practice(118)
百十八
「朝もやをみたい。」
と言う。白く綺麗で冷たそうなレースは本当に長いカーテンの切れ端だった名残りで,それを服のように体躯に巻き付けては余った分をずるずるとさせて軽快に草っ原をならしている。枝を引っ掛けたりしているから破れないかと気になった。虫網と誤解したものは跳び去り,見えない小石は見えないところへ,運び込まれていた丸太は安定感よく,都合のよい足場として使われた。そこで足を伸ばして何かを取る。羽根が動いて翔んでいった。指先を擦っていた。それだけですぐに目で追えなくなる。切れ目から薄い青は過ぎて行った。そこから深い緑にまた会える。しばらく続く,小川に浸らせた会話の中にもスケッチブックは出て来る。湖面を泳ぐ魚が居たのだった。光が十分に反射する。
「ここでは,」
と繋いだ。
「採ったらいけないかも。」
と聞こえた。温度がいまいち伝わり切っていない岩の上に座って,長い長い時間を過ごす。カーテンだった切れ端には足跡が残る。種類をよく知らないから栗鼠であると決めた。栗鼠はそこを走るのだ。
「朝もやをみたいと言った。」
「うん。」
と日が始まるのを感じて,流れに光が動いていく。差してくる方向の樹々が明るくなっていく。土の汚れもよく分かった。手についたり足にあったり,細かい枝を落としたりと朝の事が増えていき,青はすっかりと変わる。鍵はポケットにあった。
長い長い時間を過ごす。
白く綺麗で冷たそうなレース,それを服のように体躯に巻き付けては余った分をずるずるとさせて軽快に草っ原をならしている。
ゆっくりと起こされた朝みたいな風景だった。とは,干して乾かした紙に文字を綴る観察家が珍しくスケッチとともに記した頁に残したもの。短い鉛筆を落として,長い鉛筆を買った。硬貨を細かくきっちり払う。指先が芯の色になっている。
朝もやをみたいと言ったのだった。
practice(118)