桜の夢にて。(テスト投稿)
本文テスト用に上げます。
数年前に書いた小説の冒頭ですが、続きは今のところありません(^_^;)
火村介は夢の中にいた。
目の前には一本の桜の木。傲然と花びらを散らす巨木には幹がない。それどころかその世界には地面がなかった。
あたり一面には灰色の景色が広がり、質感もへったくれもなく、遠い宇宙を肉眼で覗くような空間は、上方へ行くごとにグラデーションとなり、青い空の色へと移り変わっていった。
その、右か左かも分からぬ、パソコンで塗られたかのような錯覚に陥りそうな空間に、火村介は立っていた。
夢の中の彼は、静かに――身動きが取れず――自らの前方の桜に臨んでいた。
目の前の巨木は絶えず花びらを吐き散らす。
空間の青はそこの周辺、2、3メートル程しかなく、桜は空へも花びらを散らしていた。
――信じられない量だった。
花びらは目の前で確認できる巨木からだけでなく、四方八方から迷い込んできていた。視界は桜色に染まり、自分以外のものを確認することはほぼ不可能に近かった。へたをすれば――介自身が気を抜けば――桜に息を取られて死んでしまいそうだった。
そして、すきをついて覗ける地面――あるとすれば――には、何故か、花びらの死骸は見つからなかった。
それは、空間の下方部分が目の錯覚により、永遠に物質が地面に行きあたらないように見えるものなのだと、冷静に介は悟っていた。
花びらは鳴りやまない。直立不動で目の前の巨木を眺めるしか術を持たない介は、桜に殺されないよう、めいっぱい気を張り、いつ来るとも分からぬ目覚めを待つしかないのであった。
この夢は、介にとって、この上ない悪夢であった。
桜の夢にて。(テスト投稿)