practice(39)
三十九
起き上がる前に手にした管楽器は寝そべった石の上で短く,ぷあんと鳴った。長い年月,仕舞っていたケースの角に古ぼけた欠伸が残っていたからとでも言いたげで,ついさっきと吸い込んだ息は新鮮なままに飲み込むことにした。それから消える風の後ろ,鳥が回り込んで今日の雲をそこに通して追い抜いていった。ひと鳴きもない,羽ばたきの前の体躯を捉えられたことは珍しい。語りたいという気持ちを添えて,もう一段の高度をあげようと管楽器を唇にあててからまた息を吸い込んだ。今度こそはとそこから響く音,見える屋根からは煙が順々と登っていき,薪が割られる唯一の音がした。若い勢い,鮮烈さをカンと残す感触は真上の空を強くする。
遠く小さい,それが青々とし柔らかい道を作って,合図を育てて待っていた。だから順々は忘れない,登ることを禁止されなかった庭の木には昼前に登って,段々と高くなっていき,手伝っては木の板を踏みしめ,また登ってはそこから眺めていた。組み立ての街,白と赤いテント。庭に空いた穴倉の前,登らなかった木の前で受け渡した小瓶の中に入った紙片はきっと拾った木の実と,混ざったものだろう。旅立ちはだから促して,見送りは静かに見送った。取り出すことは叶わないそれは,振っても木の実より動かない。けれど適していた,そこにあることが当たり前になれば,そこにないことを思わないように。スコアブックの切れ端にする落書きのように元に戻せば遠い陽に照らされる,影もまたどこまでも育つ。口笛から始まって,手に取っても奏でられる。覚えるのは,きっとその後だ。
長く届く芯のように。
息を吸い込む,イメージするのは浮かび上がった一枚,欠片を残して透かしていく。高々と真上,靡かせて低くなっても,広がって消えていく。元の形と消えていく。円筒形のテントの中で,白い光と回って回って。
寝そべった石の上,目を開けるのもまた少し先。
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