刑事、坂本詩織 只今謹慎中になり

恋人との別れ

刑事、坂本詩織 只今謹慎中になり  

「ねぇ義則さん、私に何か隠していることない?」
「なんだよ突然、俺が何を隠していると言うんだ」
「あらどうしてそんなにムキになるの、何も無ければ軽く笑っていられるのに」
「…………」
「そう言えないのならハッキリ言ってあげる。義則さん妻子がいるでしょう。嫌とは言わせないわ。なんなら奥さんに電話をいれて確認しましょうか」
「な! 何を言っている。そんな筈ないだろう」
「まだ言い訳する気、私を一年間も騙し続けたのね。私はただの遊び相手なの? 許せない、信じていたのに」
「五月蠅い! 信じないのなら別れよう」
「そう開き直るの。誤解だよ、信じてくれと噓でもいいから言ってほしかった」
「それがどうした。俺達そろそろ潮時だな」
「わたし意外とプライドが高いの。こんなに傷ついたのは生まれて初めてよ。もう二度と会わないし顏も見たくない。最後にこれまでのお礼をするわ」 
「ふん、たかが女だろう。どうお礼をしてくれると言うのだ。殴られたくなかったら消えろ」
「それって今まで付き合って来たセリフなの。私を甘く見ないで、騙して私が悪いですと土下座するなら勘弁してやってもいいわ」
「ふざけるな! 二度と人前に出られないように顔の形を変えてやろうか」
「あら、どちらの顏が変わるのかしら」
詩織はそう言い終わって、逆切れした義則にいきなり強烈なパンチを浴びせ立ち上がろうした所へ足蹴りを喰らわせた。更に数回蹴り続ける。みるみる内に顔は腫れあがり失神寸前となった。
「いったい君は何者なんだ。確か公務員と言ったよな」
「公務員だって色々あるの。貴方が私を騙した報いよ。文句あるのなら警察でも何処へでも申し出ればいいわ。それとも私から奥さんに報告しましょうか。もう二度と合わないし顔もみたくない。さようなら」

一年ほどの付き合いだったが義則は大人であり若い男と違い魅力的だった。だから夢中になり過ぎ彼の本性を見抜けなかった。自分が警察官である事を忘れかけていたのか。恋とは怖いものだ。人の心理を読める事には長けているにも拘わらず恋は盲目というのか。そんな自分が情けない。騙された事が悔しくて、ぶちのめしてやった。多分全治一ヶ月くらいかも知れない。その後も会ってもいないし音沙汰なし。女が男をぶちのめしたのだから普通ではない。それもそのはず警察学校でみっちり鍛えられた実績がある詩織だ。並の男では歯がたたない。相手の男は被害届を出さなかった。いや出せなかった。下手に出せば事が公になり妻に言い訳が出来なくなる。一方、詩織は素直に上司を飛び越えて署長に報告した。
「あの~ちょっとお話があるのですが……」
「なんだ? おまえから話とは穏やかではないな」
「実は私的な事で……」
「なんだ? モジモジしてお前らしくないぞ」
「それが人を殴って怪我を負わせてしまって」
「なに、被疑者を取り押さえる時の事か、まして抵抗したとあれば正当防衛で許される範囲じゃないか」
「それが交際相手でしって」
「なに? おまえでも人並みに恋愛するのか」
「まぁ一応年頃の女ですから」
それからこれまでの経過を話した。
「妻子ある相手だと。おまえ刑事だろう。家庭持ちと見抜けなかったのか。ところでお前の職業は話してあるのか。でっ、相手は被害届を出したのか」
署長は矢継ぎ早に質問した。
「いいえ、公務員としか言っておりません。もう数日ほど過ぎましたが被害届は出されていないようです」
「まぁそうだろう。被害届を出せば妻にも浮気している事がバレて会社での立場も危うくなるからな」
「申し訳ありません。反省しています。どのような処分が下されようとも甘んじて受けます」
「うむ殊勝であると言いたい処だが交際相手を殴るなんて、お前はいったい何を考えているんだ。警察官である事も忘れおって日頃、目を掛けてやっているのに俺の顔を潰すつもりか……まぁいい少し頭を冷やしてこい。本来は自宅謹慎だがお前みたいな狼は部屋に黙って入れて置いたら何をしでかすか分からん……署長特権として特別に許可してやる。何処が旅でも出て英気を養うか。それともいい機会だ。警部補の昇進試験の勉強でもするか好きにしろ」

刑事、坂本詩織 只今謹慎中になり

刑事、坂本詩織 只今謹慎中になり

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work