practice(38)
三十八
小瓶を振るから手を振る,心象風景はゆっくりと対流して黒い手の内の野兎は耳の片方に賽の目に切られた銀紙を乗せたまま,手足を漕ぐ。ともに作られた葦原,間に合いそう時間は時計ごと外にまで出て行きそうなところをゆったりと帰って行けることにホッとして,小さい手でも持てそうな丸いスプーンのようなもので片目を隠した。それは勿論偶然,誰も被っていない帽子もひっくり返ることなく真新しいままに漂っている。
「これって,手作り?」
と,後ろへ向ける質問。
「いや,それは貰い物だよ。」
と言われた帽子のことでしょ?,に付け加えられた念の為にはうん,そうという返事を簡単にした。間を埋める風の音,一貫性ともう一振り。備え付けられた暖房機のシュンとした静けさに温かさが応えて手を貸した。野兎は下に向かっていた。
隣の箱には違った趣向の出来事が真新しく置かれて,決められていない順番を待つ。
街で一番高い塔に目印を付けてよく歩くのが楽しいと言える探検家がここに置いていくのは決まって役に立つと言う。うんうん,と頷くように木鳴りのことを追いかける風景の前も通り過ぎれば戻って来る,年代物のようなチケット。重しに敷かれて席と日付けを変えないことを動く手の届く範囲に収めたり,外したりしながらする。伸びる木々だけは動かなかった。その箇所だけに設えられたステンドグラスの主との,邂逅だってあった。
「譲ったの?」
振られる首。
「預けたの?」
初めて見る笑み。
撫でられた頭から伝わる力強さに,その風体は似合わないと思った。受けて通る光の筋道は,上から降り注いで消えた。外したエプロンを着てから作業をする人に聞けば,その人は日誌も何も付けていなかったけれど,そうだとずっと答えてくれた,飲み物はその度に淹れて貰えた。筆のようなものも,彫るようなものもあれば使うと言っていたその人は,ある画家なのかもしれないとも思った。
それから正方形の中を,もう一周。
一足先に,穴倉の中から顔を出しているハットを被った青年はタキシードに着慣れていて,しかし首元の蝶ネクタイを曲げたまま慌てたように右から左を探している。開けた庭先からそれを見つけて,一番近くの小瓶を手にして,振ることだけは忘れてしまった。ともに作られた葦原,上にも下にも行くことなく野兎は,銀紙が映える綺麗な黒になっていた。
「行ってきたら?」
と後ろから勧められる提案,手を振るから振られる小瓶。玄関からして,右にあるステンドグラスだった。
開演に間に合う時間には,「いってきます。」をゆっくりとした。
practice(38)