セイントターミナル(第四回)―天使の持ち物はくれぐれも手荒に扱ってしまわぬようお気を付けください―
今回はアクション色を入れてみました。そして、デレもぶっこみました。
一部グロ注意です。心してかかれ…!
登場人物紹介:
大豆生田弥次郎兵衛(マメブタヤジロベエ)
本作の主人公。今回も絡まれちゃうようです。「いつもは見向きもしないくせに…。」byハゲ
美冬(ミフユ)
主人公の家に居候している天使。やっとメインヒロインっぽくしようと奮起してくれたようです。空回り中ですがね。僕の文章力のせいで。
昨日のことがなんだか嘘のように思えちゃうことってあるよね!
―朝。はっきり言って、昨日のことあんまり覚えてない。学校行って、ボッコボコにされて、先生から薬もらって帰ってきたまでは覚えてるんだけど、そのあと何かモヤモヤしてる。でも恐ろしいぐらいに綺麗サッパリ傷がなくなってるし、僕は自分の部屋に寝ている。変な話だが、天使さんがこの部屋を占領してたんじゃなかったっけ…。
「おはよう。」
「わわっ。おはようございます。」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。」
「いや、起き抜けに挨拶されるなんて初めてで、びっくりしちゃいました…。」
「アタシ、今日ちょっと出かけるから、あんたが帰ってきたときアタシ居ないかもしれないけど、泣いたりすんなよ?」
「どうして僕が泣くんですか。」
「うるさいわね。あんたそんなんで良く今まで生きてこれたわね。」
「こんな甲斐性なしでも生きていけますって、日本はいい国ですから。」
「よく言えるわね。」
「ええ、といいますか、ここしか知りませんので、ほかの国がどんなところかはちょっとわかりかねますね。」
「ふーん。あんたがそう言うならいいけど。」
「ところで、美冬さんはどこで寝ていたんですか?」
「あんた大丈夫!?」
「病気はしてないはずですけど…。どうですか?」
「病気よりも深刻よ…。」
「そんな!どうしてですか。」
「あんた昨日のこと忘れてる?」
「あー。何かモヤモヤしてますね。」
「…。」
「どうされました?」
「あんた昨日自分であたしに部屋返してって言いに来たんだけど。」
「そうでしたっけ?」
「じゃあ、アタシがあんたのお祖母さんの部屋を使うことになったの覚えてる?」
「そうだったんですか?あの部屋まだ汚かったんですけど…。昨日の僕はどうかしてますね。」
「今日のあんたも相当よ…。」
「そうですか?まぁ、僕はなんともないですけど。そうだ、昨夜はぐっすり眠れましたか?」
「あんたってホントマイペースね。」
「そうですか?あまり人と話さないので、どう思われてるかわかんなかったんですけど、そうでしたか。僕はマイペースなんですね。」
「…そうよ。」
「なんか、呆れてません?」
「そうかもね。」
「えと、じゃあ支度してきますね。」
「いってらっしゃい。」
「はい。美冬さんもお気を付けて。」
「あんたこそ気を付けなさい。じゃ。」
さっさと支度を済まし、自転車に乗る。外はまだ涼しく、葉桜が空の青によく映えていた。
主人公の人気ぶりはもう死亡フラグが立っちゃうぐらい強烈
ジロ…。
学校へ着くなり、睨まれる。もう慣れてはいたが、今日に限っては少し気に障る。
「大豆生田。いったいどうした…。」
体育の松波先生。若い先生で、怖くはないが、すごく喧嘩は強いらしい。僕は体育なんて全然出来ないし、担任でもないのに、何が気になって話しかけてくるんだろうか。
「先生、どうかされましたか?」
「いやいや、別に悪いことではないのだが…傷は治ったのか?」
「はい、もう綺麗さっぱりと。」
「そうか…それならいいんだ。」
「はい。」
「ああそうだ、今日は補習だ。忘れるな。」
「もちろんです。忘れてませんよ。」
「よし。くれぐれも遅れないように。」
「はい。」
そのまま、先生はどこかへ行ってしまった。なんだろう、傷の治りが早いのって、奇妙なことなのだろうか。」
ところ変わって、放課後。学校の近くの河川敷。橋の下に位置していて、薄暗い。
―ガスッ。
「オイ。」
「なんでしょう?」
で、僕はこんなところで何をやっているのかというと、掃除が終わって、体育の補習を受けるため、体育館に向かう途中、自転車に乗った素行よろしくない同級生に追いかけ回され、逃げていたらコンクリートの橋を鉄パイプで殴る、鈍い音に振り向いてしまい、早い話、これまた素行よろしくない三人(←ごっついのと、デブと、痩せていて、出歯な奴…もっと言うなら、昨日の先輩方である。)に絡まれているのだ。
「なんでしょうじゃねぇよブタ。昨日の傷どうした。」
ちなみに、僕を追いかけていた自転車の同級生は、僕が聞いたくぐもった音を聞くなり、さっさとどこかへ行ってしまった。
「ですから、起きたら無くなってたんですって、ほんと、綺麗さっぱり。」
カラカラカラ…。鉄パイプが投げ捨てられる。
「るせーよ。面白くねぇだろそれじゃ。ハゲ。」
ハゲは余計である。
「いや、痛かったですよ?もうほんと。気絶しましたもん。」
「んなこと聞いてねぇんだよダァホ。ほんと馬鹿か?」
「でも、ここってそんなに頭いいとこじゃなかったような気がします。」
「なぁ、こいつマジイライラしてくんだけど。殺っちゃう?」
「いいんじゃね?もう傷ねぇことだし、ボッコボコで決まりでしょ。」
「そうだな。どうせ明日、傷治して来んだろうからな。」
「やや、待ってくださいよ。痛いんですよ?」
ズドン。
ゴキッ!
ミシィ。
三発入れられた。どれも痛い。
「んなこと分かってんだよボケ。まだ足んねぇのか?」
「兄貴、あれでこいつの頭ん中、見てやりましょうぜ。」
「それ、いいねぇ。」
「でもさすがに死ぬんじゃないですか?まずいっしょ、そうなったら。」
「バレねぇようにしなくちゃな。まぁでもこんだけやっても何も言われねぇんだ、もう何やってもよくね?」
「ひぇー。兄貴怖いっすねー。」
すっごい怖い。だってこの人たちコンクリートブレーカー見てこんなこと言ってますもん。死ぬ。さすがにそれは死ぬ。
「あの、僕、体育の補修があるんですけど、受けに行っていいですか?」
「お前馬鹿。頭大丈夫か?」
「一応、まともなつもりです。」
「いや、冗談だろ、ホントマジいらつくわ。」
「やっちゃいますかぁ!」
「殺っちまうか。」
ゴロツキ共が寄ってくる。もちろん逃げる。
―ガシッ。
捕まってしまった。早くもつんでしまったようだ。このままだと僕は頭を粉々にされてあの世行きである。もう地獄行きの汽車の音が聞こえた気がする。ボォォォォォォーって。ん?あれ?なんか…聞こえる?
ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…。
「先輩。あれ…、一体なんでしょうね?」
「なんだぁオイあれ!?馬鹿か!?なんでお前そんな冷静なんだよ!」
「仕方がないじゃないですか。俺、もう漏らしちまって…スッキリしちゃいました。」
「てめ、近寄んじゃねぇ!クソ!どいつもこいつも!」
「―どいつもこいつも、アタシの下僕にちょっかいかけて。」
僕は見ていた。ゴロツキ共の不意を付くかのようにして現れた、空飛ぶピンク色の汽車から、颯爽と飛び降りてくる人影を。そして、その人影が手近なところにいた人物のサングラスを奪って猛スピードでこの場へ走ってくるところも。
「美冬さん…!」
「んだてめぇ!どっから湧いてきやがったこのアマ!ふざけた格好しやがって!」
たしかに、突如として現れた美冬さんの格好は露出が多い気がする。肩なんか全部出てるし、胸元に至っては∧型の布が体に巻くつくようにして首から胸元までを隠しているだけで、赤色と金色が基調の色使いと相まって、まるで特撮の衣装のようだ。
「アタシは天使よ。おわかり?」
格好よくサングラスを外し、投げ捨てて言う。サングラスは見るも無残に音を立てて砕けた。
「なめてんのか?テメェ…。」
「あんた、ずいぶんの生意気言ってくれるじゃない。人間のくせに。」
スッ…。美冬さんの指が、しなやかにゴロツキの一人の喉元を撫でる。
「なっ…!てめ、いつの間にこんなに寄ってやがった!」
「ふふん。天使はこんなこともできちゃったりするのよ?」
言って、目にもとまらぬスピードで、足を前に振り出す。鞭のようにしなった足が、足先を先程のゴロツキめがけて振り出し、その厚い胸板を捉える。瞬間、その大きな体躯は浮き上がって、そのまま地面に落下した。
ドサァァァァァァ!
「カ…カハッ…。グッ…てぇめぇ…。」
「兄貴ィ!」
「あんたたち、こいつの連れなワケ?」
「はいぃ。」
「ちょっと来なさい。」
「へ…へぇ…。」
「行くんじゃねぇ!こっち来い!」
「兄貴…でも…。」
「ビビってんのか?奴ぁ女だぞ?」
「兄貴…でもこの人天使だって…。」
「うんうん。よくわかってるなー。」
「騙されてんじゃねぇよ!てめぇら馬鹿か!?」
「騙すわけないでしょ。アタシ天使だって言ってるでしょ。」
ボコッ。
「兄貴!」
「もうあんたいい加減降参したら?」
「フゥー…フゥー…。」
「兄貴ィ!ちょ、天使さんホント勘弁してくださいよ!」
「じゃ、あんたたちこの子に何しようとしてたの?」
「えぇ…。えと…。」
「じゃあそのへんにほっぽり投げられてるそれ、あんたそれ持ってたわよね?それで一体何しようとしてたの?」
「い、いや、あれは本気でしようとしたんじゃないんですよ?ただ…。」
「そうです!本気じゃないです!俺たち、俺たち、 そ、そう!あいつに無理やりさせられてたんス!」
「ふぅん。」
美冬さんの口元が不気味に釣りあがる。整っていた唇が歪み、それはまるでほほえみのようにも見える。
「だから、あいつが全部悪いんス!もう、全部!」
「あいつ、最低っすよね…。」
美冬さんがゆっくりと口を開き始める。途端、場の空気が重くなり、その場の人間を凍りつかせる。そして、小さく呟いた。
「―下衆。」
ゴッ!
鈍い音と共に、一人の巨体(←デブ)は吹き飛び、出っ歯の男は地面に叩きつけられた。
ガスッ。マギッ。ゴヅン。ドッ。
鈍く骨を削り、鋭く肉を穿つ、強烈な暴力の嵐。ゴロツキ二人の体は、瞬く間にボロ雑巾のようにくしゃくしゃになり、くずおれる。
「ウェェェェェ。」
「ガァッ!ア゛ァァァァァ!」
ボトボトボト!地面に二人分の吐瀉物が広がり、自らの吐瀉物の臭いにむせ、また吐き出す。ひとしきり吐くと、二人はボロボロの体を引きずり、すぐさま帰ろうとした。
「待ちなさいよ。」
「嫌だ…離れてくれ…もう、もう死んじまうよぉー…。」
「そりゃああんなもの頭に当てたら、死んじゃうわね。」
転がっているコンクリートブレーカーを見て言う。
「あれは冗談だって言ってるじゃないですかぁ?。もう、勘弁してくださいよ…。」
「ふぅん。じゃあんたたちでケジメつけなさい。言っとくけど、そんなんじゃ全然だってことわかってるわよね。」
「はい…。わかってます。わかってますからもう勘弁してください…。」
ズルズルズル。体を引きずるようにして、二人が僕の方へやってくる。
「俺たちが…俺たちが悪かったんだよぉ?。許してくれ…許してくれぇ…。」
「悪かった。悪かったよぉ…。もうこんなことしねぇから許してくれぇ?。」
「テメェ等ぁ!」
「アニキも謝ってください…。じゃねぇと…。」
「アァ?バァアカ。俺が謝っかよ。こいつがワリィんだよ!」
「「兄貴!」」
「まだそんなこと言ってるわけ?もう降参しなさいよ。いい加減。」
「知るかぁ!女じゃぁわかんねぇのか?アバズレ!この世界はなぁ全部勝ったやつのもんなんだよ!女も、金も、土地も、命だってなぁ!…俺は勝ったんだ。俺はこいつに勝ったんだよ。何もかもなぁ!だから全部俺のもんだ。何かワリィことでもあっかぁ!」
「平気で人に勝ったとか、言うんじゃないわよ、タァァァァァァコ。」
―ズン。…ドサッ。
美冬さんから放たれた回し蹴りの一撃は、残酷にも腸を捉えた。男は倒れ伏し、動かなくなった。後から糞便が尻からしみでて、制服のズボンを汚した。口からもドロドロと胃液と血が混じりながら流れ出て、河川敷の草原に広がった。まるでそれは口から膿を吐いているように見え、不快になり、吐き気をもよおした。
「大丈夫?」
「ありがとうございます。心配には及びません。ところで、美冬さんは今日の用事はもう済んだんですか?」
「あんたあったま悪いわねー。そんなんだから絡まれるんだっ」
「はにゃしれくらさい、いひゃいれすってはー。」
グイグイと頬を引っ張られる。
「あんた…ほんとわかってる?」
「うわっ。急に離さないでください。」
「わかってるの?」
「何をですか?」
「とぼけてんじゃないわよね。」
「はい…。突然どうしたんですか?」
「あんた…それじゃ―」
「―ああそうだ。お礼言ってませんね。助けてくれてありがとうございます。それにしても、どうしてここに?」
「…もういいわ。アタシ、隠すのやめた。アタシの用事はね、あんたを監視することだったの。」
「監視ですか?そんな、僕普段は見向きもされませんよって言ったじゃないですか。初めて会ったときに。」
「見向きもされないほうがマシじゃない!ボロボロになって帰ってきたかと思えば、今度はあんた、死なされるとこだったのよ!」
「そんな、あの人たちそんなことするんですか?適度にやり過ごしてたじゃないですか。」
「適度であれなら文句ないわよ。でもあれは間違いなく度を越してるわ!いい加減にしなさいよ!あなた、アタシが居なくて死んじゃったらどうするつもりなのよ!」
「別に、誰も気づきはしないでしょう。僕、駄目人間ですから。」
「??!」
美冬さんの眉が見る見る間に釣りあがる。あれだけ暴れても息さえ上がらなかった彼女の肌が、どんどん赤くなっていく。
「もうあんたの都合なんてどうでもいいのよ!あんたはアタシの下僕なの!だからあんたは勝手に傷ついたり、死んだりしちゃいけないのよ!わかってんの?」
突然激昂される。はっきり言ってよくわからない。
「もうあんたに傷ついて欲しくないのよ…。ここまで言わなきゃわかんないの?」
「…僕は、下僕ですけど、下僕って奴隷ですよね?なら、別に―」
「あんたじゃなきゃ嫌なの!あんたにしか出来ないのよ!」
「…そうですか?」
「そうなの!だからアタシのものになりなさいっ!」
そう言って、美冬さんは駆け寄ってくる。そして…。
ムニュ。
「!」
顔全面に受ける暖かくて柔らかな感触。僕よりもずいぶん背の高い美冬さんが、僕を抱きしめている。要するに、グハッ。
「もうあんたはアタシのものなの。誰にも壊させやしないわ。絶対。」
「美冬さん、苦しいです。離してください。僕補習あるんですよー!」
「…気にすんなっ。」
「そんな!単位落としたらまずいですよ。」
「うっさいハゲ。あんたこんな時もまだ補習とか言ってられんの?呆れた。」
「仕方がないじゃないですかぁー。」
「じゃ、アタシが飛ばしてあげる。」
「へ?」
美冬さんは僕を抱きしめたまま、目を閉じる。すると、光が僕を包み込み、そして―
「えぇ?」
―光がなくなると、僕は体育館にいた。
「おお、やっと来たのか、大豆生田。全く、もう来ないかと思って0点にするとこだったぞ。」
「すみません、松浪先生。ちょっと、わけあって遅くなりました。」
「いや、気にするな。じゃあ早速、補習始めるぞ。」
「はい。」
なんとか補習には間に合ったようだ。松浪先生と美冬さんに感謝である。体育館には西日が差し込んで、床には影と四角いオレンジ色の鮮やかな模様が描かれていた。僕の顔も、西日に照らされて、明るくて、暖かくて、とても心地よかった。そうだ、美冬さんに聞くの忘れてたな…。
「僕って禿げてるのかな…。」
毎回ハゲって言われるから、どうも心配になってきた。
セイントターミナル(第四回)―天使の持ち物はくれぐれも手荒に扱ってしまわぬようお気を付けください―
次回、ついにたどり着きます。今作の題材的な物に。長かったです。今回も例に漏れず、訳わかんないですねw
追記:
先日、学校でどなたかの落とし物を拾いました。周辺の人に聞いてみたのですが、持ち主は分からず終いだったので、ありがたく頂戴いたしました。ちょうどなくて困ってたんです。手帳につける、小さいシャープペンシル。…これは泥棒ですか?
さいごに:
皆様からのより多くのご意見・ご感想をお待ちしております。なにかといたらない点ばかりでごさいますが、最後まで御付き合い頂き、光栄至極に存じておりますので、もうひとつ、お手間をいただき、わがままにお付き合いください。