品質管理課

蝉の命

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蝉の命

「おはようございます。今日からお世話になります。宜しくね」
藤原拓也はその瞬間、自分の目を疑った。色とりどりの洋服を着て、手には指輪、首にはネックレス。拓也はなんだ、この人達はと思った。そこへ課長がやって来た。どうやら。この一向は派遣からの人達であった。しかし、場違いの人みたいな気がして、察しはつくが拓也は尋ねた。
「あの、女性ですか」
「当たり」
またまた、その瞬間、拓也は驚いた。そして、彼女らの股間に目をやると、もっこりしている。そこへ課長が一言。
「拓也君、この人達は女性であるが、男だ。体力はある、バリバリ鍛えてくれ」
どうやら、彼女らは男である。しかし、結構、転職してきた拓也であったが、なんか、場違いの人達に出会ったのは初めてであった。
「皆さん、宜しくお願いします」
「おす」
拓也は低いドスの濃い声に男だと確信した。
「あらっ、あたしのロッカーは」
「リーダー。ロッカー室の前で派遣の皆さんが騒いでます」
拓也が駆けつけると、ロッカー室は男と女と別々の部屋である。拓也も迷った。ピンクのシャツを見てるとつい、女性かと思ってしまうが、れっきとした男である。男性ロッカーを使う事で一件落着した。勤務が終わり、男性社員がロッカーへと入っていった。
「どうも失礼」
あまりの強い香水の匂いに、女性ロッカーと感違いしてしまった。翌日から仕事に入る。
「明日からは遅刻しないように」
「あ〜ら、あたし遅刻しないわよ」
派遣の中でも目立った存在の。荒木慎之介が一言言った。拓也は慎之介の名前を聞いて、あっ、歌手のピーターが頭に浮かんだ。拓也は仕事の帰りに書店に寄った。ニューハーフの本はないだろうか。しかし、見当たらず家路へと向かった。翌日、課長に呼ばれた。
「課長。何故、ニューハーフの派遣さんばかりやって来たんですか」
「ごめんごめん、伝えるのを忘れてた」
「はい、前もっていってくださいよ」
「たまたま、偶然派遣さんに、ニューハーフさん達がやって来たらしいんだよ」
「そうですか、その後の言葉は聞かないでいた」
拓也は、製造業の経験がある。慎之介を派遣のリーダーに抜擢して、派遣さんの管理を、うまく、やってもらおうと思った。ニューハーフさん達は、初日から仕事ぶりは真面目で誰1人遅刻するものはいない。ただ、仕事の手順を覚えるのが苦手な人が数名いた。アルミのバリ取り作業は、長時間やってると手が痛くなってくる。拓也は、ちょっこチョコ小休憩をとってやった。そこへ、拓也の直近の上司の係長の牛田がやって来た。
「明日、四国の愛媛県に出張だ。派遣さんも数名連れて行く、朝早いから、みんなに遅刻しないようにと伝えてくれ。仕事は簡単だから」
拓也他、派遣から3人に係長に総勢8人で車3台に乗り込み出張となりました。北九州から大分は佐伯のフェリー乗り場まで。とにかく、派遣さんは、元気がいい、片道四時間の道程は会話が途絶えないでいた。同行している係長は同僚達の評判はあまりよくなかった。牛田と言う名前は影では、ウッシーと呼ばれている。四国は松山市内に着いた途端。係長の口から信じられない言葉が飛んだ。
「まだ、夕飯まで時間がある。今日は仕事はないから、パチンコ屋に寄ってくか」
こないだ、拓也が読んだ本によれば、管理職になって、パチンコはやるもんじゃないそうだ。そろそろ係長の寿命もそこまでかなと拓也の脳裏に浮かんだ。そう考えながら、パチンコ屋に立ち寄りしたが1時間で切り上げた。夕飯は居酒屋で頂く。
「俺のおごりだから、じゃんじゃん食べていいぞ」
その時は意外な係長の言葉に、えっと思ったがのちに全部会社の必要経費で落とされていた。後に係長の汚点が発覚されたのは、理解出来る。今は係長には知る余地もなかった。
拓也は人は外見だけじゃわからないな。ニューハーフさん達は本当に仕事を一生懸命する人達である。それに比べて係長。垢でも飲んでもらいたいもの。拓也はひとりニヤけていた。
在庫品の全数検査にやってきたが、製品の形を仕分けするだけの簡単な作業でした。拓也の初めての出張は、旅行気分って感じ。今日は作業は中止らしい。朝から工場の敷地の草むしりである。やはり、派遣さんは賑やかである。拓也の部署が来週で閉鎖されるみたいだ。入社から半年が経ち。社内では倒産の噂が流れ始めた。そんな中、昼からは、ぜんざい会が催された。そこへ美咲早苗がやって来た。拓也が早苗に問いかけた。
「会社の経営が傾いてると言う噂が」
「そんなことないわよ。それより、朝から食堂に最近、チョコレートパンが二つ置いてあるの、拓也さんの」
「それあたしの」
「派遣さんのね〜」
「だって、弁当美味しくないんだもの」
「あっ可愛い、その喋り方」
このさりげなくつぷやいた弁当が翌日問題になった。派遣さんらが、弁当屋変えたらと提案してきた。拓也の提案で、アンケートをとることになる。すると、美味しくないという意見が圧倒的多数を占めている。そこへ、横から口を出してきたのは、工場のお局様、佐藤嬢であった。この弁当屋は佐藤嬢が数ある候補者からリストアップして選んできたのである。
しかし、佐藤嬢も派遣さん達の圧倒的な反対パワーには勝てなく、弁当屋さんを変える事になった。そこへ、会社一の情報通の武田君がやって来た。情報によると、本社から、やかましもので名をとどめている、永田課長が転勤して北九州支社にやってくるというのだ。
午前7時半事務所の電話がけたたましく鳴り響いた。朝早くから出勤してる係長が受け取ると、相手は藤原拓也である。
「今日休ませて下さい。腹が痛くて」
「早く治せよ」
「はい、かしこまりました」
近くにいた、早苗が声をかけてくる。
「今週も月曜日に休みよ。この3週間続いてるわね。理由は風邪に始まって2度目は頭痛3度目は腹痛」会話を聞いていた課長が。
「月曜病じゃないか」
「課長、土曜日は一緒に飲みに行ったんじゃ」
「元気よかったぞ、マイクは手放さないし。日曜日はゆっくりするといってたけどな、今週は本社から永田課長がやって来るからな。課長の耳にでも入れば、一大事だぞ。
「でも、火曜日はちゃんと来てますよ」
「職場ではどうなんだ」
「バリ取りの仕事が終了して。毎日、仕事なくて掃除してますよ」
「そうか」本日は管理職一同集まっての社内会議である。議題は、拓也の進展についてであり、会議では協力会社に出向という案でまとまったらしい。
しかし、翌日も翌々日も拓也は会社を休んでいる。明日は永田課長がやって来る。拓也は、案の定、月曜病であった。月曜病とは「五月病」に似たものに、「ブルーマンデー(月曜病)」があります。週明けの月曜日に体調が悪くなる、前日の日曜日の夜は寝付けなくなる、会社や学校に行きたくなくなるなど、月曜日特有の心身の不調を指して「ブルーマンデー(月曜病)」と呼ばれています。ブルーマンデーの原因は、例えば「朝から会議がある」「仕事が上手く進んでいない」などのマイナスの状況です。 このような心理状態で月曜日を迎えることほど辛いものはありません。もし、商談はまとまり、業績はうなぎ登り、仕事は順調、ワクワクした気分であれば、月曜日の朝はきっと爽やかに迎えられることでしょう。金曜日、朝から拓也はやって来た。胸ポケットには退職願が閉まってある。拓也は薄々と出向という言葉は頭にあった。やって来た、永田課長は、拓也の事を課長から聴いて、すぐさま応接室に呼んだ。拓也は永田課長の顔を初めて見た。なんか、鼻が凹んでるようだ。
「藤原君、仕事はうまく言ってるか、その胸ポケットになにか入れてないか」
「はい、退職願を入れてます」拓也は永田課長の言葉にビックリした。
「何を驚いている。もう勤続年数40年の私だよ。藤原君は何年になる」
「半年です」
「出向するのは嫌か」
「嫌です」
しばらく沈黙が続き、永田課長が口を開いた。
「ちょうどいい、派遣にやらせる仕事があるんだが、拓也君にまかせる。その代わり、身分は品質課だ。私は品質の課長でやって来た。私の下で働いてもらう」
「はい」
「藤原拓也君。これだけは覚えとけ、忠告だ。会社の扉を開けたら、そこは戦場と思え」
平成25年師走
胸を張って出勤して来た拓也であった。事務所の扉を開けると誰もいない。会議室にみんな集まってるみたいだ。
「どうしたんですか、みなさん」
「永田課長が急死した」拓也は信じられない様子で立ちすくんだ。今日の深夜1時に心不全で社宅から救急車で運ばれたが午前2時過ぎに息をひきとった。突然の出来事に社内は仕事どころではなかったが、生産を止めるわけにはいかなかった。会社は明日から1週間の正月休みである。本社では皮肉な事に、急きょ、課長が亡くなった後の対策会議が始まっている。ここ東京にある本社。社長室に永田課長とは同期である。長友みつる平社員、58歳が呼ばれていた。
「はい、わかりました。宜しくお願いします」
長友さんは北九州配属であったが、5年前に本社勤務となりやはり加工から品質管理と現場でたたきあげた人物であった。彼の口癖は、上司に命令されると。
「はい、わかりました、宜しくお願いします」が定番の答えで本社では従業員200名の間では有名である。長友は永田課長の代わりに、平社員として北九州に戻る事になった。
平成26年1月
仕事初めの日に着任してきた長友みつるであった。朝の朝礼で、拓也は長友の顔を見た瞬間に、笑みをこらえた。なんと、永田課長に初めて会った時もそうだった。長友さんも、同じくして、なんか、鼻が凹んでいるのだ。ミノダ製作所にとって永田課長が亡くなったのは大打撃である。会社では極秘に自社のアルミ部品の技術を狙って携帯事業への進出を計画していた。この計画は既に15年前に案が練られていたが幻の事業となっていた。しかし、昨今の携帯及びスマホの目覚ましい復旧の勢いで再計画に社運をかけたのだ。
この事業は九州は熊本県の自社工場での生産である。とにかく、熊本工場では本家の自動車部品も同時進行である。とにかく熊本の主力社員を携帯に回し空いた穴の品質管理に平社員の長友みつる。また、藤原拓也に辞令が降りた。長友みつるに関しては事前に話が進められていたが、藤原拓也は実家が熊本という事で候補に抜擢。2人は週末の送別会を最後に熊本県は熊本市にある工場への配属になる。拓也は早苗に連れられて、工場の倉庫へと向かった。熊本工場に持っていく品物の準備である。拓也は倉庫に慄然と並べられている部品の箱らしいものを発見した。この倉庫に出入りしたのは三年ぶりである。それは、バリ取り作業で使われる部品であった。調べてみると。まだ、箱も開けたあとがない。新品である。係長が予測注文で大量に購入していた。すぐさま、係長は課長に呼ばれこっぴどく説教されたようだ。翌日。係長は平社員として熊本工場への転勤リストに入った。妻子もありまだ、子供も小さい為辞職願いも考えたが転勤を承諾したらしい。

拉致

拉致

北九州工場での最後の勤務。今日は携帯事業についての紹介が行われた。
ミノダ製作所では平成28年の実用化に向けての戦略である。
マグネシウムはアルミ二ウムより軽く、プラスチックより強い、電気・熱の伝導性が良い、リサイクルが可能など優れた特性を評価され、自動車部品、オートバイ部品ノートパソコンや携帯電話など、軽さが重要視されかつ強さの求められる分野で多く利用されています。当社では自動車部品やノートパソコンなどのダイカスト部品の製造を手がけている。
藤原拓也は産まれたときから30歳になるまでは実家のある熊本で暮らしていた。そして彼女がいた。彼女は心に疾患があった。この会社に入社する1年前に、熊本県は宇城市にあるショッピングセンターでデートをした際に。ちょっと目を離したすきに彼女は消息をたったのだ。まさか、北朝鮮に拉致されたのだろうか。彼女とはお爺さんが、囲碁仲間で親しかった、縁での出会い。彼女のアパートには1ヶ月過ぎても戻った形跡はなし、警察に届け出はだしている。両親は彼女が20歳の頃に別離したらしい。
平成26年3月
平社員、長友、牛田、藤原の3人は熊本工場へやって来た。熊本市の郊外に工場は位置していた。この工場では非正規社員として、派遣からブラジル二世の人達が現場の仕事の大半を占めている。長友は品質管理課、牛田は加工課。拓也は長友の下で、一応品質課勤務となった。品質課の課長には今年、本社から配属された、西野課長がいる。まだ26歳だ。早い出世であった。今日は歓迎会である。拓也は長友に課長って何か質問した。すると、長友はロッカーに向かい、ひとつの紙切れを拓也に見せた。拓也は絵とも字とも受け取れない、ただ、幼稚園の子供が書いたようなものを見せられ長友に聞いた。
「これっなんですか」
「なにをいうか、わからんのか、永田課長から、貰った」
「なんですか、サインですか」
「おまえ、顔を洗って来い」
拓也は長友が腹を立てたのが理解出来ないでいる。昼休みに、北九州工場の早苗に電話して、長友との事を相談した。
「あれは、長友さんが大事にしている。永田課長さんからのメッセージ」
「あの、意味不明な文字が」
「長友さんにとっては、宝物なのよ」
ついでに、拓也は、長友の凹んでる鼻について聞いてみた」
「なんでも、野球の試合で、ホームに突っ込んだら、鼻を骨折して、凹んだそうよ」
「今日は、呑み方でしょう、聞いてみたら」
拓也は、長友から毎朝早めに出勤して下請け会社からの部品の受け入れ検査をやるように命令され実行していた。最近、社内で風邪が流行している。品質課のメンバー。五人が犯され休んでいる。長友は野球で鍛えてるせいか、元気で1日課長を言い渡されていた。そんな時に限って、不具合が発生するのは皮肉だが、本日も嫌な予感が当たった。長友は席を立つわけにはいかない。出勤したメンバーは携帯関係。長友は決断した。
「藤原、モンダ自動車に行ってくれ」
「いきなりなんですか」
「人がいない」
拓也はまだ、品質のひの字も理解出来てない。おまけに自動車の事はあまりわからない。
部品の不良は確認出来たが。いったい、どこの部品だろうと理解出来ないでいたが、拓也は胸にしまっている。そうこうしながら、モンダ自動車に着いた。モンダ自動車には、下請けの会社の品質部が先に仕事をやっていた。拓也は、彼らを利用して、彼らに質問し、作業を指示して貰った。お礼に、仕事が終わり、たこ焼きを差し入れしたのである。

品質管理課

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  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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  2. 拉致