practice(34)




三十四





 耳元で振る仕草を見ているのは好きだった。
 元は小指色だったと聞かされて,それは肌色と聞き直して,ことばの剥がれやすさを慮ったら小瓶はコロンと転がって,いつも不思議に思うものだった。それはね,と説明する口の動きに思い出の明かりは明る過ぎて照らせない,最初に覚えた言葉だと,思える自由は付いていくように許されて,何も付けずに,その身には何も残さずまま,心の在り方に似ている所在の無さで立ち上がる影が見当たらなかった。小さな引き出しに合う大きな開け方があるように,会うためのものがある。新品のタオルと,膝掛け毛布は気持ちが良かった。
 フォーカスされて,消えていくように。
 カーテンの揺らめきに眠っていたものも寄って来て,鼻と興味スンスンとさせている。そこに掛けて掴まる前に,小さな引き出しを大きく開けて,木目の模様を取り出してから貼り付けるところと,貼り付けるものを手に取って大きく広げたら切りもせずに,ベランダの光に晒す。ここから見える裏面がとても紙らしくて,触った。滑らかになって居なくなっていく,何もないはずはないのには何もないと知らせることが出来ない。なら,宙に描くように丸い玉をなぞって,乗れないピエロの,青い名前に一つの赤みをさすことに繋がれば,一緒に手伝ってと言う。透く小瓶の紙片,だから聞かれれば小指色と答えるのは,だから。
 石畳みの上を行く。ツバメのものよりある眼の,視線より最初の風を聞く。雑な,それから好きな。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-02

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