practice(138)
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ベランダの手すりの間に置いた,白い小皿のポッテトチップス,干したばかりのバスタオルの何枚かを動かす風に塩味がちょっとずつ離れていく気がしてならなかった何口目かに,部屋に戻る前にと私の分もと入れてもらった氷入りの炭酸ジュースは汗をかいて冷たく,喉を潤すのに丁度よかったので,丁度よかったと,お礼を言った。同じく炭酸ジュースを手にしてその返事は,構わないけど,後で軽い炒めものを作るかもしれないから,そのときの後片付けは宜しくと言ったので,分かったと返事を飲みながら済まし,コップを下ろして,正面の,明るい部屋の中から目だけ細めてその先を見ようとする様子を見ていた。あるはずなのは眺められる建物,チカチカしている幹線道路,すっかり落ちた陽ざしに,際立ってきた夜の暗闇のお時間。分かりにくいかなと思ってそこに,曇ってるよ,けど,明日はそうじゃないみたいと付け加えた。現にその背後で点いているテレビでそう流れていたのは,私がこうして過ごす前,朝刊に差し込まれていたチラシを選んで捨てようと首にかけた別のタオルで,額に落ちてきた湯上りの水滴を拭おうとして,顔を半分覆ったところだったし,だから耳に残っている。降水確率は十パーセント程度で,うん,そう,全国的には過ごしやすい気候になるでしょう,だった。タオルを下ろして,自然にぶら下げて,コーナー終わりのCM明けまではチラシの全部を折り曲げなきゃいけないのを残念に思った。厚紙のものも含めて。狙っていた靴屋さんのものは,今日もなかった。大特価セールは今週に行く必要がなかった。家具はもう所狭しと並んでいて,歴史的展示を行う美術館へと足を運ぶ自転車は,帰って来るのにもう少し時間がかかりそうだった。日にちだけはチェックして,テレビの音をぽちぽちっと小さくし,部屋用のゴミ箱に縦に入れて,蓋を側に控えさせた。屈伸運動の伸びるところだけ,コルクボードと暇つぶしのにらめっこをし,短時間で回した洗濯物の終わりが告げられる。カゴを持たない手軽さで,と思った甘い考えを意地になって両手で担いで,足で開けようとしたドアーに対面し,洗われたものを待たせて結局両手で開けた,そのあとのベランダで,食べたくなったポッテトチップスの袋を破いて,小皿に盛って,思い付いたポートレートのタイトルを『しふくのとき』,にでもしてみて,どうしようかこうしようかを考えてみよう,と思ったのだった。
ふーん,そう,という間。え,違う?と聞く私。
いや,違わないよ,天気を見ようとしていたから。と言い残しつつ,コップの底を見せたあとの目はすっかり元通りになって,風にあたり過ぎて体調崩したりしないぐらいにね,と言ってから部屋に戻ろうとする,その前に,そうそう,食べる?炒めもの?と聞かれた。スナック菓子は他にもあるけれど,コレぐらいにしようと思っていた私はうん,食べる,半分だけ。と,答えておいた。分かったという,部屋へ向かう返事の途中にも,私はテレビを横目で見たり,眺めたり,もう片方の手で肩のタオルで髪を拭ったりしていたけれど,コップをその場の,部屋の縁に置いて,ベランダ側の方をまた一度と見直しながら,聞こえない,けれど走っているのが分かる明かりの列を追う。丸い光は赤であったり,青であったり,長いものは,高く黄色でポイントを照らしているし,踏まれる回数だけ,車と車の間の距離はうまいこと詰められて,上がるスピードにそうでなくなる。埋め合わせを齧った,塩味のポッテトチップスと落としたりしないように,肘をあげたりしていない小皿のある場所と,ずっと遠くで,小部屋が冴える各階が集まった建物の数々,夜に雲。飛ぶものは生きているものも,そうでないものも見えない範囲でありますから,とあの販売員の方は案内のときにここのベランダを開けながら,それから降りたりしながら,言ってなかったと思い出すけれど,二人して景観に関する向こうのお願い事を聞きながら,今ウチにある物干し竿で事足りるかな?なんて,指で測ったり手を広げたりした。ホースとか初めて買ったけど,レンガとジョウロは積まれて隅っこに置かれてある。あとで使うから。
種,何か,例えばキュウリの種。
タオルで髪を叩きながら,手すりの汚れも拭き取る。覗かない窓という窓から明かりが漏れてた,明かりが必要な時間。それから電話は勝手に鳴った。すぐに切れたから,それは意図的なんだって思えた。
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