三題噺「皇帝」「市民」「奴隷」
――僕はいじめられっ子だった。
昔から太っていたし、緊張すると言葉が上手く出てこない。
そんな態度がいじめられる原因となったのだろう。
教室では皆が僕を空気のように扱い、僕もまた空気になれるように息を殺していた。
今はもう、僕はかつてのいじめられっ子ではない。
だって僕はこの学校に必要不可欠な「奴隷」なのだから――。
僕の学校には奴隷制度がある。
皇帝の生徒会長。市民である一般生徒たち。そして一部の奴隷。
生徒会長の命令は絶対であり、誰もその命令には逆らうことができない。
たとえば授業中、生徒会長が歩き回っていたとしても教師は何も言わない。
さらには購買で生徒会長が無銭飲食をしたとしても店員は何も言わない。
学校は生徒会長のためにあると言っても過言ではない。
しかし、皇帝は独裁者ではない。皇帝には皇帝の役割があるのだ。
他校との領土争奪戦。その指揮を執るのが皇帝だ。
いかに伏兵を用い、いかに奸計をめぐらすのか。
どれだけの武闘派を揃え、どれだけの補給隊を編成するのか。
それら白兵戦や情報戦を生徒会として指揮するのが皇帝の最重要任務である。
そして、僕のような奴隷にも役割がある。
皇帝の手足となり鉄砲玉となる市民の、抑圧された感情の捌け口になるのが僕の仕事だ。
意味もなく殴られたり蹴られたりするのは当たり前。
ワイシャツは足跡マークが点在し、藍色のズボンも乾いた泥で白くなった。
あまりに毎日のことなので洗濯することはとうに諦めた。
財布は持たないようにした。それでも時には金銭目的で脅され犯罪まがいのこともさせられる。
だけど後悔はしていない。
全ては皇帝のため、ひいては学校の平和のための大事な仕事なのだ。
そうして今日も僕は学校に行く。
かつてのいじめられっ子として。
学校のための「奴隷」として。
――この学校の校長として。
三題噺「皇帝」「市民」「奴隷」