practice(113)



百十三





 丸太をぱしっと手の平で叩きながら,小さい人は見事だという意味をこちらに呼び出す言葉を口にした。上がり終えた雨にはしゃぐ陰の子たちが成り立ての蛙のようにそれを見上げる。しかし湿気は感じやすいかたちでそれを押しのけて,当たった葉っぱの水が跳ぶように地面に落ちた。鳥はそのままひっそりと枝に止まる。見失いそうなあれ,姿は陽に通り過ぎられる,それを拾い上げたのはもう一人の人で,こちらの背丈は低いとも高いとも言えないのだそうだ。比べるべくは小さい人でないですよと,その小さい人が見上げて言っていた。その際にとる仕草がキコリに似ていると大樹の孫たちが指摘する。しかし小さい人にも,そうでない人にも,それが自分たちが知っている『樵』を意味するのか,自分たちが知らない『キコリ』を連れて来ているのかがはっきりとしなかったために,小さい人も(見上げながら),そうでない人も駆け寄って,またもや降り始めた雨が葉を叩く音を聞きながら,複雑な根元を登るようにして,どっちを意味することなのか。鬱蒼のてっぺんに行き渡るぐらいに大きな声で,それをゆっくりと尋ねた。
 耳を動かす動作が見える。澄ませる仕草は山向こうにまで届く。大きな肩を走り抜けた栗鼠は急がしそうに戻って来て,耳の近くで立ち止まる。
 その間にスコールは一度降ってすぐに止んだ。小さな人も,そうでない人も髪や鼻(額から流れて来た),着ていたシャツの袖を伸ばしたところから滴をちょっとずつ垂らして,足を置いた「大きな足」のようなところからそれぞれ跳んで着地するときにも滴を勢いよく落とした。
 ーすぐに乾くだろうね。
 とは,小さい人が言った。そうでない人は,
ー乾くといいね。風邪は引きたくないよ。
 と願望のかたちで返事をした。小さい人もそれには同意したけれど,言葉にするのは止しておいた。それから足下の石を拾って,ゆっくりと元の場所に戻しては小さい声で,見事だねと,歩きながらさっきの丸太があった所よりも奥へ奥へと歩もうとしていた。
ー見上げないのかい?
 そうでない人がそう背後から尋ねたところで,小さい人は立ち止まった。さっきとは違う立ち位置からぱしっと丸太を叩き,
ー見事だね。
 と小さい人は口にした。呼び出されたその意味は陽をたっぷりと浴びて,大きいひとでもいるように指差し,そうしてしゃがんで,
ーああ,
 とそうでない人と見つけていた。上がり終えた雨にはしゃぐ陰の子たちが,成り立ての蛙のようにそれを見上げる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-18

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