practice(152)




 吸着しているように,円を描く花瓶の口の縁を歩く虫と,点いていないテレビを上手く観るために寄りかかっているような花。うち,もう一本はくるりと横を向いて,台所から聞こえるトントンとした音の正体に大体気付き,ここに運び込まれるのを楽しみにしている,白い花弁の裏っかが,前にたたんだ耳の後ろのように見える。
「もう少しー?」
「あとちょっとー!」
 クレヨンが転がって,床がころころという。
 綺麗なレースの模様は輝いていないイルミネーションに似ているように,四角くテーブルの端から垂れ下がる。歩けるようになったばかりの子の,短く切って,ピンと立った天辺の頭の髪に触れるぐらいで,ビニールコーティングで透けているところもある。端っこが掴まれ,反対側のテーブルの地がむき出しになるぐらいに引っ張られたら,そこでクイズが行われて,上でカチャンと子供用のプレートと,コップがぶつかる。幸い,冷たい飲み物も入っていない。
「なにもはいってなーい!」
「せいかーい!」
 マークが施されたプレートの底が,ソース塗れでも現れたら,スリッパがせっせと物を運び,新しい製品を載せたページがぱらぱらと捲れ,付箋紙の厚い高さが離れて,揺れる光を浴びる。レモンに近い?と聞かれた声は,黄色い一枚を指に貼る。ひらひらとさせて,頁を見ている。ねえねえ,と肩を叩かれて,真ん中の写真の中から赤いソファーの背後にある,同じ木箱の種類を調べている。
 鉛筆削だけあって,踊りが上手な指人形を,追っている影。ジョーイと名付けられたのはカーペットの上でふわふわの犬か,「トータル。」と言い間違えられる水族館帰りのカメの隣で,泳ぐサカナか。
「イルカ。」
 図鑑のプレゼントから,新しく覚えたものとして発せられたところだった。片付けやすい小さなテーブルは,壁にくっ付いて,それでいっぱいであった。時々不安そうに立ち上がり,お姉ちゃんたちの周りを回って,混じって遊ぶ。もういいの?と聞かれれば,
「いくない。」
 に聞こえる返事を残して,首を振る。手を開かせて,そこに無いかどうかを調べている。



 セーターの毛が舞う。ズボンの擦れる音が残る。



 チン,と出来上がりのいい匂いが広がり,台所からお皿へと移され,カラカラと乾いた枚数は増える。クッキングシートを敷いたまま,次の焼き加減を見るときに,台所から出て来た顔は期待を添えて,また引っ込む。
 それを見つけて,絵本を閉じる子がいる。
 タペストリーの長さに合わない家具を引きずり動かす,似姿が反対の壁に掛かる。
「美味しくなりそうよ。」
 頁が捲られる。
「あとで,するから。」
 と家具が前に引っ張られ,家具が前に引っ張られる。






 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-18

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