年上だった
私の兄弟と同級生
以前、その人と兄弟とがアルバイト先で同僚だったことがある
そんな偶然があり、新入社員で会ったとき「〇〇さんだよね?」と
向こうから話しかけてくれた
働く部署は異なり、会うことは多くなかった
顔を合わせると
「最近、どうすか?」と、お互いの職場環境を話し交わした
兄弟の知り合い
というのが、心強く感じた
小学校と中学校、私は兄弟の守護の中で、上級生にも顔が利き、
過ごしやすい環境で育った
高校に進学するとき、その守護から離れて
家から遠い学校に進学した(公立の高校に落ちただけだが…)
守護のない高校生活は、意外に馴染むことができた
友人に困らず、打ち解け合うことができた
なのに
大学では、孤独になった
一人の友人もできず
会話もすることができず
失語症のように閉じ
中退した
理由は、家を離れたこと
居場所を間違えたこと
自分に合わない場所を選んだこと
それを肌で感じ、心で 理解したこと
そこで、日に日に死んでゆく自分が居た
同期入社の2こ上の男性は、会社の中で疲弊してゆく様子が見えていた
暗い人ではないし、職種経験もある人だった
でも、そこに「居場所」を作れないことが伝わった
「このままではこの人…」
声を失ってゆき、日に日に死んでゆく経過が
ある日の休憩時間
更衣室に忘れた自分の荷物を取りに行った
とても狭い男性更衣室のドアを開けた時、ロッカーの前で弁当を食べる彼がいた
「こっちの方が落ち着くから」
スマホを片手に、体育すわり
ドアの入り口で立っている私を見上げて言った
「落ち着かないから」
口角がへの字に、苦笑いの表情だった
座っていた場所から立ち上がり、私が通るスペースを空けて
奥にある私のロッカーへとすれ違うとき
肩口に乗り上げた埃が見えた
気になって、払い落とそうかと頭を過ぎった
でも…この狭い空間で肩を?と、気が引けてしまった
そのまま、埃は肩口に乗り
私は「お疲れ様です」と退室した
退室後も気になったまま、誰かが気づいてくれないかな?
と、思っていた
彼がこの後どうなるのかを知っているから
私は、その人に自分自身を重ねたのか?
「涙が出るのは、なぜだろうか?」
と、考えた
同情したからか、自分の心情と何処かで重なったからか
その人の背景が視えたのか
もっと何か大切なものが、次第に小さくなって
小さなものだったはずが、次第に大きくなって
人を覆って、呑み込んで、
だから
何かを察したと
地面か、苦しみに、埋もれてゆくことが
私がかつて縁を切った人たち
いつか、彼らに会い、彼らが助けを求めてきたら
こう言おうと思っていたことがある
「お前は、何を言っているんだ?
あの時、俺を
助けようとしたかい?」
「あのとき、好き勝手な言葉で、ただ、正しさを押し付けていたよね?
人の心の内を見ることなく、お前さ
俺の言葉を聞く気がなかっただろう?
いまさらなんだよ」
「なんで、あの時、俺を助けてくれなかったんだ?」
あの人たち、そして私も
自分を守ろうとしていたのかもしれない
明かりの隅、明かりの縁、そこにある薄暗い部分
私はそこに手を伸ばし始めた
薄暗い部分、よく見えない部分、そこに手を伸ばしてみること
誰かが暗がりの中で、必死に手を伸ばし
「助けて!」を伝える
こんなことを体験するために、生まれたわけではないのに
と、後悔する手を伸ばして
自分の肩口に乗り上げてゆくものの重さに気づかず
それに自分が覆われてゆき
そして、沈み
消えてゆく
第6話「血に花が咲く」
地面には血痕が残った
8階から飛び降りた
即死だった
夜の暗がりで、目撃者はいない
発見されたのは、人通りが少なかったから、朝方で
施設管理の当直が、外の見回りに出たときだった
ーアスファルトには亀裂が入っていた
私は、
亀裂が入ったアスファルトの前で立ち尽くし、
8階の、飛び降りた窓を見上げた
ーーフラッシュバックのように、目の前に光景が浮かんだーー
暗がりの窓に近づいて、下を覗き
高さへの恐怖と、この高さからの間違いなさへの安心と
吸い込まれるような渦を感じ
考えが過るまえに、窓の施錠を外す
描いていたように、何度もイメージしたように
窓から離れて、距離を取り
一度きりの機会だと、呼吸を整える
迷いのないように決めた呼吸の回数だけ、息を
迷わずに走り、飛べるように、前へ
窓へ向けて、走る
確認するのはもう何もない、はず
開け放たれた窓から ーー飛び出た瞬間
頭で感じるよりも先に、身体が
感じる
ぼんやり、と眼に映った道端の木々
顔を逸らすと、街のネオンが輝いた
道路の街灯が、優しい色合いで道を照らす
疲れた人を安心させる色で
視界の中に
次第に遠ざかる車と、向こうから近づいてゆく車、それが
すれ違ってゆく
夜道には、うつむき、一人で歩き、一日に疲れた女性が
視界の中に
幸せな人生を歩めているのかい?
道路を挟んだところには、また一人歩く男性がいる
その二人が孤独なら
出会えばいいのに
ホテルの一室に、明かりが灯った
視界の中に、
独りのシルエットが映る
仕事を終えて、身体を休めるために
帰る場所がないのだろうか
疲れたかい
お酒を飲むのかい
今日は良い夜になればいいね
仕事、悩んでないかい
仕事、疲れてないかい
視界の中に、
隣りの一室にも、明かりが灯っている
また、独りのシルエット
なんにもない、なんてことはないんだよ
ほら、道路を挟んだところに出会いがあったかもしれない
孤独なシルエット同士が、傷を癒すかもしれない
助け合うかもしれない
認め合うかもしれない
今とは違う夜があるかもしれない
すぐ近くに
ーーこれが、夜景というものなんだ
肌で感じ
見えた
降下するスピードが速まる
速度を上げた過去が
そのまま
そのまま、もうすこし
見たい思いに駆られ、
地 面が徐々に、徐々に
徐 々に、迫ってきて
瞬 きのような時 間
瞬 きのうちに、自 分のそれまでの人 生が-まぶたに
その価 値や、その反 省や
その後 悔が
記 憶 の 渦に
渦に絡まった、最 後 の 言 葉
探 し な が ら
飛 び 降 り て い る 身 体 に 風 が 抵 抗 し て -
題 名 を 忘 れ た 音 楽 が 過 ぎ る
ーー ア ス フ ァ ル ト の 切 れ 目
にーー何 か が 視 え た
何 か
何 か が
次 第 に 大 き く 、 膨 ら ん で ゆ く ーー
確認できないまま
こ な ご な に 破 壊 さ れ る
「死因は、自殺でしょうね」
「残念ですが、そうなるだろう」
彼が、落下した地面に近づいた
その日、アスファルトは乾いていた
天気が良い日が続き、日々は穏やかで
気づかないほどに、自然で
歩き、近づくうちに、アスファルトの暗がりに気づいた
その暗がりに近づき
暗がりが亀裂になり
亀裂になった暗がりを覗く
花が咲いていた
見た瞬間ーー思い出した
もう現実にはないと思っていた
記憶の中で影になり、忘れられてゆくはずのもの
フラッシュバックして戻る
この花は、子供のころ
あの女の子が勘違いしていたタンポポだと
薄明の中に
透明な あわいの中に
アスファルトの亀裂で、開かれたものと
アスファルトの上で、閉じていったもの
いつ開かれるのか
いつ閉じるのか
小さな花が地面の底から生え
どのくらいの深さから伸びてきたのか
どのくらいの時間がそこに在ったのか
微かな思い出を残り香に
花から香る匂い
匂い
それが、昔を、今を越えて
瞬きの間に、まぶたの裏に映る
伝わりますか?
第7話「鈍足の日常」
なぜ、死ななければならなかったのか?
苦しさなど、気づかずに
隠し通せていたのか
周囲の目は? 誰も気にしてもいなかったのか?
死
恐れなどなかったのか
なぜ、私は止めなかったのか?
会社人である私
休憩時間のトイレで鏡に映る自分の姿を眺めてみた
うっすらと口の周りに髭が残り、ヘルペスが出ていた
身体は、昨日と変わりなく映り
顔のシミや、ビタミン不足からくる肌の症状、眼はドライアイに
洗面台で手が止まった
「私は、こうやって疲れてゆくために生まれたのだろうか?」
孤独と、暗さと、パソコンの明かり
自分の部屋というものに帰った
でも、今日は何かが起きていい日
そんな予感がする日
私が生まれた日だから
こうして立ち返って、自分を奮い立たせる
だが、人生は変われない
私がかつて経験したものと同じまま
私が変えるべき時は、まだ先にある
自分と同じ境遇の身で
降下してきたものは居るのだろうか?
あの時と同じ場所を選び、あの時と同じ内容を線でなぞるように
タイミングも変えずに
神業ではなく、組み立てられてゆく日常があり
異なる視点の違う自分が中にいるだけ
見てきたもの全てを振り返り見てはきた
その時には分からなかった隠された事情みたいなことも
本当のことも、誤解してきたことも
納得することができたから
これは、これで良かったのだ
ただ、彼は死んだ
知っていたままに
彼の死はそのまま
回転するような遠近感と
識別された言葉にならない感覚とか
触れるための絆を得ることだとか
アルコールで感度が悪くなってゆくことだとか
歩き疲れた人々が集まる宿場のようなものが
人々の底にあり
ただ、誰かと唇を重ねるとき、
あとで、唇に残った感覚はなんだろうか?と考える
「これは、タンポポだね」
と、小さな身体の頃に近所の女の子が教えてくれた
でも記憶では、それはタンポポではなかった
私はそのとき「タンポポなんだ」と言って、肯定した
その女の子の世界観を修正しなかった
誤解された認識を改め直すことは、私は良しと思わなかった
「タンポポが好きなの?」と私が尋ねたら
「そうなの、タンポポ大好きなの!」
近所の空き地で、子供背丈では埋まりそうな草木が生える場所
タンポポではない茎をくるくると回しながら
タンポポの綿毛よりも柔らかい、表情を女の子が浮かべて
なぜか、唇にキスをされた
それもまた、タンポポの綿毛よりも柔らかに感じた
「なぜ、私は生まれてきたのだろうか?」と再び、考えた
「時期が来るまでは、自己主張を抑えて
余計なことをしてはならない。
君が取るべき行動は、来るべき時の一瞬の中で決まる。」
黒塗りの車で運ばれる時、中年の男が私に警告を与えた
会社の8階
会議のために暖房を入れ、テーブルや椅子を並べて、人を待った
窓ガラスは街からの眺めを一望できる並びになっている
窓に近づき、下を覗く
薄暗い地面
電信柱の街灯
赤みを帯びて照らされるアスファルト
吸い込まれてゆく感覚
想像してみた
そこに打ち付けられて
自分の骨がバラバラになる感覚
少し窓から離れた
窓から遠ざかり
もう一度、振り返って見た
窓ガラスの外の薄暗さ
窓を開けたら
その勢いのままに
どのようなスピードで
降下する間、何を考えるだろうかと
何が思い浮かぶだろうかと
後悔するのだろうか
誰か心配してくれるだろうか
悲しんでくれる人はいるのだろうか
噂で消える
そんな事故処理
ただ それだけの出来事
「同じことを繰り返してはならない」
地上の上では判らない気持ちがある
第8話「心ある人によって」
ーー暗がりにある、明かりの届かないところ
ランプすらない
誰かの幸せが照らすのを待つだけの
来てくれるのを待つしかない時
時が来るまで
それまで身を潜め
明かりの当たらない場所で
幸せを感じず、幸せを疑ったままの人
泣いたって、誰も気づかない場所で
冷えた体は、冷えた心は
薪のないストーブ
孤独は、寒さのこと
孤独は、冬のこと
暖める手段を欠いた人生のこと
私は、最近
心について考える
言われた通りの人生を歩んだとしても
そこに、支障はある
誤解を招いてしまうこともある
手に入るはずのところで、すり抜けていってしまうこともある
心の行き違いで、悲しくなることも
私は、最近
心について考える
「生きるというのは、悲しいのことだ」
「生き直すということも、気持ちの良いものではない」
「見ているのか? 私はこうして言われた通りに、生きている」
「誰が死に、誰が生き、誰が生まれようと、それに逆らうことはできない」
「見ているのか? 私はこうして言われた通りに、生きている」
「私は、食欲が減退し、最近痩せてしまった。意欲…意欲が減退している」
「かろうじて、私は約束を覚えている。それを頼りに生きている」
「でも最近、それを疑って、信じられなくなっている」
「猜疑心によって、心が蝕まれて…疲れてしまった」
「一方通行な生き方だ。私に還ってくるものなどないのでは」
追いかけるものなどなく
夢は、この暗闇からはイメージすらできず
自分の傷口を確認するだけ
声に出して泣いたって、誰も
夢
心の交わられない場所
泣いたって
泣いたって
寄り添う人などなくて
ーーその時
「隣りに座ってもいいですか?」
私が腰掛けていた待ち続けるベンチに
一人の男が横に腰掛けた
私の視界は霞んでいて、はっきりとした表情が見えず
その男は白い靄に包まれていた
「夜を忘れなさい」
「夜を忘れる?」
私は自分の足元に眼をやった
「沢山の夜を忘れなさい」
足元の暗がりが靴の形に合わせて、四方に散るーー
暗がりの一点が飛び、ベンチの角に眼をやった
「あなたはよく働いた。自分の為だけではなく、誰かを見てきた」
角に溢れた明かりを見る
「見えない明かりは、先の方にあるんだよ」
白い靄は、暗がりへと消えた
夜だった
静かな公園には春を控えた木々が待つ
第1部 地上の上から編完
(第2部も星空文庫にて公開しています)
恋した瞬間、世界が終わる 第1部 降下するダンス
喧騒の中で踊り、踊り終え、私たちのことを考えた