practice(35)
三十五
水に写したら返すことに,茎を残して栞代りに使うのは雨蛙の決まり事らしい,滴った枚数を破ることもなくここの平たいところに置いて寝かせば緑色の一つの席が埋まって,白色の紙コップから湯気が温かみをもって経っていった。きっとドーナッツが入っていると言われる袋も開けられることなく佇んで,新聞紙で顔を隠す人影もまた捲らない。アナウンスは時たまに左回転の時間を知らせるだけだ,あとはこちらに委ねられている。
すぐそこの紳士が帽子を置いていった理由を考えていた,貴重だという木の実を無遠慮に手のひらで転がしてでも,身軽な格好に鈍重なハイトーンをその身には備えた梟の絵葉書に付け加えられるエピソードになりそうだったから。よく鼻で笑う司書には秘密にして,街では通り違いの場所にそれぞれ店を構える絵本屋がテーブルの真向かいで特に絵を分けて整理しているのを見届けて,「またあとで」をその身で待てる小さい時分の,大きな期待に伸び伸びと射す夕焼けの一枚を持ってこれは何かと当てるクイズもして,園芸を趣味とすることに続く言葉も推敲しておいた。
夜目が効くことを無関係だと思うものが居ないここで,さして問題とならない「またあとで」を信じて待てる身であることを,自覚して確かめることに留める。
ただ取れば,それを取らなかったことにはならなくなって,取ったところから進む。豊かな影を作る猫の足取りも数えていたから,足りないものは見回してもそんなところに無いものであった。設けられたものはそういうものだという,どうしようかとこれはまた考える前に,それを求める栗鼠に贈れば被るというよりそれに覆われる形になって中に籠められた楽しさを,心から笑って聞かせてくれた。そこにまた鳴らないノックを素振りでもすれば,頬張る様子がよく分かる。あるいはそれも,続きかもしれなかった。
到着時刻の陽射しがあたって,紳士の足跡には音もしない。壁によく曲がっても溶け込んだりしない背中を見つけて何かと聞くのは,きっとそれからだった。
practice(35)