夜の抜殻
利己的な夜が痛い
記憶の下腹部が内側から蹴りあげてくる
断続的な鈍痛に縋る宛もなく 臓の視界は次第に霞む
威嚇ができなくなった夜は みずからの指先だけをたよりに ゆっくり ゆっくり 去勢していく
画鋲も踏んだし 硝子も割った
そんなこともあった あったっけ
熱を奪われ息絶えた時間の断片たちが散らばった部屋で
卵巣と夜は死別した
罪人になり損ねた零時を数えて 永久の眠りにつく
哀しければ哀しいほど 月が綺麗にみえるのは みているものが月ではなく 月の向こう側だからだ
なにも孕めなくなった夜に 慈悲の接吻を降らせて 追悼を
わたしはついにじぶんのことも おもいだせなくなってしまった
夜の抜殻