practice(69)
六十九
淡水が詰まった瓶の向こう側を掴んで手は,こんなに大きい毬藻より拡大された。見せるたびに驚かれる『平』の血色にもまた,よく気付いてしまう。同居させている水草には横向きの手相が背景のように被さって,光合成を終えたばかりの気泡を私にもさりげなく,吸い込んで吐いて,後は再び毬藻の活動に任せている。それを知っている尾びれの熱帯魚,それだけで特定できる範囲で飼い始めた一匹は指の根元に啄ばみをしたようにターンした。今日の色々なことはこうして決まる。
林檎の樹の絵の下の,果実を入れた竹籠には柱時計のミニチュアが並ぶ。何でもない時間にも知らせる。鳩でないものが出ないで,振り子は眠らないで,木型のカレが無事に剥いたもの。ウサギが頭に居座った,捨てない爪楊枝を摘み上げて五つ数えて作らなければいけない。
ペーパーナイフを初めて使おうとする,弟のような手つきには日で割る月の優しさが要る。それから暗がり。まあるい形。
「尻尾は?」
「後で付け足して,殻は捨てて。」
捏ねる足から高くなる。
箒を運ぶ鶴の話を,床面積が広い書斎のカーテンの自立性に任せて三角帽子の持ち運びが部屋の中で許される。抱える布の厚みには切り絵にした紋白蝶の欠片が付いて,糸はとっくにベランダを出て行っていた。準備されたのだけは分かる。コルク詮と硝子の瓶の,指紋はやっぱりここにいるものとならない。
汲んでくる。コルクの詮を通して,毬藻がするという。逸らして頬につけているのは青い緑の甘みになる前のところ。
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