zoku勇者 ドラクエⅨ編 56
拒まれた再会
「さあ、これでもうお孫さんは大丈夫の筈ですよお……」
「お、おおお!熱が、孫の熱が下がっておるっ!おお、おお、
おおおお!」
ジャミル達はマル爺さんの家におり、ダウドのマル爺さんの孫の治療を
見守っていた。決死の魔法連呼により、40度近くあった孫の熱もすっかり
下がっていた。爺さん、嬉しいのは分かるけど、おおおお言い過ぎだと
ジャミルは思う。
「ああ、有り難うございます、ダウドさん、皆さん……、本当にどう
お礼を言ったら良いのか……」
母親は容体が落ち着き、ベッドですやすや眠る自身の子供の姿を見て
涙を流す。だが、この人も、ジャミルが最初にこの村に流れ着いた
当初は冷たかった。教会の集まりでジャミルも呼び出され、色々話を
させられた時、ブーイングを垂れていた村人達の中に姿を確か見掛け
たのである。……やっぱ、変れば変るなあとジャミルは思うのだった。
「さあ、次はアーレー山だったな、ここん家の大黒柱救出だ、
急がねえとな!」
「……ふぁああ~い……」
爺さんと孫の母親は、全力でMPを出し切り、孫の命を救ってくれた
ふらふらのダウドの姿を見て、もう少し休んで行ってはどうかと心配
してくれたが、一刻を争うからと、お礼だけ伝える。アーレー山は毒系の
モンスターが多いらしく、爺さん達はジャミル達に大量の毒消し草を
持たせてくれたのだった。
「どうかお気を付けて……、主人の事、どうぞ宜しくお願いします……」
「すみませんのう、ご迷惑ばかりお掛けしてしもうて……」
「アーレー山は確か村から北の方角って聞いたな……」
村を出て、山へと急ぐ。処が、頂上へと急いで登ろうとする過程で、早くも
人が倒れている光景を目撃する……。
(ジャミ公、あそこ……、誰か倒れてるヨッ!早速モンスターにやられた
みたいネ!)
「あの人がそうみたいだな……」
「う、うう……」
倒れていたのは傷だらけの男性……。まだ微かに動いている。うめき声を
上げて……。
「お爺さんの息子さんかしら……?」
「とにかく行こうぜ!おーいっ、大丈夫かっ!?」
急いで男性に駆け寄り状態を確認。生きてはいたが本当に酷い傷である……。
ダウドにもう一踏ん張りして貰い、男性へとベホイミを掛け捲った……。
「……わ、私は……」
男性もどうにか意識を取り戻した。男性は助けに来てくれたジャミル達を
見て、最初は不思議そうな顔をしていたが、自分の状況に気づくと
安心したのか、涙を零した。やはりこの男性は山に上薬草を求めて
入ろうとした、マル爺さんの息子で間違いは無かった。
「……そうだったのか、君達が……、子供の命を救ってくれた
ばかりか、私まで……、有り難う、有り難う……、本当に……、
うう……」
「さあ、あんたも急いで村に戻ろう、もう何も心配はいらねえんだ……」
「そうですよお!」
ダウドもほっと一安心。男性も直ぐに発見する事が出来、これ以上山に
登る必要も無くなったからである。……だが……。
「私の事も助けて貰って本当に感謝しているよ、だがね、もう1人……、
この山に私が丁度此処に来た時に、人が登って行くのを見たんだ……」
「な、何ですと……?」
「何だか、その人もとても酷い傷だったよ、それでもヨロヨロと山を
登っていったんだ……」
ジャミル達は顔を見合わせる。他にも何か目的があって、この山に
登ろうとした命知らずがいたらしいが……。やっと村に戻れると
思ったのに、また話が拡大しそうでダウドはカンベンしてよおお~と、
言う表情になった……。
「他に誰が出動したんだか知らないけどさ、其処まで赤の他人に
関われないよお~……」
「……駄目よ、そんな事言っちゃ!」
「だって、登るのはその本人の勝手じゃないかあ!オイラ、これ以上……」
アイシャに宥められるが、ダウドは今日はこれ以上の節介部隊の活動は
したくない様で口を只管尖らせている始末。ダウドの頭の上にいるモンも
ダウドの機嫌が宜しくなくなって来た為、困っている……。
「私もそんな酷い傷ではと思って、何とか呼び掛けてみたんだが、
聞こえない様でね……、でも、微かに小さい声で……、仲間を助けに
行かなくちゃ……と、私には聞こえたんだ……」
……男性の話を聞いている内に、何故か段々ジャミ公も不安になって
来たのである。そして、思い切って聞いてみる事に……。
「あのさ、その……、山に登って行ったって言う奴の容姿、
覚えてないかい?」
「……そうだね、後ろ姿だけ追い掛けていたから、うっすらとだけど……、
金髪で小柄の少年だったなあ……」
「……金髪で、小柄……」
その言葉を聞くだけでジャミ公はガクブル震えて来た……。しかも、
仲間を助けに行くと呟いていたらしき、糞真面目な台詞……。どう
考えても……。
「……山に登っていったのは、アルだ、絶対……」
「ま、まさか……、でも……」
「モォ~ン……」
「ちょ、ちょっと待ってよおー!もしかしたら人違いって事もあるかも
じゃん!そうしたら二度手間だよおー!」
「……けど……、やっぱり……」
「ジャミル……」
考え込んでしまったジャミルの姿にアイシャもハラハラしてくる……、と、
同時にもし、山に登って行ったのが本当にアルベルトだったらと思うと、
胸に希望が溢れてくる。
(アタシは別にどっちでもいーよ、どっちみちこっから出ないし、
アンタらに任せてるから!)
「モ~ン……」
「ダウド、やっぱり俺は確かめたい、でも、今日はオメーにも
頑張って貰ったしな、だから、おっさんを村まで送って行ったら、
そのまま待っててくれて良いぜ、アイシャ達もさ、俺はこのまま
アーレー山に登って行った奴の後を追う……」
「……え、ええーーっ!?」
「私も行くわ!山に登っていったのは絶対にアルよ!そう信じるわ!」
「アイシャ……、ああ、何が起きてるのか俺も知りたい、この先何が
待ち受けてるのかもな……」
「モォ~ン!」
「モンちゃんも一緒に行こうって言ってくれてるのかしらね、
行きましょっ!」
「はあ、しょ~がないなあ~、分かったよ、……オイラも行くよお!!」
「ダウド……、ありがとな、よしっ、皆で行こうぜ!」
こうして、ジャミル達はこのままアーレー山の探索を続ける事に決めた。
もしも……、山に登って行ったのが本当にアルベルトなら、彼の身に一体
何が起きているのか、何故傷だらけの身体で1人、危険な場所へと踏み込んで
行ったのか、呟いた言葉の真相とは。謎は深まるばかりである……。しかし、
そんなジャミル達を影から見つめている者が……。
……ジャミル、これ以上お前に希望を持たせる訳にいかん、能の無いお前は
絶望と言う言葉の意味を思い知るが良い、此処が貴様の最後だ……、お前達は
朽ち果てて醜い骸となれ……
マル爺さんの息子をナザムに送り届けた後、再びアーレー山へ……。
ダウドも疲れ切っている様であったが、今日、何とかもう一踏ん張り
頑張って乗り切ってくれよとジャミルは強く思う。
「よし、アルを追い掛けるぞ!」
「完全にアルだと思ってそう割り切ってるんだね、もしも
違った場合……、いや、何でもないよお……」
殴られると思ったのか、ダウドは押し黙る。だが、ジャミルは
普通にダウドに、違ったら違ったでいいじゃねえかと言っておく。
疲れている為、ダウドの愚痴も次々と出て来る。だが、今日は
頑張ってくれた手前、ジャミルも怒る訳にいかず、ヒクヒク、
只管堪えていた……。
「今、何合目ぐらいなのかなあ……」
「まだ半分も進んでない感じがするわ、途中でアルと何とか
合流出来れば……」
「……残念だが、お前達は此処で終了だ……」
「ハゲ……、イ、イザヤールっ!!」
翼の生えたハゲ……、ではなく、元天使のイザヤール……。
ジャミル達の前に再び姿を現す。何者かに黒い忠誠を誓い、
天使界を裏切った彼は、よもや堕天使と化していた……。
イザヤールは翼を広げるとジャミル達の前にゆっくりと降り立った。
「相変わらずその口の悪さは治らぬか……、しかも未だ翼も輪も
失ったままとは、流石不毛の弟子……、どうだ?今からでも考えを
改めぬか?お前の考えさえ変れば、又私の処で鍛え直してやる事も
可能だぞ……」
「ふざけてんじゃねえぞっ!誰がもうテメエの所なんか弟子に
行くかっ!」
「そうよっ、あ、あなたの所為でモンちゃんは……」
「モン~……」
モンはダウドの頭にしがみつきながら、悲しそうな声を出した。
一度斬られた事がトラウマなのか、身体も震えている……。ダウドは
モンから喋る事を奪った目の前のイザヤールが憎らしくて悔しくて
腹が立つ。だが、自分ではとても太刀打ち出来ないのも到底
分かっていた……。
「不毛の弟子よ、私はお前に問う、もう一度聞こう、私の元に来るか?
それとも……」
イザヤールはジャミルに聞く。お前はどうするのかを。それとも……、の、
後に続く言葉を伝えればどうなるかなど、結果は分かっている。だが、
ジャミルが大人しく言う事を聞く筈が無し。
「俺がアンタに言う言葉はこれだけだ、……ふざけるな、このハゲっ!!」
「……そうか、理解した……」
「っ!」
イザヤールは静かに頷く。だが、その表情には怒りに満ちている。
ジャミルは身構え、再び死闘となるのを覚悟した……。が……。
「それが貴様の答えか、良かろう、不毛の愚かな弟子、ジャミルよ!
……お前達は此処で死ぬまでこいつらと遊んでいろ!」
「……!?え、あ、あっ!!」
イザヤールは自らジャミル達を相手にする事もなく、再び翼を広げて
飛び立つ。……素晴らしいお土産を置いて……。
「きゃーーっ!?な、何よこれーーっ!!」
「ボストロール集団だよおおーーっ!!」
「……ふざけんなあーーっ!!あんの糞ハゲーーっ!!」
イザヤールは自分と同系の頭がハゲモンスター、ボストロールを大量に
召還して行った。ジャミル達はデブでハゲの糞凶悪系モンスターの大群に
追い詰められる……。だが、此処で怯んでいる訳に行かなかった……。
「なろお~……、んな処で足止め食らってる訳に行くかっつーのっ!
行けるか?お前ら!」
「大丈夫よ、頑張りましょっ!」
「……う~、何でまたこうなるのさあ~……」
「モ、モン~……」
(……ア、アタシは知りませんよッ!だってか弱い乙女だし、何にも
出来ないし!)
一方のイザヤール。ある思惑が有り、山頂目指し飛んでいた。自ら相手を
する事もなく、ジャミル達を足止めしたのもちゃんと理由があった……。
彼らを山頂まで行かせない為、ある人物を出迎えする為であった。
「……イザヤール、僕は此処にいる、逃げも隠れもしない!さあ、仲間を返せ!
ジャミル達に会わせて貰おう!!」
「ほう、その身体できちんと来たか、人間にしては優秀だな、不毛の
馬鹿なアホ弟子と違ってな……」
山頂に姿を現した人物……。消息不明の最後の一人、アルベルト
だった。やはり、ジャミル達よりも先に山頂に登っていったのは
彼だったのだった……。だが、その身体は墜落した時、負った
大怪我を抱えたままだった。そして、イザヤールもアルベルトの前に
姿を現す……。
「アルベルトと言ったかな?……素晴らしい、本当に人間に
しては中々やるな、何処かのゲスなクズの下級天使と違って……、
私はお前の様な戦士を探していた、人間であろうと構わん、
どうだ?我が信じる帝国の為……、力を貸してくれまいか?」
イザヤールはアルベルトに近づいて行く。……ゆっくりと。だが、
アルベルトも必死で力を振り絞り、武器を構える……。
「……ふざけるなっ!早くジャミル達に会わせろっ!何処に
連れて行ったんだっ!!」
「だから心配せずとも良い、その為に君を呼んだのだ、わざわざこの山にな……」
「……!?あ、ああっ、皆……!!」
アルベルトの目が途端に潤みだした。イザヤールが隠していたジャミル達を
目の前に召喚させた。だが、目の前にいるジャミル達は……。
「……ジャミル、アイシャ、ダウド……、よ、良かっ……、でも、
酷い傷だっ!!待ってて、今行くよっ!!」
「待て、近づくな……、近づけばこいつらの命はないと思え、人間よ、
お前は私には逆らえない、決して……」
「……や、やめろおおーーっ!!」
アルベルトは自分の身体もボロボロなのを忘れ、卑劣極まりないイザヤールに
向かって必死に叫んだ……。イザヤールが3人に向かって魔法を放出しようと
したからである……。イザヤールはそんなアルベルトの様子を見て、不適な
笑みを浮かべた……。
「まずは落ち着け……、その身体を休めるが良い……」
「……な、何……、を……、あ、ああ……」
「ふん、やっと大人しくなったか……」
アルベルトはその場にばったり倒れる。イザヤールが魔法で
眠らせたのである。
「残念だが、お前達はもう永久に再会する事は出来ぬ、人間の小僧、
その力、貸して貰おうか、ジャミル、もし貴様が此処から生きて出られた
その時、敵となったかつての友と涙の新しい再会を果たすが良い……」
イザヤールは偽物のジャミル達を再び消すと、気を失っているアルベルトを
抱え、自らも姿を消した……。
その頃……、頂上で起きている真実を知らないまま……、ジャミル達は
ボストロール集団に瞬く間に追い詰められていた……。
「畜生、1匹だけでも厄介だってのに、こんな……糞みてえに
集まられたら……!」
「でも、頑張らなくちゃ!……無事にアルと再会する為にも!」
「も、もうムリ……、オイラ絶対ムリ!あ、あーーっ!?」
「ダウドっ!んなろーっ、待ってろっ!!」
また弱気になってしまったダウド、ボストロールの1匹に痛恨の一撃を
食らう……。何とか1匹は仕留めたのの、後、5体のデブが蔓延っている
状態である……。
(な、なんか……、今回は流石にもー駄目って感じしてきたんです
ケドお~……)
「はあはあ、わ、私のMPもいつまで持つのかしら……、でも、
諦めないんだから!」
アイシャも目の前のボストロール達を睨んで見据える。辛い戦いだが、
何としても、切り抜ける覚悟でいる、それはジャミルも同じだったが……。
「モン、……モォ~ン……」
「モンちゃん、大丈夫よ、すぐに終わりにするからね、待ってて!」
アイシャは切なそうに声を出し、戦いを見守っているモンに優しく
声を掛ける。だが、モンにはある不安を感じている事があり、それを
ジャミル達に何とかして伝えたいのだが、もう言葉を喋れない為、悲しく、
歯がゆい思いをしていた……。
(アルベルト……、アルベルトが行っちゃう、此処から遠くに
行っちゃうモン……、嫌、嫌モン……!)
「……モン……、モォォーーンッ!!シャアーーッ!!」
「モン……?」
「モンちゃん、どうしたのっ!?」
(ちょ、……デブ座布団うるさいわヨッ!遂に狂ったワケ!?)
(モン、此処はモンが行かないと、みんな、待ってて!……モンッ!!)
「あ、おいっ!……モンーーっ!!」
ジャミルが必死で呼び止めるが、モンは宙を飛び、何処かへ行って
しまったのである。急いで後を追い掛けたいが、こんな状況の中、
動ける筈が無く、ジャミル達は益々大混乱に陥る……。
「サンディ、頼むよ、今はオメーしかいねえんだ、モンの後を急いで
追ってくれっ!……っと、いい加減にしろっ、このデブっ!!い、今なら
まだ間に合う筈だっ!!」
「マジ、ジョーダン言わないでヨッ!……何でアタシがっ!?」
「……くうっ!しつけーなっ!」
ジャミルは襲って来たボストロールの身体をヴァルキリーソードで
切り裂く。残り後、4体程度だが……、疲れてもう限界に近い状態で
あった。アイシャも……。サンディは切れて、ジャミルの中から飛び出し、
妖精モードに戻るとギャーギャー抗議……。
「サンディ、お願い……、もう私達、これ以上離れ離れになるのは
嫌なの、それはサンディだって分かってる筈よ、私達、仲間なんだから……、
友達なのよ……」
サンディは目に涙を浮かべながらもボストロールと戦い続ける
アイシャの姿を見て、何も言えなくなった。そして、仕方なしに
覚悟するのだった。
「分かったわヨッ!でも、また借りだかんねッ!バカバカバーカっ!!」
悪態をつきながらもサンディはモンの後を追ってくれた。此処は
サンディを信じ、任せるしない。自分達はこの場でボストロールを
始末しなければならないのだから……。
「……一刻も早く、新たな戦力を帝国へ……献上しなければならん……、
むっ?」
「ウシャシャのシャーー!!」
空を飛び、アルベルトを抱えたまま、イザヤールは只管何処へと
急いでいた。だが、妙な気配を感じ、空中で止まって後ろを振り返る……。
モーモンである。カオス顔の変な顔のモーモンが後を追って来て
いるのである……。
「……貴様……」
「シャアアーーッ!!」
「そうか、お前はジャミルの連れか……、何故邪魔をするのだ、だが、
あの時私が殺した筈だが……、そうか、やはり女神の果実の余計な力を
得ていた所為か、成程……」
自分に牙を向け、雑魚の癖に生意気にも自分へ刃向かってくるモーモンに
イザヤールは妙な不快感を覚えた。何故、こんな何の知能も持たん、只の
雑魚モンスターが、人間の為に動こうとしているのか……、これも果実から
得た物なのだろうか、段々興味深くなって来ていたのだった……。
「ガルルル……、ウシャ~……」
「……まさか、この少年を取り返しに来たとでも言うのか?……馬鹿な、
まあ、何でもいい、今度こそ始末してくれよう、哀れな雑魚が……」
「ハア~、もう~、デブ座布団、何考えて……あ、アレって、まさかッ!?」
サンディも遂に目撃する。イザヤールに抱えられたまま、意識のない
アルベルト……。そして、イザヤールと空中で睨み合ったままの
モンの姿を……。
「……もしかして、デブ座布団、アルベルトを助ける為に……?た、
大変っ!早くジャミ公達にっ!でも、間に合わないヨッ!このままじゃ
デブ座布団も……、あ、あのハゲ親父……、本気でデブ座布団に殺意
向けてるし!?……モーッ!!」
サンディは急いで発光体に戻ると、気づかれない様にイザヤールの側に
近づいた。此処は何とかして、アルベルトの目を覚まさせる事が先決だと
思ったのだが……。
(たくッ、呑気にねてんじゃねーってのヨッ、世話が焼けるんだからッ!
でも、どうしよう~!どーすればいいのよう!こら、起きろーーっ!)
サンディはアルベルトの耳元で叫んでみるが、駄目である……。だが、
逆にイザヤールの方が発光体のサンディの気配に気づいてしまったの
だった……。
「どうやら……、此処にもおかしな虫がいる様だが……?」
(……ヤ、ヤバーーッ!あわわわっ!……ギャーーッ!?)
サンディは慌て、発光体のまま急いで逃走しようとするが、イザヤールは
もう片方の手で、軽々と発光体のサンディを捕まえてしまったのだった……。
「偵察か、これも奴の差し金か……、クソ虫が、握り潰してくれよう……」
(だから嫌だって言ったのにーッ!うう~、ジャミ公のアホ~、死んだら
化けて出てやるんだからネ~!……ううう~……)
「シャアーーっ!!」
「!?う、うおっ!!こ、この糞がっ!!」
(た、助かったしー!……ケド、も、もーイヤーーッ!!)
モンのイザヤールへの決死のハゲ頭への頭突き……、イザヤールは慌て、
サンディを手放し、サンディは慌てて逃走する……。そして、アルベルトも……。
「……あ、あれ?僕……、どうし……、あれは……、モ、モンっ!?」
「くそっ、魔法が切れたかっ!……おのれっ!!」
アルベルトは目を見張る……。自分の意識がない間に、一体何が
起こっているのか……。目の前でイザヤールと対峙しているらしき
モンの姿に戸惑いと驚きを隠せず……。
「……イザヤール、これは一体どう言う事なんだ!?説明してくれっ!!
……モンっ!!」
(アルベルト、大丈夫モン、すぐにモンが皆の処へ……)
「そうか、雑魚でも覚悟があると言う事、やはりその感情とやらも、
女神の果実から与えられた物か、だが、我が帝国……、……邪魔を
しようと言うのなら、私も全力で駆らせて貰おう、今度こそ……」
「イザヤールっ!!……あっ!?」
「君は其処で暫く大人しくしていて貰おう、邪魔をするな……」
アルベルトはイザヤールの出した球体の中に閉じ込められた。蹴っても
殴っても割れない球体の中で、宙に浮かんだまま、アルベルトはじっと
しているしか出来なかった……。
「く、くそっ、どうすればっ!このままではモンがっ!!」
「……一つ、言っておこう、長く壮大なこの星の歴史の中で、表で
知られている歴史が正しいとは限らないのだ、君はあの連中の中でも
特に頭が良いのだろう、正しい真実を見極めよ、……少年よ……、何が
正しくて、何が間違っているのかを……、な……」
「な、何を言って……、イザヤールっ!!」
「……雑魚があーーっ!散れっ!!」
「モンーっ!!……や、止めろおーっ!」
「あああ、ヤバい、ヤバいっしょ、マジでコレ……、もしも、ア、アタシが
戻ってジャミ公達に伝えに行っても、あの状況じゃ間に合わないだろうし、
ココまで連れて来る方法分かんないしだしー!もー、どうすりゃいいっての
よっ!こーなったらっ!!」
イザヤールは今度こそ本気でモンを始末しようと、モンに殺意を
向けたのである。有りっ丈の波動を連続で出し、モンにぶつけようと
するが……。
「……仕留めたか……?」
「モ、モン……、……ああっ!?」
「ウシャーモンっ!!」
「な、何だとっ!?」
だが、モンはへこたれず、煙と共に勢いよく飛び出す。これは
ある意味、相棒から受け継いだ精神とガッツかも知れなかった。モンは
カオス顔になると、イザヤールに向かって再び飛び掛かって行き、頭突きを
噛ました。イザヤールは思わずよろける……。
(……諦めないモン、絶対にっ!!)
「こ、このっ!雑魚めがっ!……何処まで人をおちょくるかっ!いいだろう、
多寡が貴様の様な雑魚モンスター如きにこの私の本気の力を出させた事、
褒めてやろう……」
(知りませんモ~ン!)
……ブッ!!
モンはイザヤールに尻を向け、思い切り屁を放いた。そしてイザヤールから
少し離れた処まで飛んで行って後ろを振り返る……。
「……アアアアーーッ!!」
(来たモンっ!!)
イザヤールは怒りパニックでモンを追い掛けて行く。だが、これも
モンの作戦だった。自分が少しでもイザヤールとアルベルトを引き離す
事が出来れば、もしかすれば、僅かに彼が逃げるチャンスが生まれるかも
知れない、そう考えたのである……。だが。
「こ、このままじゃ、今度こそ本当にモンが……、でもっ、此処から
何とかして脱出しないとっ、く、くそっ!!」
「……アルベルトっ、アルベルトってばっ!ふう、何トカ、目ェは
覚ましたみたいネ……」
「サンディっ、来てくれたのかっ!で、でも、どうして……」
「バカっ!そんな身体でっ!アンタ1人、何であんな山に登って行ったのサ!
ジャミ公達、今、アーレー山で大変なコトになってんだからっ!アンタが
1人で山に向かったって聞いてサ、アンタを探しに行く途中であのハゲが
邪魔をして、置いてったモンスターの置き土産に、今、押し潰されそうに
なってんだかんネっ!?話すと長くなるんだけどサ、デブ座布団も色々
あったのッ!……ま、アンタのキキを感じて1人でココまで来ちゃった
みたいヨ……」
「ま、待ってくれ、サンディ、僕は……」
「エッ……?」
アルベルトの顔が真っ青になる。どうやらサンディの話に錯乱しているらしく……。
「ちょっ、何なのっ、お、落ち着いて、ちゃんと話しなさいヨ……」
「僕は……、地上に落ちた直後、目を覚ました後、僕の前に現れた
イザヤールはこう言った、仲間を……、ジャミル達をアーレー山の
山頂で預かっている、助けて欲しくば、お前の勇気を見せよ、1人で
取り返しに来いと……」
「……エ、エエーーッ!?」
「それに、僕は見たんだ、イザヤールに捕まっているジャミル達の姿を……、
その後だった、意識が無くなって、気がついたら此処に連れて来られていた、
まさか……」
アルベルトは考える。そして頭の良い彼は瞬時に理解した様だった。
イザヤールの目論見、自分と本物のジャミル達を逢わせない様にし、
引き離す為の罠だったのだと……。
「サンディ、頼むっ、力を貸してくれっ!このままじゃジャミル達も
モンも危ないっ!まずは何とかして此処から出ないとっ!う、うう~……」
「暴れちゃダメだよっ!アンタまだケガしてんだからっ!それに今、
此処でこの球体割れば下に真っ逆さまだよッ!落ちちゃうでしょッ!」
「……サンディ、それでも僕はっ!……皆に……会いたい……」
「アルベルトぉ~……、あっ、アンタっ!?」
「!?」
「ほお、やはり無理矢理に逃げようとしたか、だが無理だ、この結界球体は
私では無くては解除出来ぬ、残念だったな……」
「……デブ座布団っ!!」
「……モンっ!!イザヤールっ!!モンを放せっ!!」
再びイザヤールがアルベルトの前に姿を現した。だが、片手ではモンの
両耳を思い切り掴んだ状態でモンを拘束している……。モンはぐったり
しており、また完全に意識を失っていた……。
「余程、この雑魚モンスターが大事な様だな、一つ、取引をして
貰おうか、この……モンスターの命が無事であって欲しければだが……」
「モォ~ン……、モン……、ア、ア……、ル、ゥ……」
意識の無いモンから微かなうめき声が聞こえた……。アルベルトは一刻も
早く、モンを助けてやりたかった。だが、どうにも出来ず歯がみする……。
「……今度は一体何を企んでいるんだ……」
「やはり利口だな、お前にはもう私に従うしか道は残されていまい、
簡単な事だ、このまま私と共に帝国に来い、そして其方の力を貸して
貰おう、折角魔法戦士に転職したのであろう?……あんなバカで不毛の
元下級天使と共に行動するよりも、自分の力をもっと生かしてみたいとは
思わないかね?君の様な若く優秀な戦士が、……今の帝国には何よりも
必要なのだ……」
「……ぼ、僕はっ!!」
アルベルトが魔法戦士に転職した切欠は、トロい自分だから、
もっともっと……、大切な大好きな仲間の為に頑張りたい、成長したい、
強くなりたい、そう願った。……だから……。
「……お前達の為になんか……力を貸せるかあーーっ!!……うあああーーーっ!!」
「な、何っ!?テンションゲージで自ら球体を割っただと!?そんな
バカな事がっ!!」
「……アルベルト、ス、スッゲーんですケドっ!?」
「……イザヤールっ!お前だけは絶対に許さないっ!!」
アルベルトは剣を構え、空中にいるイザヤールへと突っ込むと、
連続ハヤブサ斬りを繰り出し、見事に命中させ大ダメージを
食らわせた。イザヤールは蹌踉け、反動で掴んでいたモンの耳を
手放す。アルベルトは落ちそうになるモンを受けとめると、
安心した様に静かに微笑み、自分の胸へと抱き抱える。だが、
直後自らも意識を失い、下へと落下して行った。……落ちた先は、
滝壺のど真ん中であった……。
「おのれっ、……く、くそっ、油断したかっ!?次こそはっ!!」
「……あっ、あのハゲ、逃げちゃったしっ!って、そんな場合じゃ
ないよッ!アルベルトーーっ!デブ座布団ーーっ!!」
滝へと落ち、流されて行った2人を探しに、サンディも急いで川縁へと
飛ぶのだった……。
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