practice(101)


・百一





 水の冷たさがよく伝わるのも,水族館の好きなところだ。それから少し暗いのも。嘘っぽさが館内を走る順路に一段と集まって,向こうの本物がブルーに映える。静かに見えるところに,騒がしいものがきちんと交わされて,じっと動かない子も,ふとしたきっかけで居なくなる。泳ぎが基本の世界。ゆらゆらと過ぎて,横目で交わす挨拶を済ませる。戻ってきて,今度はこちらからじっと見送った。尾びれがはらはらと動いていた。そんな数は多い。迫り来るようにして,方向転換は素早いのだから。指でも追う点線,塩加減には上手に消える。
「ソフトクリームが食べたいね。」 
「あとで買おうか?」
 としゃがむ声に聞き返す。
「うん,外ででも。」
「そうだね。そこに異論はないよ。」
 立ち上がり,それから歩いて,『海』の中を周り切ってから蒸し暑い外に出て,近くのパーラーまでソフトクリームを買いに行った。二人分並び,順番になって,お釣りを貰いながら受け取った。パーラーの横の,建物のスペースに,テーブルとともに簡単に置かれた席に座って,海風に当たりながら溶けないうちに,とそれぞれ口にし始める。そのときにさっきの返事について,「変な言い方。」と指摘されたので,
「そうかな?」 
 という返事はひと舐めした後で,甘さを混ぜて,しておいた。
「聞きなれないから。イロン。」
「そう聞くと,色んな『イロン』がありそうだね。」
「あら,イロンはそういう意味でしょ?」
 という「意外」な顔。だから,
「うん,だからイントネーションで。色んな『イロン』。」
 と続けた。コーンも齧って,アクセントを付けた。
「色んなイロン。イロンな異論。」
 と,考えてくれることを待ってくれないソフトクリーム,冷たいのも美味しさの一つだと分かってる顔になる。だから,
「他のイロンを見つけてる暇はないから,とりあえず言っとくね。変な言い方。」
 そう言って,ソフトクリームが減っていった。
 コーンの脆い感触と,灰色に負けない青空を見つけて,これを不安定な天候と評する気象予報士が傍にいないけれど,乳母車を押す女性に男性が合図をして小走りになったり,園内送迎バスの運転手さんが帽子を被り直す次いでに目で確認しているところから,雨が降りそうな気配はこちらにより集まっているみたいだった。生憎持っていない,という人は少なくないというのは身を持って分かる。でも僕らは,
「雨が止むまで,今から待つよね?」
 ということを確認した。時間はかかりそうだったから,ジュースをそれぞれ追加した。それから,
「ねえ,海のもの,好きでしょ?」
 と妙な聞かれ方をしたから,ストローを素直に含みながら「うん。」と答えておいた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-25

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