セイントターミナル(第五回)―河川敷の橋の下、男の叫びは二度響く―

セイントターミナル(第五回)―河川敷の橋の下、男の叫びは二度響く―

今回でやっとたどり着きました。僕の書きたかったアクションへのつなぎが出来たと思います。

登場人物:
大豆生田弥次郎兵衛(マメブタヤジロベエ)
 本作の主人公。今回は出番なしです。
美冬(ミフユ)
 主人公の家に居候している天使。今回はバリバリ頑張ります。きわどい衣装来てるみたいですが今回はエロ要素は抜きました。乞うご期待!

男の叫びは二度響く

「ラァァァァァァァ!」
 ガッ!ズザザァーッ。弾き飛ばされた勢いに押され、草の上を滑る。
「どうした小娘ェ。もうへばっているのか?」
「うっさい!」
 先程放った美冬の一撃は効いていなかったようだ。美冬は鋭く相手を睨みつける。
「ふん。虚勢を張っても無駄だ。俺は倒れん。」
「あんたの都合なんてどうでもいいのよ!アタシはやるって決めたらやるんだから!」
「それこそ知らんなぁ。まぁ、気の済むまでかかってくるがいい。弾き返してくれるわ。」
 ―カチン。
「やれるもんなら―。」
 言いつつ、相手に飛びかかり、剣を召喚する。柄を握り締め、渾身の力を込めて振りかざす。召喚された剣の軌跡が、光となって現れ、敵を攪乱する。振り上げた剣を、振り下ろし、横に薙いだあと、また振り上げ、振り下ろす。
 ザンッ!ジャキィン!ズッバァ!
「―やってみなさい!」
「…ぬう。」
 どさり。巨大な狼の、左の前足が切断され、倒れる。後から血が吹き出す。
「どんなもんよ。」
 返り血を浴び、体が火照る。臨戦モード突入。
「…ふん。」
 ―ここは先ほど、ゴロツキ共を折檻ああいや、お仕置きしていた河川敷の、橋の下。この状況はなんだと問われれば、それは遡ること約30分―。



 ぴくり。
 やっと動き始めた。俺の体。全く。こいつの精神はなかなか頑丈だったな。俺がいくら呼びかけてもぴくりともしやがらねぇ。だが、今はこの体の主はおネンネ中だ。俺はやっと自由になれたんだ。と。ちょっと待て、何か嫌な予感がしやがる。なんだ?
「じゃ、アタシが飛ばしてあげる。」
「へ?」
 カァァァァァァァァ。
 ヌガァ!眩しい!熱い!クソ、何やってやがるあのクソアマ。さては天使だな?まぁ、ちょうどいい所だ。この体の使い心地を確かめてみるか。奴もこちらの存在には気づいていたようで、俺の方へ向き直ると、
「あんた、アタシの目が誤魔化せてると思ってんの?さっさと出てきなさいよ。アタシ、手加減しないからね。」
 ―ケッ、せいぜい言ってろ、小娘が。
「ふん。誤魔化せたとは思わんな。で、俺とやりあうのか、ここで。」
「殺ってやるわよ。直ぐにケリつけてあげるわ。覚悟なさい!」
 ―馬鹿め。
「ラァァァァァァァ!」
 目を見張るほどの跳躍。一瞬で俺の顔の高さまで届く。そのまま、両足を揃え、打ち出してきた。
「フン。いい度胸をしているな、小娘。」
 小娘の跳躍の一瞬前、俺は巨大な狼の姿をした真の姿に変身していた。そして大きく斜めに顎を振りかぶり、迫る両足を弾き飛ばす。小さな体は、なんとかして地面に足をつけつつも、草の上を滑るようにして勢いを殺し、体制を立て直す。
「どうした小娘ェ。もうへばっているのか?」



「…ふん。」
 左の前足がなくなったが、バランスを崩すようなことはない。返り血にまみれ、誇らしげに笑う小娘を睨む。
「やってやったわ。どう?降参する?」
「するわけがなかろう。俺はこれしきでは倒れん。」
「ふぅん。なら、降参するまで切り刻んであげるわ!覚悟なさい!」
 剣を担ぐようにして携え、走り出す。接触する一瞬前、振り下ろされる剣に合わせ、『左』の前足を振り回した。
 ドスッ。ズザザァー…。
 美冬の一撃はまたしても弾かれ、草原に叩きつけられる。だが、それ以上に驚愕なのは、
「なんであんた、足、あんのよ!」
 切断したはずの左の前足が、何事もなかったように再生していたことである。
「…当然だ。俺をなんだと思っている。ただの一撃でなくす部位などないわ!」
「なら…また切り落とすまでよ!」
 飛びつき、弾かれる。そしてまた飛びつく。不毛な手数の積み重ねが、美冬の闘志をくじく。
「クソッ。イラつくわねぇ。」
「腹を立てても何も変わらぬ。貴様はここで果てるのだ。俺の牙にかかってな。」
「兄貴!」
「騒がしくするな小僧共。死にたいか。」
「オレらの兄貴を返してください!」
「知ったことか。そもそも、こやつが強くなったのも、俺がとり憑き、力を与えていたからにほかならん。貴様らの兄貴とやらは、俺の力を借りていた、弱い人間にすぎん。その強さに惹かれたのなら、それは俺の力に惹かれたも同然。貴様らが慕っていた兄貴とやらは、俺のことだ。」
「ちょっとあんた、アタシを無視してんじゃないわよ!」
「なんだ貴様。まだいたのか。まぁよい、今からはまかないの時間としよう。弱き人間でも、腹の足しにはなるだろうな。」
「なっ―逃げなさい!二人とも!」
「遅い。」
 瞬時に飛びかかり、二人のうち、肉付きのいい方をくわえる。
「離しなさい!」
「知ったことか。ゴーストが人間を食って何が悪い。」
「うるさい!」
 飛びかかってくる斬撃をひらりと躱す。喉元への斬撃は、風を斬る音と共に、振り抜かれた。
「どうした?ゴーストから人間一人も救ってやれんのか。全く、無力な天使だな。」
「黙れ!あんたはここで倒して、そこのデブは後で改めて折檻よ!」
「なんと威勢のいいことか。貴様、俺はここですぐさまこの男を食ってしまうことも出来るのだぞ?」
「へぇ。アタシを試してるわけ?でもあいにく、アタシそんな奴に情のかけらもないの。食べてしまったらいいじゃない。あんたはここで死ぬけど。」
「ならば遠慮なく頂くとしようか。」
「わっ、やっやめ―。」
 男をくわえたまま、顎を大きく煽り上げ、口を開けて丸呑みにする。男はなすすべもなく開いた裂け目に吸い込まれていった。ゴリゴリと骨を噛み砕く音がして、
「うわああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…。」
 断末魔。男の亡骸が残ることはない。そんな光景を目の当たりにしつつも、美冬は言う。
「さあ、もう無視すんじゃないわよ。絶対にあの世逝きにしてあげるわ。」
「ククク。小娘、なかなか見どころがあるな。人一人見殺しにしてもそんなセリフを吐けるとは…。」
 ガキィン!
「喋ってる暇なんてないわ。全力でいくから。」
「来るがいい。もはや貴様に勝ち目などないわ!」
「それはどうかしら?」
 ―スッ。
(なんだ?突然雰囲気が変わった…。)
 振り上げられた剣が、下ろされる。その切っ先が地面と接触した瞬間、突如として魔方陣が現れ、美冬と狼の足元をとらえる。
「小娘、何をするつもりだ?」
 サァァァァァァァァァ。
 魔方陣から風が吹き、気流が狼を絡めとる。
「なっ…。」
(マメブタ…。借りるわね。この力。)
―カッ。
気迫が狼に重量を持ってのしかかり、絡みついていた気流が鋭さを増し、竜巻のようになって、巨体を飲み込む。
「ヤァァァァァァァァァァァ!」
 術者の気合に反応し、巻いた気流が加速し、飲み込んだ者を鋭く削る。
「ウガァァァ!」
「気剣開放!乱れ咲け!紫陽花!」
 竜巻が狂い、中の巨体をさらに削る。濃密な空気が形となり、狂った気流が槍を生み、それは竜巻の狂気に乗って、巨体の全てを埋め尽くす。突き刺さった槍は、竜巻と共に散り、後に残ったのは肌をすべて剥ぎ取られ、、全身から血を吹き出す、巨大な狼一頭。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…!」
「あんたのハッタリなんてわかってんのよ!腹のデブはアタシがもってくからね!」
「グググ…。小娘、これで終わると思うなよ…。王の意思はまだ死んではおらぬ。貴様が死ぬのも時間の問題だ!ガハハハハハハハ!」
 カァァァァァァァ。ピシャァァァァァァ。
 巨体が光り、弾ける音がして、狼はいなくなる。後には大柄な人が一人、差し迫った折檻の運命に怯え、震えていた。
「あんた、ここまでしてあげたんだから、逃げようとか思わないわよね。」
「ハィィィィィィィ!もちろんですぅ!」
「いい子ね。そんな可愛いデブに特別に―。」
「え、え!?そのテのやつですかぁ!?ちょ、やめ、うわぁぁぁぁぁぁ。」
 日が落ちかけた薄墨色の街に、頭上の柱に木霊して、男の断末魔はよく響いた。

天使の本気の裏―倒れるのは下僕の役目―

補習が終わり、家に帰るも、誰もいないことに気がつく。
(美冬さんを探さないと…。)
「うわああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…。」
 玄関に向かっていると、遠くの方で叫び声が聞こえた。
「なんだろう?まさか美冬さんがまだ折檻を続けてるとか…。」
 ―ドクン。
「うっ!」
 突然、自分の鼓動に痛みを覚え、たまらず膝をつく。
 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
 鼓動はどんどん早くなり、ついには四つん這いになってしまう。
 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ。
 早鐘のように鼓動が高まっていき、
 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…。
「ガハッ!」
 異常なまでに鼓動が加速し、耐えられなくなって血を吐く。
(また、なんですか…?)
 大豆生田の脳裏には、美冬と初めて会った時のことが走馬灯のように奔流していた。
「…美冬さん…。」

セイントターミナル(第五回)―河川敷の橋の下、男の叫びは二度響く―

アクション、書いてみたかったんです。次回、まだどんな感じにしようか決めてないんですが、ショートな感じのやつを集めた短編集的なものを本作に絡めて、書いていこうかと思ってます。

追記:
ゼルダの伝説「夢幻の砂時計」(←ゲーム)やってると、何か巨大な敵に立ち向かうってすごいなって思っちゃったりしてた小学校時代を思い出してしまいました。小さい頃に、仮面ライダーとか、全体モノの特撮見てましたから、ほんと、あの頃は夢中になってみてました。憧れてましたし。今回は美冬さんに大立ち回りをやってもらって、拙い文章しかかけない自分が言うのもなんですが、下手の横好きとかいって、やってる人は楽しいものなのです。ですから、書いていて楽しかったです。さて、皆さんは何か、憧れていたもしくは憧れているものなどおありでしょうか?

さいごに:
皆様からのより多くのご意見・ご感想をお待ちしております。なにかといたらない点ばかりでごさいますが、最後まで御付き合い頂き、光栄至極に存じておりますので、もうひとつ、お手間をいただき、わがままにお付き合いください。

セイントターミナル(第五回)―河川敷の橋の下、男の叫びは二度響く―

セイントターミナル第五回。 今回は必殺技も出ます。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-13

Copyrighted
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  1. 男の叫びは二度響く
  2. 天使の本気の裏―倒れるのは下僕の役目―