zoku勇者 ドラクエⅨ編 54
希望求めて
「大丈夫さ……」
「モォ~ン?」
モンはジャミルの顔を見て首を傾げるが。そして、ジャミルはモンに
言葉を伝えた。
「例え……、もう会話が出来なくても、俺らこれからもずっとダチなのは
変んねえ、無事でいてくれて良かったよ、モン……」
「♪モォーンっ!モンっ!」
会話は出来なくても、気持ちと心はちゃんとモンには通じている。モンは
嬉しそうに再びジャミルの頭の上に飛び乗るのだった。
「よしっ、さあ、元気出してこうぜ!なあ、モン、やっぱり此処には
後はお前だけしか落ちて来なかったのかな……」
「……モォ~ン……」
「ま、まあ、大丈夫さ、お前が戻って来てくれたんだ、アル達だって
きっと無事さ!」
「モーン!」
「あ、ジャミル、又誰かこっちに来るよっ!ヤバッ!」
サンディは急いで発光体に戻り、ジャミルの中に消える。ジャミルは
頭の上のモンに、大丈夫だと安心させようとするが……。
「お前、まだこんな処をうろついていたのか……」
先に帰った筈の村長だった。モンはすぐに嫌な感じの奴と言う事を
悟り、大口を開けて威嚇しようとするが、ジャミルに慌てて止められる。
「あんたの方が先に帰ったんだから当たり前だろ……」
「フン、小生意気な余所者め……、早く戻って出て行く支度をしろと
言っているのだ、何を道草食っているかと思えば、そんな下らん人形と……」
「シャーモン、シャーモン……、ガル……」
「ま、俺もティルには世話になっちまったし、最後にちゃんと挨拶してから
此処を出たいんだ」
「……ティルなら教会を飛び出したまま、まだ家には戻って来ておらんぞ……」
「おっさん……」
ジャミルは村長の態度に呆然とする。ティルはあのまま教会を飛び出した
まま家には戻って来ていないと。なのに、村長は心配する素振りも見せず
表情一つ変えず平然としている。
「なら何で探しに行こうとしねえんだよっ!!……アンタいい歳こいた
大人だろうがっ!!ティルが心配じゃねえのかっ!!」
「本来なら余所者のあいつに其処まで赤の他人の儂が肩入れしてやる
必要もないだろう、何処にも行く当てなど無い癖にな、時間が立てば
根を上げて直ぐに戻って来る……」
「すぐ出て行こうと思ったけど、ティルは俺が探してくるっ!
冗談じゃねえぞっ!!」
「……まあ、その心意気には感謝しよう、だが今夜中に早く見つけて
来る様にな……、見つけたら直ぐに家まで送り届けてお前は明日には
出て行け……、あの黒竜はドミールの方角へ向かった様だ……」
「ドミール?」
「彼の地にいると言う、空の英雄グレイナルならいざ知らず、只の人間に
何が出来る、とにかくティルを見つけ次第、これ以上事が起こらん内に早急に
此処を立ち去って貰いたい物だ」
村長は後ろを向き、ジャミルの顔を見ないまま去って行く。
その態度に黙って話を聞いていたサンディも呆然。再び
ジャミルの中から飛び出して来る。
「もーッ!一体どんだケ、あの系等のクソ親父は地上に存在してんのサッ!!」
「シャアーーっ!!」
「ったくっ!此処で切れててもしゃーねえ、モン、大体話分かって
くれたか?俺がこの村に落ちた時に必死で助けてくれた小せえダチが
行方不明になっちまったんだ、手伝ってくれ、探しに行くぞ!!」
「モンっ!」
モンは分かったと言う様に頷く。モンも戻って来てくれ、希望が持て、
一刻も早く仲間達を探しに行きたい。だが、ティルの事もほおっておけない。
ジャミルは心の中で、アルベルト達に、もう少しだけ我慢してくれ、絶対に
探しに行くからと強く想いを馳せる。
「ケドさ、あのコ、何処に行ったか分かんの?」
「それは……、とにかく捜し捲るしか……」
「今夜中に間に合うの?」
口ではそう言うが、ジャミルは困り果てる。もしかしたら、村の外に
出て行ってしまった可能性も考えられる。この辺りの事はジャミルも
良く分からない為、困ったなあと……。
「……ん、ジャミ公、又アソコ、誰か話してるよ!墓標の側!」
「モンー?」
「何だ……?」
ジャミル達はそーっと近寄って行ってみる。お墓の側で話していたのは、
変な2人組。むさ苦しい髭面の剥げデブ男と、もう1人は細っちい体型に
出っ歯の男。どう見ても、こいつらも此処の村の者ではない。又お約束の
良く無い感じの余所者である……。取りあえず、此方も奴らがいる墓の側まで
そっと近づき、屈んで墓の後ろに隠れ、暫く様子を覗う事に……。
「取りあえず、いいカモがいたんだな……」
「ああ、丁度捕まえたガキを人質に取って村長からたっぷり身代金を
せしめてやらあ、へへへ……」
「……ティ、ティルっ!?」
「シッ、ジャミ公!」
ジャミルは思わず声を出しそうになるが、サンディに止められる。
あろう事か、ティルは教会を飛び出した直後、大人の村人達が教会に
集まっている隙を狙い、もぬけの殻になっている村に泥棒に来た盗賊と
運悪く鉢合わせ、何処へ連れて行かれてしまった様である……。
「畜生……、ティル……」
「で、でも、一体どーすんのヨ……」
「モン~……」
この事をあのクソ村長に通報した処で、村長が動く筈がないからである。
下手をすれば、余所者であるジャミルは又疑われて、嘘をついているん
だろうだ、なんだと、疑うのも分かっていた。このまま自分が動いて
ティルを助け出すしか、だが……。
「でな、もう1人捕獲したあの赤毛の団子頭の娘っ子の方だがよ……」
「ん?赤毛の?……!!」
「気絶したまんま、一行に目を覚まさねえんだよ、ま、好都合だったがな、
あの糞ガキと一緒にふん縛って森の方へ連れ込んでおいたぞ」
「……ア、アイ……もがっ!!」
ティルと一緒に連れて行かれたと言う赤毛の団子娘。間違い無く、
アイシャの事である。恐らく、墜落した時に意識を失ったままの
状態で盗賊達に捕まったのだろうと思われ。……又大声を
出しそうになったジャミルの顔に、モンが慌てて張り付き、
阻止したのである。
「静かにしてなさいってのッ!あ~、もー、何てコトなん……」
やがて盗賊達は去って行き、モンはジャミルの顔から離れる。ジャミルは
大きく息を吸うと大慌てで錯乱し始める……。
「森方面だっ、其処にアイシャもティルもいるっ!行くぞっ、サンディ、
モン!」
アイシャを浚った事は確かに許せない。だが、今回アイシャの居場所が
分かったのは、盗賊共のお陰でもあった。少しだけだが、アイシャを
捕まえていてくれた事に感謝するジャミ公なのであった。……少しだけ………。
「よしっ!」
ジャミルは煙たがれるのを覚悟で目に付いた家のドアを叩いてノックする。
案の定、嫌げな顔をしたおばさんがドアを開けた……。
「あんた、さっきの……、何の用だい?」
「頼むよ、ここら辺で森がある場所を教えてくれないかな!?急いでんだよ、
頼む!」
「……ふざけるんじゃないよ、図々しいね、余所モンが!」
「お願いだよ、……この通りっ!!大事なダチを助けに行かなくちゃ
なんだよ!!」
「モォ~ン……」
(ジャミ公、アンタ……)
ジャミルは恥もプライドも捨て、おばさんの前で土下座をし始めた。
ジャミルの頭の上に乗っていたモンまで飛び降りて、ジャミルの隣に
並び、ちょこちょこ頭を下げる……。
「おい、場所ぐらい教えてやったっていいだろ、教えてやれ……」
家の中で新聞を読んでいた亭主らしきおっさんがおばさんに言う。
おばさんはやれやれと言った様子で溜息を付く。
「……確かこの村から北東の方角に希望の泉と呼ばれる泉が有る森が
あった筈だよ……」
「有り難う!それだけ教えて貰えりゃ十分だよ!じゃあ!」
ジャミルはおばさんにお礼を言うとダッシュで駆け出す。ジャミルの
姿が消えるまで、その様子を複雑そうな顔でおばさんが眺めていた……。
「やれやれ、おかしな子だよ、……くれぐれも気を付けてお行き……」
事は簡単だった。奴らは只の盗賊。普段モンスター相手に戦っている
ジャミルには、はっきり言って、まるでウンコだった。教えて貰った
森の奥まで進むと、ティルとアイシャを人質にふんぞり返っている
賊共が……。ティルは突然現れたジャミ公の姿に最初びっくりしては
いたが……。
「……ジャミルさん!」
「待ってろ、ティル、今助けてやるからな……」
「なんだあ~?兄ちゃん、村長の遣いのモンかい?に、しちゃ、恰好が
ヤケに賊みてえだが……」
「もしかして、俺らの同族か?えー?どうなんでい!?」
「うるせーーっ!お前らと一緒にすんなーーっ!俺は今スゲー機嫌が
悪ィんだっ!とっととシメさせて貰う!ティルとアイシャも返して
貰うぞ!!」
「モンっ!モンっ!」
(頑張ってっ、ジャミ公っ!か弱いアタシはいつも通り、後は任せたッ!)
ジャミルはヴァルキリーソードを構え、戦闘態勢に入り、サンディは
身を隠し、モンも身構える。
「……そうかい、ならオメエもふん縛って人質にしてくれるーーっ!!」
……ドカ!ゴスッ!
あっという間に、僅か数秒でケリが付く。一応は脅しとカッコを付ける為、
ヴァルキリーソードも構えてみたが、奴らには跳び蹴り数発で十分だった。
賊2人はジャミルに顔面を思い切り蹴られぶっ倒れる。前歯も折れていた
様だったが、構わずティルに駆け寄ると、急いで縛っている縄を解きに掛かる。
「こいつら当分目は覚まさねえだろ、ティル、大丈夫か?ケガはしてねえか!?」
「うん、ボクは平気だよ、ジャミルさん、ホントに強いんだねえ~……」
「へへ……、よしっと、次は……」
次はアイシャの縄を解いてやる。だが、まだ意識を失ったまま。モンは
心配そうに早く目を覚ましてと言う様に、彼女の回りをパタパタ
飛び回るのだった……。
「モォ~ン……」
「大丈夫だよ、身体にも傷はないみたいだ……、!?」
モンにそう言うが、ジャミルは改めてアイシャを見る。彼女も一緒に
墜落した筈であるが、今回、傷一つ付いてないんである。……彼女の
運の良さ、タフさに怯えるジャミルであった……。
「何か俺、……スゲー怪我したってのに、情けなくなって来たわ……」
(マ、それだけ貧弱体質ってコトじゃネ?)
「ガングロ、後で覚えとくよーに……」
(やーなこったッ!)
「そっかあ、このおねえさんもジャミルさんのお友達なんだね……」
「ああ、大事な仲間だよ、一緒に墜落して、行方不明だったんだ、あと2人、
ダチが何処かに流れ着いてる筈なんだ……、後な……」
ジャミルはモンをティルにも紹介する。もう言葉を話す事は出来ないが、
ティルは人懐こいモンを見て、喜んで感激し、2人は直ぐに仲良しになった。
ちなみに、賊共は目を覚ました後、泣きながら走って何処かへ逃げて行って
しまった様である。
「モン、宜しくね、ボクはティルだよ!」
「モォ~ン!」
「処で、ここさ、希望の泉って呼ばれてる泉が有るって聞いたんだけど、
何か御利益でもあんのかい?」
「うん、此処の穴から通っていくんだよ」
ティルが指差す大きな木の下に、確かに何処かへ通じていそうな
小さな抜け穴が。ジャミルなら、屈んで、ギリギリで通れるかも
知れなかった。
「モン、少しアイシャを見ててくれるか?すぐ戻るから……」
「♪モンッ!」
眠っているアイシャをモンに見守っていて貰い、ジャミルはティルの
後に続き、抜け穴を通って泉が有ると言う場所へ辿り着く。
「此処が希望の泉なのか……」
「うん、ボク、村長さんに叱られた時や、悲しい時は此処に来るんだよ、
気持ちが落ち着くの、……本当はね、教会を出た後も、自分で此処に
来るつもりだったんだけど、あの変な人達に捕まっちゃって、結局
此処に連れてこられちゃった、心配かけてごめんね……」
「ん、いいのさ、お前が無事だったんだからよ……」
「ジャミルさん、……うん……」
ジャミルは笑ってティルの頭をぐしぐし撫でる。余所者として村に
来てから、ほぼ村八分状態で毎日辛い思いをしているティルも、
ジャミルに優しくして貰い、心から本当に安心していた。
「ナザムの人はよそ者嫌いなんだよ、ずっと前、村に住んでいた
女の人が、余所の男の人を連れ込んだせいで村中の人が酷い目に
あったんだって、ボクもよそ者なんだ、遠い町から親戚のおじさんに
預けられたの、おじさんはジャミルさんにも出て行けって言ってるん
だよね、……これからどうするのかなあ……、あの黒いドラゴンを
追い掛けて行ってもまたやられちゃうかも知れないし……」
ティルは下を向く。過去にあの村で何があったのか良くは分からないが、
それに託け、余所から来たティルを逆恨みするとは、何とも酷い話で
ある……。ジャミルは元々、何時までもあんな処いるつもりはないが、
ティルはこれからもあの村にずっと滞在しなくてはいけないのだから。
自分がいなくなれば、ティルはまた村で1人ぼっちになってしまう
だろう……。
「そうだ、ドミールにいるグレイナルにならチカラを貸してもらえるかも!」
「……ドミール?グレイナル?確か……」
村長がブツブツと呟いていた言葉に出て来た名前である。彼の地に
滞在する英雄らしいが。
「グレイナルに会うにはドミールに行かなくちゃならないんだけど、
ボク、いいことを知っているんだ、村の人達がヒミツにしている
ナザムの言い伝えをジャミルさんにも教えてあげるね!」
「「ドミールへの道を目指す者、現れし時、像の見守る地に封じられた
光で、竜の門を開くべし……」」
「像の見守る地っていうのは、此処からずっと西にある魔獣の洞窟って
呼ばれているところらしいんだ、でも、その洞窟の入り口は封印されて
いて、誰も入れる方法を覚えていないんだって……」
「魔獣の洞窟か、成程ねえ……」
「くやしいなあ、こんな時にジャミルさんのお役に立てないなんて……」
「い、いや、ティルは世話になりっぱなしだよ、気にしねえでくれや、
どっちみち、残りの仲間達を見つけねえと、俺も真面に動けねえしよ、
はは……」
ジャミルは悪戯っぽくティルにおどけて笑ってみせる。それでも、
ティルはジャミルの為に何か力になりたくて堪らないらしい。
「ボク、村に戻って色々調べてみる!だから……、ジャミルさんも
もう少し、ナザムにいてくれる……?」
「ティル、分かったよ、ありがとな、んじゃ、一旦村に戻るか、
送っていくよ」
「うんっ!行こうっ!」
嫌な村でも、ジャミルがいてくれればティルは嬉しくて仕方が
無いのだった。外へと戻ろうとすると、……ふと、何か泉の方で
気配を感じ、ジャミルは振り返る……。
「ジャミルさん、どうかした?」
「……い、いや、ティル、先に行ってモンと待っててくれ、この泉を
ちょっと調べて行くからさ……、ちょっと気になってさ」
「わかった、気を付けてね……」
ティルは再び穴を潜って先に外に行く。ティルがいなくなった後、
妖精モードのサンディが場に姿を現す。
「ジャミル、アイツだよ、あの女……」
「ああ……」
「また……、此処に帰って来てしまった……、あの人を見つける事も
出来ずに……」
泉の縁に現れたのは、旅の途中でこれまでも何度も目撃している、
フードを被った、悲しげで虚ろな表情の女性だった……。
「あんた……」
「あなたは何処かで……、あなた、私の姿が見えるのね……」
姿は何度か見掛けたものの、これまですれ違うだけだったジャミルと
フードの女性は遂に会話を交わす。女性はゆっくりと、ジャミルの側に
近寄って来た。
「……」
「これまで誰も私の姿を見つける事は出来なかったのに……、ねえ、
あなた、一つお願いがあるの、今の私には出来ない事だから……、
ナザム村に置いて来た大切な物を探して来て欲しいの……、守護天使の
像、足下、其処に隠してある、……お願い……、見つけて……」
「え?あ、あっ、ちょいお待ちっ!ああっ!」
ボケっとしている隙に女性は消えてしまう。しかも、ワケの分からん
お願い事を頼んで消えてしまい、ジャミルは慌てる。
「いいじゃん、あの女と接近するチャンスじゃん!何モンなんか
聞きたいしネ!」
「んな事言ったってだな、……しゃーねえなあ、チビ達も待たせてるしな、
一旦戻るか……」
サンディはジャミルの中に消え、ジャミルもティル達の元へと
急いで戻る。ルーラがある為、直ぐにナザムへ戻る事は可能である。
「悪かったな、待たせちまって……」
「ううん、いいんだよ、それより希望の泉に何かいたの!?」
「……えっとだな、その……」
返答に困るジャミ公。ティルはワクワクしながらジャミルの顔を
見ている。
「……サンディガマガエルっつー、都市伝説になってる様な、
幻のドス黒いカエルがいた様な気がしたんだけど、気の所為
だった……、……うげっ!!」
直後、ジャミルはサンディにグーパンチで腹を殴られたのだった。
「い、いてて、んなろお~……」
「そっかあ~、そんな不思議なカエルがいるんだね、ボクも
見たかったなあ……」
(ジャミ公っ!……アンタ後で覚えてなさいヨッ!)
「お断り致す、……直ぐ忘れる!」
「モン、プププ、プッ……」
「あ?モン、オメー今何か、アルみてーな黒い笑い方したなっ!?」
(ちょ、デブ座布団のクセにナマイキーっ!!)
「モォ~ン♡(知らんモ~ン♡)
「ジャミルさん達って、ホントに面白いなあ~、ふふっ!」
ティルは揉めているジャミル達の姿を見てくすくす笑う。サンディの
姿だけは見えないが。
(あのね、ボク……、ジャミルさんを困らせたくないから言わないけど、
本当は……、ジャミルさんが村に住んでくれたら……、毎日どんなに
楽しいかなって思うんだ、ダメだよね、ワガママを言っちゃ……)
「ん……」
「あれ?おねえさん……」
「アイシャっ!!」
其処へ、アイシャが漸く目を覚ます……。墜落してからずっと気を
失っており、立った今、目を覚ました彼女は状況が分からず目を
パチクリさせる。
「アイシャ、分かるか?俺だよ、サンディもモンもちゃんといるぞ、
……無事だぞっ!」
(アイシャ、ダイジョーブ?アタシ、サンディちゃんヨ!)
「モンっ、モンーっ!」
「ジャミル、サンディ、モンちゃん……、モ、モンちゃ……、
ふぇっ……」
「……モン~……」
モンは目を覚ましたアイシャの姿を見て、目を潤ませる。モンは
アイシャの腕の中に飛び込み、アイシャもモンの無事を喜び、力一杯
抱き締めるのだった……。
「良かった、無事で、本当に……、心配……したんだよ……」
「モンっ、モンーっ!」
「モンちゃん、まさか……」
直後、アイシャはモンの様子がおかしいのに気づき、ずっと側で
見守ってくれているジャミルの方を見るのだった……。
「分かるだろ?女神の果実の欠片が無くなった今、もうモンは
俺らと直に会話は出来ねえんだ、でも、これからも、ずっと
ダチなのは今まで通りだよ、大切な仲間だ……」
「モンちゃん……、うん……」
「モン……」
アイシャは流れて来た涙をそっと拭うと、改めてモンの顔を見、
再びぎゅっと抱き締める。
「私達、友達だね、これからも、ずっとずっと……」
「モォ~ン!」
「……ティル、悪いな、直ぐに送っていこうと思ったんだけど、
もう少し待っててくれるか?アイシャが落ち着くまで休ませて
やりたいんだよ……」
「うん、ボクは平気だよ!」
「……あれ?この子……」
泣いていたアイシャはティルに漸く気づく。此処で休んでいる間に、
墜落してからのジャミルの今までの足取りとアルベルト達の事も
話しておこうと思ったのだった。
「そっか、この子がジャミルを助けてくれたのね、ありがとう……、
改めまして、私はアイシャよ、宜しくね……」
「はじめまして、アイシャおねえさん!ボクはティルです!
どうぞ宜しく!」
「さ、村に戻るか、朝になっちまうからな、アイシャ、大丈夫か?」
「ええ、アル達の事も心配だけど、絶対に会えるって信じましょ!
元気出さなくちゃ!」
「モンモン!」
アイシャはガッツポーズを取り気合いを入れる。モンの無事も分り、
ジャミルにも再会出来、安心したのか、段々元気が戻って来た様だった。
しかし、ティルに助けて貰った事は、ちゃんと彼女にも伝えたのだが、
あの陰険村の事はどう説明すべきか悩み処だった。ティルもいる
手前で……。村に行けば、嫌でも分かるだろうが……。
「とにかく行こう、ティルもアイシャも俺の近くに寄れ、アイシャ、
モンは大丈夫か?」
「ええ、しっかり抱いてるわよ!」
「モォ~ン!」
「よし、行くぞっ!ルーラっ!!」
……只今、瞬間移動中……。
「わあ~!」
ジャミルがルーラを唱えると、一瞬でナザム村に到着。初めて見る
魔法にティルは大感激。だが、村の門前でジャミル達を待ち構えて
いる集団が……。村長を始めとする、凄い剣幕表情の村の大人達
だった……。ジャミルはどうせ又、自分が睨まれているんだろうと、
何を言われても覚悟はしていたが。
「ジャミルさん、待ってて、ボク、村長さんに謝ってくるよ!」
「ティル!」
ティルは駆け出し、村長と村人達の処へ。村長や村人へ、ぺこりと頭を
下げるのだった。
「ティル、お前……」
「村長さん、皆さん、ごめんなさ……」
だが、ティルが謝り終える前に、ティルに平手打ちが飛んだ……。
「……お前はっ!!」
「そ、村長、さん……」
ティルは村長に叩かれた頬を摩る。まだ幼いティルの頬はみるみる、
真っ赤に腫れ上がる。
「……酷いっ!!」
(あちゃあ~……)
「シャアーーっ!!」
「て、てめっ、このクソ爺っ!もう勘弁なんねえっ!!」
「余所者は黙っていろっ!!ティル、お前のした事は謝って
済まされる物ではない、見ろ、皆、お前のやらかした事で夜も
眠れないのだぞ……」
(ケ、探しにいこーともしねーでサ、よーく言うわよネ……、
このオヤジ……)
「ティル、お前は暫く家に監禁だ、それから其処の余所者もだ、
……話を聞かせて貰う、大人しくしていて貰おうか……」
「な、なっ!?」
再びジャミルは怒りが爆発しそうになる……。自分達は全く
捜索に動こうとせず、全てジャミル達に任せた上、無事に
連れて来ればこのザマである……。
「……ジャミルさん、アイシャさん、モン、ごめんなさい、
ボクの、ボクのせいで……」
「いいんだよ、何でオメーが謝るんだよ……」
「そうよ、ティルは何も悪くないじゃない……」
「モーン……」
「ごめんな、さい……」
早く出て行けと急かした村長だが、結局、ジャミル達も村長宅に
連れて行かれ、部屋に押し込められてしまった。ジャミル達は
普通の部屋だが、ティルは仕置きとして、地下部屋に幽閉されて
いる。ジャミルは何とかして、地下部屋で独りぼっちで淋しい
思いをしているであろう、ティルと話をしたいと思うのだったが……。
あれから夜が明けて、時間はどんどん過ぎて行く。話を聞かせろと
行ったきり、村長はジャミル達のいる部屋には来ない。しかも村長は
村にいる知り合いのガタイのいい男に頼んで、ティルのいる
地下部屋への階段前の通路にわざわざ見張りを付けさせた。
別にジャミルならこれぐらい、すぐブン殴って気絶させられるが、
又騒ぎになってしまう恐れも有り、どうしようも出来ないのだった……。
「私がラリホーを使えれば……、はあ……」
「気にすんなよ、でも本当、こう言う時、やっぱ皆揃ってた方が心強いのは
確かだけどな……」
「そうね……」
ジャミルもアイシャも大きな溜息を付く。未だ行方の分からない、
アルベルトとダウドは一体何処に、今、どうしているんだろうかと
考えると不安で堪らなくなってくるのである。
「モォ~ン……、モン、モン……」
「モンちゃん、大丈夫よ、おいで……」
「モン……」
モンはアイシャの腕の中へ。アイシャは、モンのしょんぼりした
顔を見て、自分がもう喋れなくなってしまい、ジャミル達と
コミュが取れず、お手伝い出来る事が少なくなってしまった事が
歯がゆいのでは……と思う。
「そうだ、お兄さん、いい事思いつきましたよ、ひっひ!」
「……え?」
「モォ~ン?」
アイシャもモンもジャミルの悪戯っぽい表情に首を傾げる。
ジャミルは自分の中にいるサンディに声を掛け、呼んだ。
「ガングロ、おい、出て来てくれや……」
「……何よ……」
素のままのサンディが出てくる。だが、サンディは自分を見て
ニヤニヤしている嫌らしい表情のジャミ公を見て、怪訝な顔をした……。
「おま、ティルの処に行ってくれよ、姿消せば、お前なら黙って
通っても分かんねえだろ
……」
「あっ……」
「ちょ、何でわざわざアタシがっ!?……地下なんかホコリくさい
じゃん!やーよっ!」
「頼むよ、あいつの前ならもう姿見せても大丈夫だろ?言葉を
伝えて欲しいんだ、絶対に地下から助けるから、だからもう少し
頑張れ、元気出せって!ティルを少しでも安心させてやりたいんだ、
頼むっ!!」
「お願いよ、サンディ、私からも……」
「ジャミ公……、分かったわよッ!その代わり、ダイショーは
大きいわヨっ!覚悟しなさいよ、アンタッ!!」
「おう!勿論っ!」
(……全くッ!サンディちゃん使いが荒いんだからッ!)
サンディは発光体になり、姿を消すと男がいる階段方面まで
飛んで行った。どうか、ティルが少しでも寂しくない様に、
不安が消える様に、希望を持って欲しいと……、そう願わずに
いられなかった……。
「でも、どうするの?ジャミル……」
「そりゃ勿論、あのクソ村長に訴えるんだよ、ティルを地下から
出せって!……どうしても、話を聞いて貰えねえのなら俺は……」
「ジャミル……、あら?」
「……ぶ~が、ぶ~が、モンモン……」
何時の間にか、アイシャに抱かれたモンが眠ってしまっていた。
疲れたのである。アイシャはそっとモンをベッドに降ろし、
このまま静かに眠らせてやる。
「お腹も空いてると思うのに……、モンちゃん、怒って変顔にも
ならないわ……、そうね、……もう言葉、伝えられない物ね、
ストレートにお腹空いたって……」
そう呟きながらアイシャは、眠っているモンのお腹にそっと触った。
「ジャミル、私ね……」
「あ?」
「今思うと、モンちゃんと一緒にお喋り出来た時間は凄く宝物なの、
私、モンちゃんが変な言葉ばっかり言う度に、つい怒っちゃったり
したけど……、あの時が懐かしいな……」
「……」
ジャミルはかつてダウドの頭に乗って楽しそうに暴言を吐きながら
下ネタ太鼓を叩いていた元気なモンの姿を思い出す。……叶うなら、
もう一度、モンと……。
「……あ、ごめんね、しんみりさせちゃって、私達が元気ださなくちゃ
いけないのにね、でも、やっぱり淋しいなって……」
アイシャはそう言いながらモンのお腹を触り捲る。ふよふよして
気持ちがいいらしいが、彼女なりに、又泣きそうになるのを堪えて
いる為でもあった……。
「……むにゃむにゃ、モンモン……」
「はあ、寝言かな……、たく、後生楽座布団め……」
「ふふっ、かもね……、夢の中では楽しくお喋りしているのかな……」
「だと、いいな……」
「モンモン……(ジャミルのちんちん、どうしても小さいんだモン……)」
……それから暫くして、部屋のドアが開き、ティルが姿を見せた。
村長も一緒にいる……。
「ジャミルさん、アイシャさん、モン!ただいまーっ!」
「ティルっ!よ、良かった、お前……、あ……」
「……」
しかし、喜んでいる暇はあらず、怪訝そうな顔をした村長がティルの
横に並ぶ。だが。
「……色々と取り乱したりして、大人として申し訳ない態度だった、
済まない……、だが、お前達に早く此処を出て行って貰いたいと思う
気持ちは変らん、本当にティルを見つけて来てくれた事は感謝している……」
「村長……」
ジャミルとアイシャは目をパチクリさせる。態度は相変わらず良く
無いとは言え、あのおっさんがジャミル達に頭を下げたのである。
心境の変化なのだろうか……。
「……もう暫くの間、身体を休める事を許そう、だが、なるべく早く
村を早く出て行く様に……」
村長は部屋を後にする。が、どうしても村から早く出て行ってくれと
言う言葉だけは絶対に外さないのであった……。
「わっけわかんねえなあ~、あの親父もよう~……、話はいいのか?」
「……フウッ、ちょーどアタシが地下部屋でティルと話してた頃にサ、
いきなりあの親父が来たワケよ、で、ティルを連れて来てくれて、
あーなったワケ……」
「そうか、サンディ、悪かったな、色々とさ……」
「うん、それでネ、ご褒美だけどネっ、思いっきり全力でいくかんネ!
いいっ!?地上でめっけためっちゃブランドモンの化粧水っ!!」
「ハア!?きこえなーい!?」
「……ジャミ公ッ!ケツ、お出しッ!ぶっとばーすッ!!」
「ジャミルさん達、本当にありがとう、サンディから聞いたの、
ボクをはげましてくれたんだね、ボク、すごくうれしかったよ、
それに、サンディとも友達になれたし、もう、ボク、ひとり
ぼっちじゃないんだね!」
「あたりまえっしょ!ホラホラ~、も~っと可愛いサンディちゃんの姿、
見てもいいのよ~?」
「うんっ!見せてっ!わあ~、明るい処で見ると、サンディの羽って
すごく光ってる!」
ティルはすっかりサンディに夢中で、サンディも女王様気分である。
このまま、約束の件、忘れてくんねーかなと思うジャミ公……。
「ダメよ、ジャミル……、約束は約束なんだから……、ね、サンディ、
私達、余り高い物はお礼が出来ないけど、今度新しい町に行ったら、
お揃いのアクセサリー一緒に見ようよ!」
「ん、しょーがないなあ、ま、それでいいわ、許してあげる!」
「……と、言う事なの、ジャミル、サンディと一緒に私の分の
アクセサリーもお願いっ!」
「女子ドーシ、オソロでネッ!」
「ハア!?聞こえなーい、パート2!!」
「「……ジャーミールうううーーっ!!」」
色々と大変な目に遭い、心も荒み掛けていたジャミル達だが、
又、明るい兆しが戻って来そうだった。後は一刻も早く、
アルベルトとダウド、2人に再会出来る事が、今のジャミル達の
願いだった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 54