意志の喪失

あなたの愛情を正確に翻訳できなかったものですから、あなたから愛されている実感などなかった、といえばこれは傲慢でしょうか

私とそれぞれ紐づけられている限り、「あなた」と「あなたの愛情」を切り離して翻訳することは少なくとも私には不可能なことで、そうなると、あなたのことを考えるのが酷く心苦しいのです(翻訳に行き詰まっているとき、そもそも翻訳という行為自体が無意味で傲慢なことではないかと思うことも屡々あったのです)

かたちの無いものを認識するには私が私の方法で「それ」に輪郭を、色を、温度を、性質を見いだし、私というアーカイブに保存し、変形・変質したときにはその都度新たな認識論でもって上書きする必要があります(→上書きによって下層に蓄積されていったデータは「私」によって管理・取捨選択され二者間を紐づけるもの、「媒介」が後のアーカイブの核を形成していきます)

翻訳には生物的な意思が介在するので、両者のうちのどちらかが無機物でもない限り翻訳という行為に成功は無いのでしょう(厳密に言うと、成功だと思い込むこと)

なぞりなぞられ、またなぞり返すような盲目的情愛を貫くことが私には適しているのかもしれません(翻訳の廃絶と同時に、生物固有の感情表現の死)

意志の喪失

意志の喪失

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted