time limit
ちょっとだけ期待してた今日。
ところどころいい感じかも、って思っていた自分もいた。でもあっけなく彼から放たれた言葉は「じゃあ気をつけて」だった。
店を出て駅まで送ってくれることもなく解散。
やっぱりわたしは異性にそういう目で見てもらえない。大失恋した高校一年生の冬から毎日毎日欠かさず自分磨きをして来たっていうのにその努力はいつも空回り。
わたしの何がいけないんだろう?
メイクも洋服も自分に似合うものを研究して自分が一番可愛くなれるようにしてきたのに。
同級生からも可愛くなったね!って言ってもらえるのに、どうして届いて欲しい人には届いてくれないんだろう。
ほんとに今日に賭けていたの。
大学を卒業したら地元に帰って親に決められた相手と結婚して子供を産む。これがわたしの決められたルートだった。別に結婚相手は自由だった。わたしが本当に結婚してもいいって思えるような相手を地元に帰ってくる前に見つけれたら、という条件付きでお母さんたちから許しを得ていた。地元に帰る前に、だ。
そのタイムリミットはもう半年もない。
今日を逃したらもうないと思っていた。事実わたしの取り巻く環境で男性はほとんど存在しないに等しかったから。
やっと勇気を出して誘えて、相手も心なしか好意的な人だったから期待してた分、ショックは大きい。
ていうか、そもそも。
付き合って早々、こんな条件を聞かされたらみんな離れていくのは分かっている。から、なおさら言えなくて結局何もできずに終わってしまう。
こんな条件を飲んでくれる男性なんてよほど寛容な人じゃないと無理だし千人に一人くらいの割合なんじゃないって思う。
ぼやける視界
泣いてるの?、わたし
ダメだよ全部わたしが悪かったんだから。
わたしが自分をうまくアピールできなかったから、へんな焦りがきっとあっちにも伝わっていたんだ。
いいの。もう。
きっとお母さんの知り合いの息子だから悪い人じゃないはず、そうだよ。大丈夫。
お母さんとお父さんだって、親の決めた結婚だったけど、すごくラブラブだし、わたしのことちゃんと愛してくれてる。だからきっと、きっとわたしも大丈夫。
だから、もう泣くのはやめよう。
と思うのに、心は軋む。
いたくていたくてたまらない。
涙だって止まらない。
こんな中途半端な時間に道の真ん中で泣くわたしはさぞかし滑稽だろう。
わたしの人生なんて結局そんなもんなの。
だって、最初からそういう運命だったから。
泣き腫らした目は見るのも耐え難い。
でもバイト行かなきゃ。
会いたくないな、シフト被ってたよね。
顔合わせなきゃ大丈夫かな、
重いため息をつき重い足を動かし目的地へ向かう。
ーーー…
「ええ、ミサちゃん大学卒業したら地元に戻っちゃうの?!」
「はい、」
休憩時間。店に来る人全員を虜にしてしまうほどの美貌のユリ先輩の驚いた顔がズイズイと寄って来る。
うわぁ、めちゃくちゃ綺麗、。
「地元戻って何するの?」
「えっと、結婚します」
「結婚?!!?」
「は、はい、」
「なんでいきなり?!あ、もしかして、そこにかつて結婚を誓い合った運命のダーリンがいるの?!」
興奮気味なユリ先輩の鼻息がわたしの顔にかかる。
「違います!そんな人いません!てかユリ先輩近いです、!」
「あ、ゴメンゴメン、じゃあなんで?許嫁的な?」
「許嫁ではないですけど…。わたしが大学卒業するまでにいい人見つけることが条件でそれができなかったら親の決めた人と結婚するっていう約束なんです」
「うわ…そうなの?大変ね…。で、いい人いたの?!てか、言おうと思ってたんだけど、その顔どうしたのよ?!ミサちゃん今日可愛さ減ってるよ!それでも可愛いけど!」
「ちょっと昨日…」
あ、やばい。墓穴を掘ってしまった、と思っても時すでに遅し。
「昨日?って、あんた、昨日ユウスケとデートじゃなかった?」
「で、デートじゃないです!!ただお食事した『ガタ』」
音がした方を二人で見ると、そこにいたのは
ユウスケさんだった。
バチっと目があって思わずそらしてしまった。
「ゆ、ユリ先輩!わたしそろそろ戻ります!」
サッと立ち上がり何事もなかったかのようにユウスケさんの脇を通り抜けようとした。
したんだ。
グイっ。
「ねえ。今の話どういうこと」
「…何がですか?」
「結婚とか許嫁とか、」
「そのままです。わたしがいい人見つけれなかったら親の決めた相手と結婚する。それだけです、」
「ミサはそれでいいのかよ」
「いいんです。わたし、いつもこうだから。好きになってほしい人には好きになってもらえないから。それなら親が決めた相手の方が幸せなのかもしれないです。」
「ねえ、泣いたのは俺のせい?」
「…っ。違います、」
「ごめん泣かせて、」
「違うって言ってるじゃないですか!」
「ミサこっち向いて?」
「やです…」
「ごめんミサ。お願い」
ほろりホロリ
わたしの頬を伝う涙。
「ごめん、俺にもう一回チャンスくれない?もう一人で帰らせるなんてヘマはしないから、」
ーーー…
「わたし、ユウスケさんに全然恋愛対象に見られてないんだと思ってました。」
それなりのホテル
遠回りして結ばれた私たち。
枕にうつ伏しながらポツリ、言葉をこぼすわたし。
「それはほんと悪いと思ってる。てかむしろ逆だった。勘違いさせてごめん」
「もういいんです」
「だって考えてよ。ずっと可愛いと思ってたバイト先の年下の子に急に食事誘われてさ、その日にそのまま持ち帰りって俺軽すぎじゃんか。ミサとの関係大切にしたかったから良かれと思ってやったら全く逆だったんだから」
「……ふーん」
「照れてんの?」
「…違います」
「こっち向けよ」
「……いいんですか?ほんとにわたしで。後悔するかもしれませんよ」
「それはないな。むしろミサを誰かに取られる方が後悔する」
「ユウスケさんの未来、わたしが奪っちゃうんですよ?」
「別にミサに奪われるんなら本望だわ」
「……」
「また泣いてんの」
「…泣いてないです、」
ふわり。
わたしを包んだ暖かくて優しいユウスケさん。
心がこんなにも暖かくなったのは初めてだった。
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