practice(158)
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セピア色みたいだと言われた。それはイメージだろう?と,反論した。
そうかしら?という確信は,珍しく家の仕事場に入って来て,「あら,懐かしい。」と思わず漏らす言葉とともに容易く本棚に手を伸ばす。文庫本を傾けて,一通り読んでいる。それからぱらぱらと紙が動く,匂いを嗅ぎたいような鼻詰まりの息づかいが,目立つ。厚手の衣擦れがこそこそ聞こえる。狭い室内は電灯を切って薄暗いのだが,入ってくる明かりがあるから,それをうまく使っているのだろう。カーテンは橙色に開かれて,飽きて,ぱたっと閉じる。しばらく静かになり,妙に引っ掻くような音,それから,「幾ら幾ら」と書かれた印字を剥がそうとする。しなくていい,と見かける度に言った。みっともないんだもの,とこちらの言い分を気に掛けない。染めた髪が耳の上にある。
何枚か,合計いくらか知れないものが,指で丸められて,ごみ箱は?と尋ねられたのだから,横から引っ張り出して,ため息交じりに,目の前に差し出した。古いカレンダーを捨てていたために,容量は隙間程度にしかなかった。ありがとう,の軽い返事には,それを引っ張り出す動作が加わった。「あら,同じのあるわよ。」と,カレンダーをその中に戻しながら言われた。ちょっと待っててとごみ箱を丸ごと受け取り,部屋を出て,通路を通り,居なくなる。
開けっ放しのドアのすぐそば,角に上手く嵌った大々的な健康器具の一部分が,服だらけの間から窺えた。紺色に映るが,本来はもう少し明るかった。錆びたとかでない。漏れ入る光を入れようと,服を掻き分けた。ダンボールが数個ある,背中をつけて寝そべるところのフレームが露わになり,シールが可愛く貼られていた。色は青に見えた。
「ほらほら。」
と部屋に入って来たのは,広げられた写真が全く同じひと月と,翌年であった。でしょ?という顔が,カレンダーの横から覗く。鼻詰まりの声で,そうそう。と言う。次は何だ?と,眉を顰める。
あらすじは頭に入っている,のだろう。印象深い場面は,と聞けばすらすらとも答えるんだろう。身振り手振りを交えて。えーと,と言葉に詰まり。
電話越し,娘の近況に変わりがないということを聞いた。何か伝言はあるの?と振られたから,こっちも変わりないということを,それと,シールはお前が貼ったものか,剥がしていいかと聞いてくれ,とそう伝えた。受話器を持ったまま,返事を聞いて,
「私じゃないけど,ウサギじゃなかったらいいよ。」
という返事を娘からもたらした。確かにシールはウサギじゃなかった。ということは,娘たちの貼ったウサギのシールが今もあるということだ。もう見つけるまでもない。
電話向こうで,壁の方に顔を向けて,ひそひそ話のお喋りが始まった。元々,当事者以外がのけ者になるのが,電話というものの仕組みである。その様子を観察し,ついで,台の上に敷かれていたチェックの柄のクロスが目立つ。
それを見たことがなかった,とうことは新鮮である,と思いつつ,淹れたもう一杯を熱々と飲み干した。
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