practice(131)
百三十一
木の匙の端を齧って,どばっと入れた粉洗剤の塊を見つけては潰し水の中でかき混ぜるをさっきから繰り返し,心なしか泡も手首から腕にかけて,もりもりと本領を発揮しているように思う。使われたお皿やコップが並び,不思議そうな顔で見つめる一番下の弟の鼻に手の甲を向けてはイタズラを残し,赤や青のタオルが日差しに伸ばされて簀の手前や膝の上,振り回されて空を飛べずに日陰に敷かれて眠っている。木の上に何年でも座っていれそうなおてんば娘は枝葉を揺らして芝生の模様を変え,ペラペラと本だけがいう。
芝生を長いことその腹で感じ,冷たい水をもたらすホースの一部に施した布のガムテープの様子を見に行っては,わが家の主と帰って来ない犬を心配するリード役の姉が腰に手を当てる。交わされる会話は,
「何が見えるー?」
「二人は見えないよー。」
と先回り,細かい泡をたてて消える。地球儀に似ていると言われた雲は,ボール状と言えなくもないまま,林で区切られるこの広場の縁へと削られていき,形を変えて現れて来る。弟の手によって荒く食器が飛び込んでくる。
そこから探すのは,細かい,細かい。
プリン・ア・ラ・モードに盛り付ける,フルーツの数と種類を話し合った。木の匙を並べて,『シンク』の綴りを間違えたと聞いたから,指で宙に描く。そっちじゃないよと訂正されて,低いノートの罫線に沿った文字を追う。泡がほんのちょっとにじむ。もう一度と,途中の前からお願いする。
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